筆者は紙書籍派である。しかし今年2021年、急速に電子書籍派に軸足を置き始めている。それは同居していた母を亡くしたことと、やや大げさかもしれないがそれによって死生観が変わったことによる。
今回は筆者の個人的な考え方を紹介させていただきながら、紙から電子への生活スタイル移行について述べてみたい。
INDEX
- 読書生活の電子化移行とは
- 既存書籍の電子化
- 既存書籍の処分
- 電子書籍購入の考え方
- まとめ
- 関連リンク
読書生活の電子化移行とは
一般に「本」と呼ばれるものは昔から、紙にインク、あるいは墨を染み込ませる方法で作られてきた。もちろん古くは木簡だとか石板に文字を記すといったこともあったが、それはもう「本」と呼ぶのは適切でないだろう。
複数のページを以って綴じられており、ある程度大量に作って広く世間に普及させる本というものは、15世紀の中ごろにドイツのグーテンベルクがブドウの圧搾機を応用して活版印刷機を発明して以降、ごく最近まで紙であることが当たり前であった(中世ヨーロッパでは紙ではない羊皮紙というものも使われていた)。
それが20世紀の終わりごろから急速にインターネットが普及し、電子書籍なるものが広がりはじめる。これはすなわち本が物理的な運搬・保管といった呪縛から解き放たれた瞬間ともいえる。
筆者は紙書籍派だ。分野的にはノンフィクションや論考、技術書などの割合が多い。また本を読みながら線を引っ張ったりメモや表を書き込んだりしつつ、考えながら読み進めるタイプである。つまり本そのものを読書ノート化するようなやり方をするものだから、紙の書籍が便利なのである。
また書棚に本が並んでいるという景色そのものが、自分の知の整理棚を具現化しているようでもあり、心理的に落ち着くといった気持ちもある。
さらに言えば、「画面」に表示された文字を読んでも、今ひとつ頭にしみこんでこないような感覚もあった。
しかし、電子書籍には電子書籍なりのメリットもある。なんといっても場所を取らない。筆者のような狭い賃貸アパートに暮らす者にとってこのメリットは非常に大きい。
それに奇妙な話に聞こえるかもしれないが、自分が亡くなった後に大量の紙書籍が残ることによって、家族や関係者がじつはかなり迷惑してしまうという事情もある。有名な著述家などでもない限りそれは遺産や資産などではなく、単に処分に苦労させられるゴミに近い。
自分のライフスタイルを電子書籍化していくことを考える場合、筆者は3パターンに整理できると考えている。そしてこれらを一定期間、同時並行的に行っていくことになる。その3パターンとは、
- 既に持っている紙書籍を電子化する
- 既に持っている紙書籍を処分する
- 新規購入する書籍を電子書籍にする
というものである。
既存書籍の電子化
紙書籍の電子化とは、当然ながらキーボードで文字を入力していくような非現実的なことではない。「ドキュメント・スキャナー」という道具を活用して一気に、短期間に電子化するのである。すなわち画像データ化である。
ただし、ドキュメント・スキャナーにかけるということは、紙書籍そのものをバラバラに解体することが前提となる。したがって紙書籍という「もののかたち」に価値を覚えているとすれば、これは出来ない相談になる。
なお、書籍をバラさずに電子化できる特別なスキャナーも存在する。本を1ページ1ページめくりながら撮影していくタイプである。見た目は昔の学校にあったOHP (Overhead Projector) みたいな感じだ。スキャン原稿をローラーに挟んで搬送することがないので、シワや破れを絶対に避けたい貴重なものや、証書原本などの場合は重宝する。
しかしこれはおもに図書館や研究施設などをターゲットにした製品であり、高価かつ大型で、使用頻度も考えると個人で購入するのは現実的でないかもしれない。ただ最近は、10万円を切る製品も出て来ているようだ。
家庭向けで一般的なドキュメント・スキャナーは、最大A4サイズの原稿をADF(Automatic Document Feeder:自動原稿送り装置)で次々と読み込ませていくタイプになるといえる。
