平成某年、四月。大学に無事入学した私は、迷うことなく演劇部のドアを叩いた。
華やかな大学のサークルの部室に比べ、そこはあまりにもむさくるしく、狭く、そして熱気に溢れた場だった。
「入部希望?」
煙草の匂いをぷんぷんさせながら、老け顔の男性が部室のドアを開けた。
「あの・・・脚本をやりたいんですが」
その男性は苦虫をかみつぶしたような顔で
「脚本は三年」
そう私に言った。
「はい?」
愛想の欠片もないその男の態度に若干腹を立てながら、私は小声で返事をして顔を上げた。
「脚本やりたきゃ三年頑張って? うちは素人は使わない」
どんだけ偉そうなんだと思いながら、私は
「じゃあプロなんですか? 貴方?」 とケンカ腰に言った。
「うちはどの公演も金を取ってる。最大動員数は500人。箱台も自分ら持ちだ」
ドアを開き、その男は私を部室の中に入れた。
「三年やる覚悟があるなら、その椅子に座って入部届書いて?」
テーブルの上には灰皿に山盛りの煙草とお菓子の空き箱。
(とんでもない大学に入ってしまった・・・)
私はそう思いながら、炬燵に足を入れ、愛用のペンを胸ポケットから取り出して、入部届にサインをした。
「行? イクさん?」
「コウです!」
半ば怒鳴り気味にそう返し、私は彼に入部届を渡した。
彼はニヤリと笑い
「本岡樫太。1年だ」
そう私に告げた。私は、今度こそ開いた口が塞がらず、呆然として、そして笑いながら
「よろしく」
やっとの事でそう答えた。
(いつになるか分かりませんが続きを書きます)