

インスタにハマっている人が喜ぶ秀逸新機能技術の取捨選択と意味づけによる差別化インスタグラムについて説明するマーク・ザッカーバーグCEO(筆者撮影)
フェイスブックは5月初旬に行った開発者会議「F8 2018」で、インスタグラムの新機能を発表した。
今回追加された主な機能は、最大4人で顔を見て話せるグループビデオチャット機能、サードパーティへのストーリーズAPIの公開、そして同じくストーリーズへのAR(拡張現実)フィルターの搭載だ。また攻撃的なコメントを非表示にする機能を搭載し、居心地の良い場所を保つことができるようにした
インスタグラムはフェイスブック傘下の企業。ビデオチャットやAR機能、人工知能によるコメントの検出などは、フェイスブックの技術力が背景にある。しかしすべての技術をフェイスブックやメッセンジャーに等しく盛り込むのではなく、取捨選択と意味づけ、活用方法を変えながら搭載しており、ユーザーがアプリをどのように利用しているのかをよく理解している。
インスタグラムのユーザーへの理解の深さは、競合であるスナップチャットを突き放す可能性がある。
フェイスブックが擁する女性や若者をターゲットとした写真を中心とするアプリは、スナップチャットを目の敵にしてきた。写真共有アプリにメッセージなどのコミュニケーション機能や、24時間で消える写真やビデオを投稿できるストーリーズの導入による対抗は、インスタグラムを大きく成長させる契機を作った。
一方のスナップチャットはアプリのデザイン変更でユーザーの増加やエンゲージメントが失速し、直近の決算が発表されてから株価は15%下落している。ビデオチャット機能を追加(筆者撮影)
フェイスブックが基調講演で公開したインスタグラムの機能向上を、意外に思われた人もいるかもしれない。なぜ写真を共有するSNSアプリにビデオチャット機能が必要なのか、という疑問だ。
そもそも、グループでのメッセージングならメッセンジャーやワッツアップがあるし、そこにはグループビデオチャット機能が備わっている。
しかし、フェイスブックが気にしているのは、ユーザーが気に入ってのめり込んでいるアプリを離れなければならない場面が存在することだ。グループビデオチャット機能も(筆者撮影)
インスタグラムでメッセージのやり取りをしていて話したいとき、iPhoneユーザーがフェイスタイムを使ったり、自社アプリながらメッセンジャーを起動したりしてインスタグラムを離れてしまうのを避けたい。そのためには、インスタグラムにビデオチャット機能を設けて、インスタグラムで見つけた写真を共有しながら話す機能を提供し、インスタ友達をインスタの中でコミュニケーションさせる仕組みを作ったのだ。
ストーリーズのARフィルターやサードパーティへの対応も、同じ観点でとらえるといいだろう。インスタグラム以外のアプリで顔への装飾やアニメーションなどのAR装飾を施したうえで投稿するという流れでは、写真やビデオを作成するために別のアプリを使う必要があった。また音楽ストリーミングサービス「スポティファイ」との連携の例では、聞いている音楽をインスタグラムのストーリーズで共有する際、人々はいったんスポティファイアプリに切り替えて画面キャプチャを撮り、インスタグラムに戻ってストーリーズに貼り付けていた。
こうした「インスタグラムのために、インスタグラム以外のアプリを使う」場面のうち、より顕著なものをインスタグラムに内包することで、アプリを離れる機会を減らそうとしていることがわかる。
いじめにつながるコメントを自動的に非表示へ
一方で、人々がインスタグラムを快適に使い続けるために、フェイスブックで盛んに研究が進む人工知能を活用することも発表された。すでに対立を生むようなコメントを非表示にする機能を実装してきたが、さらに進めて、いじめにつながるコメントを自動的に非表示にする機能へと進化させた。
新たな機能では、個人の容姿や性格を攻撃するようなコメントや、人々の心身の健康的な暮らしを脅かすコメントを自動的に表示しない機能で、グローバルコミュニティで有効化されており、コメント管理機能で個別のユーザーが無効化することができる。
これによって、インスタグラムユーザーは、アプリを使用していく中で、動揺したり、不快に思う機会が減ることが期待される。このテーマは、インスタグラムに限らず、SNS企業各社が取り組んでいる。
フェイスブックは人工知能による言語解析を、フェイクニュースやテロ組織による喧伝の拡散防止に役立てているが、インスタグラムではより「心地よいコミュニティ」の維持に活用されることになる。
写真のテーマから良い写真を発見する仕組みへ
このほかに、F8 2018では、新しい検索画面が披露された。すでにハッシュタグをフォローする機能が用意されているが、写真のテーマから良い写真を発見するための仕組みへと進化させる。新しい検索画面(筆者撮影)
フェイスブックは昨今のプライバシー問題、フェイクニュースの問題への対処に追われており、マーク・ザッカーバーグ氏は「より意味のあるつながり」を重視するプラットフォームへと転換すべく、デート機能などの追加を行っている。
一方、インスタグラムがフェイスブック傘下であることの認知率の低さ、フェイスブックユーザーよりも低い年齢層、女性に強いコミュニティを生かしながら、フェイスブックとは異なるソーシャルネットワークの姿を目指している。同じ企業の製品でありながら、相いれないユーザーをあえて混ぜようとしない戦略は、今後も成功していくのではないだろうか。