またA3サイズの原稿であっても、二つ折りしたうえで専用の透明フォルダーに入れて「両面スキャン」すると、自動的にA3原稿として画像合成してくれる機能を持つ製品も多い。
こういった製品はたいていの場合、スキャン後の画像をいろんな形で利活用できる(おもにパソコン向けの)ソフトウェアを同梱している。名刺管理、写真管理、PDFや画像などの編集、そしてあくまでも「画像」でしかない文字からテキストデータを生成するOCR (Optical Character Recognition) 機能などである。
ドキュメント・スキャナーを購入せず、手持ちのスマホで簡易的なスキャンをすることも出来る。筆者の場合はMicrosoft Lens(2021年2月改称)という無料アプリを使っている。
ドキュメント・スキャナーの場合、原稿を撮像部(ガラス)に密着・移動させながらデジカメ撮影しているわけだが、スマホアプリの場合は、ふつうに写真撮影するような格好になる。そしてほとんどのスキャン・アプリには、ゆがみ補正、クロップ(画像の切り抜き)、色補正など様々な機能が揃っている。簡易的ではあるがOCR機能さえ持っているものもある。これがすべて無料で可能なのである。筆者は数年前から、新聞の切り抜きスクラップをすべてこの方式に切り替えた。
なお、スキャンに限らず画像処理という作業はパソコンやスマホに大きな負荷をかける。ハードウェアがそれほど高性能ではない場合、一つひとつの処理にいちいち時間がかかったり、最悪は本体の再起動が必要になる場合もある。
ドキュメント・スキャンについては保存するファイル形式やその形式ごとの特徴など、いろいろと奥深いものがある。少量のスキャンならそれほどこだわることはないだろうが、ちょっとした蔵書とでもいうほどの物量がある場合や、事後にデータベース的に活用するようなことを視野に入れる方なら、少し踏み込んだ知識を学んでおいた方が、手戻りや余計な作業・投資をせずに済む。
これについては別途、専門的な内容で投稿したいと思っている。
既存書籍の処分
紙書籍の処分は、自治体のルールに従ってゴミやリサイクル品として出してしまうというのが最も手っ取り早いのかもしれない。あるいは近所の学校や高齢者施設などに寄付するという手もあるだろう。筆者は亡母が10年ほど複数の高齢者施設を利用していたこともあり、ずいぶんと寄付をしてきた。しかし母が亡くなってからはそういった施設とも縁がなくなった。
ただ、同じ処分するにしても「売る」という選択肢もある。本稿に興味を感じた方なら、ある程度の物量としてハードカバーや新書、文庫などをお持ちだと思う。その場合、荷物を取りに来てくれて買い取ってくれる業者が便利である。
筆者の場合は「honto(ほんと)」という、大日本印刷が関連する書籍販売サイトを通じて「ブック・オフ」の回収買取サービスを利用している。
整理がついたものから両手で持てる程度の段ボールに詰めて申し込めば、数日で回収に来てくれる。金額は大したことはないのだけれど、短時間で片付いてしまうのが一番有り難い。
また、なんでもないと思っていたものに案外な高値がついたり、これは価値が高いはずだと思っていたものが10円だったりして、世間の相場というものを楽しめるかもしれない。
なお筆者は値付けを一切おまかせして交渉はしないパターンを選んで利用している。買取価格がゼロとなる場合もあり、その場合は業者側で処分となる。
代金はお金でも受け取れるが、筆者はポイントという形で受け取り、それをhontoのサイトで購入する電子書籍、紙書籍の代金に充てている。
また話はそれるが、随分とたまっているCD/DVD等も同時に買い取ってくれるので便利だ(CD処分法についても別途投稿を考えている)。
もちろん、業者は多数あるので比べて自分に合うものを利用すればよい。
なお当然ながら、古書・稀覯本だとか非常に専門的な書籍の場合は、こういった一般的な業者ではなく、その書籍の意味と価値を認めてくれる業者・古書店を探した方がより高値で買い取ってくれる可能性がある。またはメルカリのような個人間売買サイトで、価値のわかる方に買ってもらうという方法もある。
