奥武蔵の風

109 羽田事故:余裕なき航空管制の悲劇

 ニュース報道では、正月2日に発生した羽田事故の原因が少しずつ明らかになってきた、と伝えています。

 それによると、海上保安庁の航空機が、管制塔からの「滑走路手前の停止線まで地上走行せよ、離陸順位1番」という指示を「離陸許可」と誤認して、滑走路に進入してしまったためだとか。

 原因は海保機の機長のミス? ちょっと待ってください。日本航空の乗員・乗客が見事な対応で全員無事に脱出できた事実を美談として報じるのは良しとしても、事故原因は海保機にあり、と責任を海保機に押し付けてしまうのは、大いに問題です。こんな扱いでは、被災地救援の任務を負って殉職された5名の海上保安官は、とうてい浮かばれないでしょう。

 海保機に指示を出した後、担当の管制官は、別の機種への対応に追われて海保機が滑走路に誤進入したことに気づかなかった、滑走路への誤進入を示す監視モニターが作動していたのに、管制官の誰一人気づかなかったというではありませんか。これで「管制」というのですから、羽田空港の危うさが分かります。

 いや、けっして航空管制官が悪いと言っているのではありません。歴史的に、羽田空港は航空機の発着数が限界に達したため、羽田=国内線、成田=国際線という形で棲み分けする政策が打ち出され、新たに成田空港が、地元農民等の強い反対を押し切って開港しました。

 しかし、その成田空港が完成を見ないうちに、成田は都心から遠くて不便だから、やっぱり羽田を拡張して国際線にも開放しよう、と航空政策が場当たり的に転換され、多摩川の河口を埋め立てて、羽田空港 D滑走路が増設されました。

 増築空港の設計限界に加えて便数の急増から、羽田の管制は、世界一難しく、安全は「管制官の職人芸」に支えられている、と言われるようになりました。

 羽田空港の管制は、普段でも手いっぱいだったのです。本来、航空に限らず交通の運行システムには、非常時に備えて「安全余力」(margin of safety , margin for error)が不可欠です。いざというときに目いっぱいの対応ができるよう、普段は余力を残しておかなければならないのに、普段から目いっぱいの対応を強いられてきたのが、羽田空港の現実なのです。

 今回、被災地への救援のために海保機が、急遽、飛行スケジュールに加わったわけですが、安全余力がなく手いっぱいだった管制には、もはや非常時への対応能力がなかった、ということです。

 責任を問われるべきは、何よりも一貫した方針を欠き、お粗末な航空政策を取ってきた政府です。再発防止をいうのであれば、抜本策は、東京への一極集中をこれ以上させない手立てを考えることです。

 国の航空政策のお粗末さに目をつむって、事故原因を海保機のミスに矮小化するようなことがあってはなりません。

 


(写真上)© 羽田空港へ着陸態勢に入る2機。手前上空の機はB滑走路へ、奥のやや右に見える機はD滑走路へ向かう。


(写真上)© 羽田空港 B滑走路へ着陸する中央右の機と、A滑走路から離陸した中央の機。

*************************************

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「提言」カテゴリーもっと見る