昨年「100分de名著」で知ってだいぶ前に買っていまして、読書会でもいつか取り上げましょうと話していた本です。壮絶なエピソードばかりで気持ちが持っていかれるため、あまり読めていませんでしたが、読書会のために今月あわてて読了。最後まで読めて良かったです。
「この本を選んだときにはウクライナがあんな感じになるとは思ってもみなかった。いやな感じにタイムリーになってしまいましたね」とは、主催者様が終盤おっしゃった言葉です。ほんとうに。
***(メモから勝手に端折ったり補足しながら書いているのでちょっと自信がないところもあり、誰がどのというのは今回は省略です)
●「女だから戦争に行かないという選択肢がなかったこと、戦後、心身を壊していたけれど傷痍軍人手当がもらえるはずの証明書を破り捨ててしまったことなどが痛ましかった。
英米文学に出てきた宗教観とは異なり、共産主義では『神はいない』という唯物論が教育されていると気付きました。ロシア文学を読む上で、抑えておくべき点ではないでしょうか」
●「戦争の残虐さを、社会で権力を持つ男ではなく、一段低いとされる女の言葉で語ることの重要性を意識しながら読みました。男性に聞いたら個人的な話は出てこない。161ページにあるように、男性には男性視点でしか記憶に残らないことがある。
残酷な場面が多いし子どもが出てくる箇所はすべてが切なかった。一方で、『城に入ったときにドレスを着てみた』など、可愛らしい場面もありましたね。手術中に寝てしまい患者の頭にぶつかることもあったとか、3人で肩を組んで行軍し、真ん中の人が2時間寝られる、など睡眠に関することが印象的でした」
そのほか、生理中に砲撃があると湖に飛び込むこと、布に染みた血が固まると痛い、醜く死にたくないという気持ちには共感の声も。
●「生の声の臨場感があり、これまで男の視点で書かれているものが多かったのが、女性視点でのドキュメンタリーが出る、そういう時代になったという感慨がありますね。何らかの形で戦後をちゃんと終わらせる、鎮魂のイメージ、エポックメイキング的な扱いとなる作品なのでは。男性としては、耳が痛いところも多かったですね。
著者は人生のほとんどすべてをかけて聞き取りをしている。そのあたりの迫力も凄かったと思います」
●「タイトルから”男が始めた男の戦争に女が巻き込まれて…女は平和を愛するもので…”というよく聞いてきたフレーズの話かと思いましたが、そうではなかった。読んで良かったと思いました」
※この言葉から、女性も戦争に主体的に参加していたという話にもなりました。赤ちゃんや幼児がパルチザンの調査・連絡に利用されたり、幼い子どもを誰かに預けて戦場に飛ぶ母親も珍しくなかった。(帰ってきてから子どもを返してもらえなかったりもして)同じ女性というだけでくくれない多様な価値観を感じましたね。
「ウクライナ侵攻とパンデミックが同時に起こっている状況がフィクションの世界のような奇妙な感覚ですが、この時期に読めて良かったとも思います」
●「冒頭がとりとめなく少し読みづらかったという話が出ましたが、個人の語りなのでとりとめがない。154ページ(以下引用)にもあるように
--家を訪問して話を聞く時に、もし彼女のほかに身内や知り合い、近所の人などがいると、ことに男性が居合わせると、二人っきりで話を聞く時よりは、真心からの打ち解けた話が少なくなる。(中略)聞き手が多いほど、話は無味乾燥で消毒済みになっていった。かくあるべしという話になった。恐ろしいことは偉大なことになり、人間の内にある理解しがたいいものが、たちどころに説明のつくことになってしまった。--
『たちどころに説明のつくこと』、これが彼女のいうところの男性、国家の言葉。それとはちがうところを記録しようとしているのがアレクシェーヴィチの著作ということなんでしょう。
なぜ女性たちが我先に貢献しようとしたか。共産主義で女性も働くのが当たり前、愛国心の教育ってすごいものなんだなと。他国でも愛国教育はあったが、武器を持って戦うほどではない。教育によってみんな戦争に加担してしまう、ソ連の愛国教育の凄まじさを感じます。
ただ、戦後の扱いの報われなさが、ソ連に限らずそんなものだなと。男性が考えた社会のしくみから逃れられないのが苦しいところですね。戦う以外でも能力のある人がたくさんいたけれど、戦後はそれが生かされないのも無力感。戦争が激化すると女性が活躍する場が増えてしまうんですが、平和になるとなかったことにされてしまう。生き方の多様さと平和がトレードされているという。
イギリスで『暗号探偵クラブ』という、大戦時に機密に従事していた女性たちが謎解きをする楽しいドラマがあるんですが、機密情報を扱う人たちなのですごく頭がいいんですけど、戦後はそこを活かせずアピールもできない。主婦になるかウェイトレスになるか、そこのやるせなさをすごく思い出してしまいました」
そのほか、人が生きるところ洗濯と炊事があるという現実や、待雪草が空色だったという記述の考察も興味深いものでした。戦争中ネコを見たことがなかった幼い息子が、ネコがいることを喜ぶところは、きっと今日欠席されたあの方なら言及があっただたろう、と予測する方もいて、本当になあ、と思いました。
次回は小説で、村田喜代子著『エリザベスの友達』(新潮文庫)となりました!私は初読み作家です。
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