『パチンコ』ミン・ジン・リー池田真紀子 訳(文春文庫)
読書会の課題本で、上下巻読み切れるのか不安だったけど朝ドラみたいだな!と面白くてどんどん読めた。日本統治下の朝鮮を舞台に始まる在日韓国人一家の4世代に渡る年代記。
宿屋の娘16歳のソンジャは粋な仲買人ハンスの子を身籠るが、実は彼は既婚者だった。ソンジャは牧師のイサクと共に大阪に渡りノアを産むが、差別や戦争をまたぐ日本での生活は困難の連続で……。
ハンスに恋するあたりの具体的な経緯が凄く気になって引き込まれてしまった。働き者で純真なソンジャの描写は魅力的で、ハンスもまあ〜かっこいい。ソンジャの父フニもイサクもそれぞれに違うキャラで魅力があった。登場人物の考えがぜんぶ書いてあるので読みやすいのもいい。
ソンジャの家族はみんないい人ではあるけれど、時代が時代だけに義兄ヨセプの「男が女を養うべき」という強迫観念が腹立たしいと同時に気の毒にも感じた。
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下巻は戦後から1989年まででソンジャの息子や孫、そのパートナーたちの話に入っていく。
ノアの学友、明子の英文学への分析(イスラエル人が祖国建設のためイギリスを出ていく事を賛美する欺瞞を指摘)は確かに的を得ており、移民や2世以降について見過ごされがちな問題をあぶり出していた。
舞台が大学や米国にもなったことで、在日コリアンはもちろん、世界に共通する移民家族の葛藤を描いた話であることがよくわかる。米国帰りの孫のガールフレンドに「母は料理しません」と言われてソンジャたちがポカンとする場面など、世代間で違う価値観が垣間見えるのも興味深かった。
しかし明子からでた無自覚の差別発言もきつかった。「あなたがコリアンでも愛してる」は、無実の人に向かって「あなたが犯罪者でも愛してる」と言っているようなものではないだろうか。
しかし自分も無自覚な偏見に基づく無神経な発言をしていることがあるはずで、自戒せねばとおもう。
ソンジャの息子ノアの追い込まれぶりは、出自と自分を切り離せなかった根の深さ潔癖さに違和感もあるが、彼にしかわからない苦しみなのだ。
「パチンコ」というタイトルで損をしているような気もしたが、読んでいくと色々と深い意味が込められていることが分かり納得。良いとか悪いとかではなく、そういうものなのだという現実も感じて辛いのだけど。
折に触れ彼らの生き方について思いを巡らしそうな物語だった。
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