いまオアフ島で建設が進んでいる新交通システム「HRT (Honolulu Rail Transit)」。 数日しか滞在できない日本人観光客にとっては、あまり関心が高くないかもしれません。またハワイ関連の番組でも取り上げられているところを見たことがありません。 しかし、公共交通機関マニアの筆者としては、ウォッチしておくべき「案件」なのであります。
さて、オアフ島に建設中の新交通システム HRT とは一体どんなものなのか。まずは概要から眺めていきましょう。
HRT はオアフ島の主要な町を結ぶ総延長20マイル(約32.2Km)の新しいタイプの鉄道システムです。オアフ島の西、イースト・カポレイ駅から、ワイパフ、パールシティ、アロハスタジアム、ホノルル国際空港などを通り、アラモアナショッピングセンターまでを合計21カ所の駅で結びます。
開通時期は前後期に分けられ、前期はイースト・カポレイ駅からアロハ・スタジアムまでの区間が2018年に、またその先のアラモアナショッピングセンターまでの区間は、2019年に開通する見込みで、2030年ごろには平日の利用者が12万人近くにも及ぶのではないかと期待されています。
HRT を管理運営する組織は HART (Honolulu Authority for Rapid Transportation)という組織で、2010年に正式承認され、HRT の計画や工事、開通後の運用や保守などを担当します。
【システム】
さて、HRT という鉄道のどこが新しいのか。
最大のポイントは、無人運転の列車であるというところではないでしょうか。東京でいえば、新橋とお台場地区を結んでいる新交通システムの「ゆりかもめ」に近いといえるでしょう。
ただし「ゆりかもめ」はコンクリート製の走行路をゴムタイヤで走り、走行路の両横にある案内軌条(ガイドレール)と、2軸4輪ステアリング方式の台車によって進行方向を制御しています。
しかし HRT は鉄のレールの上を鉄の車輪で走るタイプです。この方式は Steel-wheels-on steel-rail technology と呼ばれます。
1列車4両編成で800人余りの輸送能力があり、これは TheBus の10台分より多い計算です。
通常は10~11分おきに、ラッシュ時は約5分おきに運行され、トップスピードは55マイル(約88.5Km/h)、駅の停車時間を考慮した平均速度は 30 マイル(約48Km/h)とのことです。
さらに、ややマニアックな領域になりますが、電力は一般的な電車のように、架線からパンタグラフで集電するのではなく、走行用レールに並行している3本目のレール(Third Rail)から集電します。これも東京の鉄道でたとえるなら「ゆりかもめ」のほか、地下鉄である東京メトロ(旧・帝都高速度交通営団)の銀座線や丸ノ内線(※1)のような方式です。
軌間(2本のレールの間の長さ)は 1435mm (4ft8.5in)の標準軌。日本の新幹線と同じです。
※1
銀座線は日本の地下鉄としては最も歴史が古く、建設時は「開削工法」で工事が行われている。これは地表から直接穴を掘っていくもので、線路が通る深さも今から考えれば非常に浅いところを通ることになる。そのため谷地形である渋谷の街では、なんと道路(明治通り)の上を高架で走ることとなり、ビルの3階にある地下鉄銀座線渋谷駅を出入りしているのである。
この時代の地下空間は高さも十分にとれず、また電気設備を地表面近くに作ることが不適当でもあったため、線路の脇に集電用レールを敷設している。
かつては銀座線や丸ノ内線に乗っていると、ポイント(線路の分岐点)を通るたびに給電が途絶え、車内が非常灯だけになるということがあった。もちろん今はそんなことはないが、いつも同じところで数十秒車内が薄暗くなっていたのは、未だに残る集電装置からのオゾンのにおいとあわせ、銀座線や丸の内線の象徴であった。
【利用者視点で】
それでは実際に利用する立場で眺めてみましょう。
利用者視点での一番のポイントは、従来のオアフ島のバスシステム「TheBus」と一体となったサービスが受けられるということだと思います。
たとえば、バスと HRT を乗り継ぐとき、これまでバスで慣れ親しんできた「トランスファーチケット」を利用して、無料で乗り換えができるということです。2時間の時間制限などのルールも共通になるようで、TheBus と HRT を自由に乗り換えて利用することが可能になるというわけです。
またシニアバスパス、学生パスなどの割引乗車証も使用することができます。
さて、HRT は全線高架式の鉄道です。したがって駅にはエスカレータやエレベータも設置されます。駐輪場(bicycle racks)もありますし、一般車両が送迎時に利用できるスペース(Kiss-and-Ride)もあります。
また主要な4つの駅(※2)では、パーク・アンド・ライドを実現するために駐車場が併設され、4駅合計で 4,100 台分のスペースが確保される計画です。
車内は Free Wi-Fi が整えられ、スマートフォンやノート PC などの利用もOK。車いすやストローラ(乳母車)はもちろん、サーフボードや自転車も一緒に乗車することができるのだとか。他の乗客の迷惑にならないように、車内にどのような工夫やスペースがあるのか見ておきたいところです。
※2
主要4駅とは、East Kapolei, UH-West Oahu, Pearl Highlands, Aloha Stadium stations の4駅です。
【お金】
お金といっても乗客が支払う運賃ではなく、建設コストのお話です。全20マイル区間の総建設コストは、52億ドルを超えるといいます。連邦政府組織 Federal Transit Administration からの補助金は15億5千ドルということですが、まぁ一般庶民の私たちからは何が何だかわかりません。
興味深いのは、この新交通システムの建設資金に、私たち観光客も協力しているということなのです。これはオアフ島で物を購入したときの税金として支払っている形となっており、2007年以来、税金の50%が新鉄道建設へ向けられてきたのだそうです。
そしてこの「集金」のしくみは 2022 年まで続き、33 億ドルの費用を賄うことになります。
これだけ巨額のお金がかかるため、当然反対する意見もあったわけですが、HART では、「既存のバスシステムを拡張するよりも、新交通システムを建設してこれらを組み合わせた方がコストを抑制できる」としています。
たしかに建設時は巨額の費用が掛かりますが、維持コストで考えれば、バスの方が高くつきそうです。
【まとめ】
今回は、ハワイ・オアフ島に建設中の新交通システム「HRT」をザッと眺めてきました。このシステムが今後、どんなハワイの未来を形作っていくのか楽しみです。
なお文中の写真は、2015年2月に筆者が撮影したもので、アラモアナショッピングセンターの山側にある、市の出張所に展示されていた模型やパネルです。
◆関連リンク
Honolulu Rail Transit
APTA (American Public. Transportation Association) アメリカ公共交通協会
AAR (Association of American Railroads) アメリカ鉄道協会
ゆりかもめのしくみ (株式会社ゆりかもめ)