そもそも一般的な買取業者は短期間に再販することが目的なので、バーコードがないような書籍は買い取ってもらえないことが多い。業者側で値付けできずに廃棄処分という残念な結果になってしまってはもったいない。
電子書籍購入の考え方
三つ目の新規購入だが、なるべく電子書籍を選んで購入するということである。「なるべく」というのは、ハードカバーを中心に是非とも実体としての「本」として手に取りたいという場合もあるだろうし、そもそも電子書籍化されていない場合もあるからだ(新刊の場合は少し遅れて電子化される場合も多い)。
また厳密に言えば、電子書籍の規格や仕様に合わせられないような部分や、著者など権利関係者がそれを望まないような場合、電子書籍化にあたって省略や改変、加筆が行われる場合もある。
筆者の場合、技術書や文芸作品などで紙書籍と電子書籍を両方購入することもたまにある。
電子書籍デビューで気を付けるポイントは、業者選びと読書端末である。
電子書籍の世界は未だに世界共通、国内共通の規格が定まっていない。また世の中に発刊されているすべての書籍が電子化されているわけではないし、電子化して扱っている書籍は業者ごとにバラバラである。したがって、どの業者を選ぶかで「電子書籍人生」が決まることになる。
さらに電子書籍ではどの業者を選ぶかによってほぼ自動的に、利用する読書端末が決まる。
世界的に有名なアマゾンの場合、出来のいい読書専用端末が使用できる。パソコンやスマホ画面と違い、紙書籍と原理が同じ反射光で文字を読めるので、目が疲れにくいといえる。
なんといっても専用機の強みで、読書することだけにフォーカスしてつくられた道具であるため使い勝手は大変良い。また端末に(携帯電話回線を利用した)通信機能を持っているため、外出先で本を購入することも容易だ。もちろん通信料は業者負担だ(一部の端末、あるいはWi-Fi通信時を除く)。
なお、こういった専用端末を利用者に持たせる方式は国内でも複数の業者が存在するが、たまに書店の片隅でキャンペーンの残骸を見かけるような状況であり、いまひとつな印象を持っている。
筆者は先述のhonto利用者であるため、電子書籍は自前のパソコンやスマホで読んでいる。専用端末を持たせるやり方ではない業者だからである。パソコンやスマホに専用の無料アプリを入れて読む方式だ。
発光している画面の、つまり光る文字を読む形となるので、そのことについては専用端末には負ける。とはいえ慣れの部分も大きいし、「白黒反転表示(ダークモード表示)」できる場合もある。なにより、すでに手元にあるパソコンやスマホを使えるので余計な機器を持つこともない。
またパソコンやスマホなど複数の端末を持っている筆者の場合、状況に応じて複数台の機器で継続的に読み進めることも出来るのでありがたい(上限台数あり)。
あくまで筆者の個人的感想だが、文章にマーカーを引くことは複数の色を使って行えるし、分類整理もできる。また任意の箇所に自分なりのメモを記録しておくことも可能だ。もちろん複数の箇所にブックマークをしておくことも出来る。したがって個人的には(光を読むという点以外)特に不便さを感じていない。
まとめ
たしかユダヤの教えだったと思うが、「お金、家財、住居などをどんなに盗まれようが奪われようが、自分の頭に入れたものは絶対に奪われない」という考え方がある。
読書も同じだと思う。詳細は忘れてしまったとしても、自分の中に体験としてなにがしかの記憶やイメージが残る。それこそが大切なのだとすれば、インクの染みを読み取ろうとするか画面上の文字を読み取ろうとするかは、さほど大きな問題ではない気がしてくる。
物理的に手に取って読む本と電子書籍。どちらが善でどちらが悪ということではなく、自分の読書体験あるいは利用のスタイルを見極め、住宅事情や遺品整理の負担すら考慮に入れながら、上手に付き合っていきたい。
関連リンク
- ▼ドキュメント・スキャナー
- ▼電子書籍販売サイトなど