アマプラで映画「エール!」を鑑賞。監督はエリック・ラルティゴー。
観終わって「いい映画だった〜」と何度かつぶやいていた。
舞台はフランスの田舎町。自分以外の家族がみんな耳が聞こえない女子高校生ポーラ(ルアンヌ・エメラ)が歌の才能を見出され、自分の夢と家族との関係に葛藤するお話。
どっかで聞いた設定だなと思っていたら、去年公開していた映画「コーダあいのうた」はこれのリメイク版らしい。それは見ていないけど、コーダのことは読書会でもやった『デフ・ヴォイス』で知っていたので興味を持っていた。
障害者を扱った映画なんだけどアマプラで「コメディ」とされていて、まあ明るい仕上がりなんだろうと思い安心して見始めた。(しかし性的に自由過ぎる面もあるので子供とみると若干変な空気になるときがあるかも)
酪農を営む家族はさいしょから過剰なほど仲がよく愛し合っているさまが描かれている。ポーラはそんな父母の助けをしながら高校生活を送っていて、酪農の仕事も母親の性病の受診もすべてポーラの通訳が必要だ。
しっかし両親の性生活事情とか知りたくないだろうし、「3週間セックス禁止」なんて医者からの言葉を両親に通訳するのも正直しんどかろう。確かにこりゃコメディだなと可笑しみのあるシーンが多いのだが、なんたら地獄のようなユーモアを繰り出してくる場面も多くて、こりゃ笑えないだろ…とも思った。
しかしポーラは「家族の障害のせいで私はつらい」と周囲に漏らすことはない。牛の出産を手伝っていて寝不足でスペイン語の授業中寝てしまっても「スペインはシエスタ中で」などと口答えして問題児扱いされる始末だ。家族みんな「障害は個性」と捉えて前向きに、そして向こうっ気強く生きている。その姿は正しく清々しいのだけれど、ポーラの場合はそれを言い訳にしないことで損することが多いだろうと察せられ痛々しい。
だから、パリの音楽学校を受験するのは「やめる」と音楽教師に告げに行ったときも、ポーラは家族の障害のことを決して口にしない。(たぶん先生は知ってたと思うけど)
考え直すよう説得する先生に向かって「(どうしようと)私の人生よ」と言い返したとき、先生は「本当にそうか?」と問い返す。この場面が印象的だった。
ポーラが夢を諦めるのは「自分の人生」のためではなく、「家族のため」ということを突きつけるやりとりだから。
聴覚障害者の「歌」との向き合い方も知れる映画だし、助けを必要とする家族を置いて自分の人生を貫くかどうか、という普遍的な問いを投げかける話だった。地方から都会に出て自立しようとする若者の心情、その親心も描かれていて、多くの人の心に刺さりやすい物語だと思う。
もちろんポーラや共演の男子が歌う歌も素敵で、映画的な一番の盛り上がりはそこ。彼女の純粋な喜びを表現する笑顔が可愛く、こっちまで笑顔になる爽やかな映画で観てよかった。