証券口座の新規開設が激減…元凶は政府肝いりのマイナンバー制度だった!?
1月は、証券口座の新規開設数が大きく減少したようだ。世界的な株価急落に見舞われ、投資家心理が急速に悪化したのもさることながら、国内に住むすべての人に12桁の番号を割り当てる「マイナンバー制度」の運用開始による戸惑いも見逃せない背景となっている。口座開設の際にはマイナンバーの提示が新たに必要となったが、投資家の間で十分に浸透していなかったことなどから、事務作業に停滞が生じたためだ。
申し込みの約4割に不備
「(口座開設にマイナンバーが必要だということについて)周知がうまくいっていなかった。口座開設にあたっての申し込み書類に不備が多い。1月の第2週までで、申し込みのうちの約4割に不備があった」
インターネット証券の一角である松井証券の和里田聰常務は1月27日に開いた平成27年4~12月期決算の発表記者会見でこう語り、始まったばかりのマイナンバー制度に“悪戦苦闘”している様子をにじませた。
同じネット証券のカブドットコム証券も、1月は口座開設申し込みの約2割にマイナンバーの提示をめぐる不備があったという。
マイナンバー制度の運用開始に伴い、新たに証券会社と取引を始める場合、投資家は口座開設時にマイナンバーを証券会社に提示しなければならなくなった。
一般的な流れはこうだ。証券会社が用意する申し込み書類に、マイナンバーを記入して提出する。それに加えて、本人確認書類も必要になる。市区町村に申請して交付を受ける「個人番号カード」を提示するか、まだ個人番号カードを持っていない人は、すでに届けられている「通知カード」や運転免許証など複数の書類の提示が求められる。
だが、分かりにくさや煩雑さを感じた投資家は少なくなかったようだ。マイナンバーや本人確認書類の提示忘れが目立ち、投資家と証券会社のやり取りに時間がかかった。「制度の産みの苦しみだ」。あるネット証券の幹部はこう話す。
大手にも影響及ぶ?
ネット証券の場合、昨年12月と比べた1月の新規の口座開設数は、マネックス証券が約7割減、松井証券やカブドットコム証券がともに約4割減となるなど、軒並み大きく落ち込んだ。
そもそも1月は市場環境が悪かった。原油安や中国経済の減速懸念、米国の追加利上げをめぐる警戒感など、複数の悪材料が絡み、市場は動揺。日経平均株価は約8%も下落した。こうした市場環境が、新たな証券投資への迷いにつながったとの声は少なくない。
ただ、マネックス証券やカブドットコム証券では1月、口座開設のための資料請求数が12月とほぼ同水準だった。これらネット証券では「株式相場が大きく動くときは、かえって新規の口座開設数は増加することが多い」との声もある。
業界大手の大和証券を傘下に持つ大和証券グループ本社は、毎月の新規の口座開設数を明らかにしていない。小松幹太最高財務責任者(CFO)は1月28日の決算会見で「マイナンバーの影響があったかどうかは十分な確証はない」としつつも、新規の口座開設数は「リーマン・ショックの後などと比べても、かなりスローな感じだ」と述べた。
NISAにも影響及ぶ
「貯蓄から投資へ」を後押しすべく、平成26年1月から始まった「少額投資非課税制度(NISA)」もほぼ同様の状況にある。
1月からは、NISA口座の開設にもマイナンバーの提示が必要となった。日本証券業協会によると、1月はNISA口座の開設数が昨年12月と比べて42・2%減の2万6814件で、月間としては過去最低を更新した。それまで過去最低だった昨年9月(3万6380件)をさらに26・3%も下回ったことになる。
マイナンバー制度の運用開始で、「投資家や証券会社の事務手続きが滞っているのではないかといった指摘もある」と日証協の岳野万里夫専務理事は語る。
口座開設をめぐる一連の混乱はあくまで一時的で、「マイナンバー制度の浸透度合いが高まれば解消していく」との見方が多い。
一方、「投資家に十分に行き届いていなかった」として、ウェブ上や郵送物などでのマイナンバー制度に関する説明内容を見直す動きもある。マネックス証券は「説明内容の改善を進めている。2月の口座開設数は、1月よりも上向くのではないか」と期待する。最大手の野村証券を傘下に持つ野村ホールディングスの柏木茂介CFOも「煩雑さがなくなるよう、案内資料や書式を分かりやすくするよう努めたい」と話す。