埼玉県には、県立高校が137校あり、その中の12校だけが伝統的に男女別学になっている(男子校5校、女子校7校)。このほど埼玉県教育委員会は、この別学の12校について「主体的に共学化を推進していく」と表明した。
該当する高校の生徒と県内の中学生に行った大規模なアンケートでは、過半が共学化に反対(現状に賛成)であったにもかかわらず、教育委員会の改革前提の強引な結論には、大いなる危惧を抱く。
1 発端は、県の男女共同参画に関する苦情処理委員に、「希望する高校に女子が入学できないのは不適切」という苦情が寄せられたこと。教育制度改革に関する意見は、当然のことながら、自ら名を明かし責任をもって主張すべきであるのだが、論拠も示さない低レベルの「苦情」を、委員が「男女平等論」に格上げして教育委員会に回してしまった。
2 教育委員会は、現在も、いじめや不登校、教員の働き方など多くの課題を抱えているが、本来取り組むべきこうした課題には、きわめて腰が重く、一向に解決がなされない。ところが、今回は何を思ったのか、教育委員会は、12校の共学化問題を大々的にマスコミに公表した。
3 埼玉県の実情を知らない人は、あたかも埼玉県の県立高校は男女別学が原則で共学化していないのは時代遅れ!という印象を持つことであろうが、もともと9割以上の県立高校は共学化しているのである。別学の高校も、基本的に浦和高校(男子)と浦和第一女子高校、川越高校(男子)と川越女子高校、熊谷高校(男子)と熊谷女子高校というように、バランスよく設置されている。男子校5校に対して、女子校7校であるから、実質的には、むしろ女子優遇ともいえる。
繰り返すが、共学の県立高校の方が圧倒的に多いのであるから、共学希望の生徒の進学先が閉ざされているわけでは、決してない。
4 本来は教育制度改革の問題であるべき共学化の議論に便乗して、安っぽい男女平等を説くおなじみの市民団体が、教育理念も示さず「別学は男女差別」と叫んだり、テレビにゲスト出演した東大教授が、「浦和高校は、東大・京大への進学者が多い屈指の名門校であるが、男子校ゆえ、東大・京大を目指す女子は都内の私立高校へ進学せざるをえないという声もある。公立高校として問題だ」などと、教育を受験レベルに矮小化して頓珍漢なコメントを発したりと、本来の教育論とは無縁の低次元で議論が展開するようになった。
5 私は、自分の子どもたちが共学、別学双方の県立高校を卒業しているし、県民としても、大きな関心をもって注視してきたが、教育委員会の「主体的に共学化を推進していく」という抽象的表現で表明された強引な結論には、賛成できない。いじめ問題も満足に解決できない教育委員会が、公権力をもって「主体的に」とは、空恐ろしさすら感じる。
5 私自身は、東京都立高校の出身であるが、当時の都立高校は概してレベルが高く、私立高校は裕福な家庭の子が進学するというのが実態であった。ところが、その後、都立高校間のレベル格差を問題視した美濃部亮吉(みのべりょうきち)都知事が、「平等」を謳って学校群制度を導入し、受験生が自分の希望する都立高校へ進学する自由を奪ってしまった結果、都立高校全体の不人気と質低下が急速に進み、惨憺たる結果を招くことになった。
6 埼玉県の公立高校を、かつての都立高校の二の舞にしてはならない。共学校に行きたい生徒は共学校に、別学校に行きたい生徒は別学校に行ける、という多様な選択肢のどこに問題があるというのか。安っぽい形式だけの男女平等主義に影響されて、「教育」の世界を安易に破壊するようなことがあってはならない。
(写真上)©YK
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