天沼春樹  文芸・実験室

文芸・美術的実験室です。

幻の名作の引用

2011年01月27日 02時44分47秒 | 文芸

ウラジミール・カシン作『孤島』より (一九二七年)  天沼春樹訳       Владимир Кашин ,острова.1927

                        


海鳥たちの白いフンによごれた岩礁だらけの、冷たく青黒い北の海に浮かぶ島。サハリンの南端から西に二百海里。その島には測候所がひとつあって、観測員がひとりだけ長期滞在している。彼の名は、ウラジミール=ユーリ・コルチャコフ。彼の仕事といえば、定時の観測データを本国に送信するだけ。無電で気圧と風向、気温と湿度などを打電する。その仕事がすむと、観測員コルチャコフは釣りざおをかついで岩礁だらけの磯へおりていき、今夜の食糧の魚を二三匹釣るのだ。観測所の庭には、生育の悪い青菜の畑があって、冬季をのぞけばパセリや根菜がすこしだけ採れる。その野菜を惜しみながら摘む。次の観測時間まで、観測員は自分の部屋でサモアールでお茶をわかしながら、読みかけのツルゲーネフの小説などのページを開くのだ。この流刑地のように孤島に赴任してから、はや六年になる。本国からの交代員が、シベリアで事故にあって行方不明になって以来、帰還の命令はついぞ来なくなった。

三か月に一度、便船がサハリンからウラジオストックへむかう途中補給品や手紙を運んでくる。食料品や生活必需品、それにウラジミールがウラジオストックの商館から買ってきてほしい品を紙に書いててわたす。便船は、岩礁の多い島には横付けできず、たいがいはボートがちかづいてくる。こちらかにらもボートをだして海上で品物を受け取るがふつうだった。便船の船長ニコライとは顔なじみだった。ニコライは、インクや紙類、紅茶やジャム、ジャガイモや小麦粉の袋のはいった木箱をウラジミールのボートに乗せてくれながら、いつも気の毒そうに、きづかわしげに微笑むのだ。あるとき、ニコライは一匹のロシア犬の子犬を、唐突にウラジミールのボートにほうりこんだ。「こいつは友達だよ!」といって。意外な贈り物に、ウラジミールは当惑したが、いまでは孤島での唯一の話し相手だった。ピョートルとなづけたその犬は、せまい孤島を元気にくるくる走りまわり、ウラジミールをはらはらさせた。まるで子どもができたみたいだった。それから、ウラジミールとピョートルは釣り上げた魚をわけあいながら、ながい月日をすごすことになった。

ウラジミールは、あるとき、一通の手紙を受け取った。モスクワでの彼の恩師、アレクセイ・オルブリスキ教授からだった。気象学の専門家で、近代気象観測の草分け的存在だった。モスクワの大学からサンクト・ペテルスブルクに移り、病いをえているようだった。その手紙には、ウラジミールが、シベリアを越え、ウラジオストックからサハリンへ、そしてサハリンからも孤立した島の測候所に、いわば流刑のように赴任せねばならなかった経緯が書かれていた。 

親愛なるウラジミール

サンクトペテルスブルクの病院の窓から見えるのは吹雪だけだよ。もう二週間もこんな天候だ。サハリンの沖の君の島はさぞかし厳しい冬だろうな。君がウラジオからサハリンに渡り、島に赴任してもう七年になる。その月日のことを思うと、いまさらながら、ニガヨモギの汁をすするような気持ちがする。どうしてこんなことになったのか。君が、シベリアの測候所に赴任することを志願したとき、わたしは、てっきり娘のアリョーシャとのことが原因かと考えた。アリョーシャは君のことを愛しているとばかり思っていたのだが、あの凡庸な弟子のボリス・サンドロビッチ・エセーニンに求婚されると、あっさりと承諾してしまったのだからね。君たちのあいだになにかあったのかはわからない。君は、非凡で、優秀な若い気象学者であるよりまえに、立派なロシア国民だった。科学にたいする熱意のほかには、政治的野心も、国家反逆罪の疑いをもたられような言動もなかったと思う。ふたりで話していたのは、近代的気象観測システムの構築計画のことばかりだった。気象は国も国境も越えて、あらゆる人民に迅速かつ平等に伝わるべききことだ。ツァーも顧問官もわれわれの奏上した国際気象協会への加入には賛同されていたはずだ。

ところが、君がシベリアに赴任したあと、何者かがあらぬ密告をしたらしい。国際的という言葉と、インターナショナルという言葉を巧みに誤用して、われわれが反ロシア的謀議の片棒をかついでいるとの讒言だ。ロシアの気象情報は軍事的秘密に属するというレトリックだな。くだらない。だれがそんなことをたくらんだかのか、今になってわかってきたよ。娘と結婚した、あの凡庸なるボリス・サンドロピッチのようだ。才能はないが、実直そうで、鈍重な牛のような男。彼のどこにそんな邪まな、暗い意志が潜んでいたのだろうか。もっとも、密告とは常に凡庸な意志から生まれるという警句があるわけだ。中世の魔女狩りも、その凡庸にして、無知な恐れから生まれた。そして、権力者たちはその心理をたくみに利用する。君がサハリンに移動させられ、あらずもがなの孤島の観測所勤務を下命されたのは、その密告のせいだと確信している。

わたしは、何度か抗議の書簡を官庁にだした。結果、研究所での地位を奪われ、悪いことに病いを得て療養生活を送らねばならなくなっている。だが、君の追放流刑的待遇には納得がならない。」

                                                                    Профессор Алексей Oruburisuki

 

 

シンクロ人物伝

2011年01月26日 18時42分09秒 | 文芸

先の記事で、名前のリストを書き連ねてある。これはシンクロ実験で、わたしの誕生日がいっしょの歴史上の人物と、おなじ日に死んだ人物のなまえである。ウィキペディアは、こんな遊びができるので楽しい。意外な人物と誕生日がいっしょだと、どんな人生を歩んだのか知りたくなり、また調査にふみこんで、ディープな世界にはまりこんだりする。

◆ミハイル・バクーニン(1814年5月30日~1876年7月1日)ロシアの思想家。アナキスト、つまり無政府主義者で活動家。ロシア貴族の出身ながら、急進的左翼、革命運動に身を投じ、国家や政府を否定するにいたる。この人の生涯は、波乱万丈、で長い投獄生活やシベリア流刑、国外脱出。めまぐるしく移動をつづけ、日本やアメリカにも渡り、西ヨーロッパに東まわりでたどりつき、マルクスなどともに第一インターに参加するが、分離決別。無政府主義者というと、暴力革命をも辞さない過激思想で、テロリストのようなイメージで保守派からはおそれられる存在だが、国家や政府のうさんくささについては共感できるものがあり、現代を予言しているともいえる。バクーニンの詳細な伝記を読んでてみたい。

   ミハイル・バクーニンについてのWikiの記事です。

 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3 見出しはバクーニン

ここから、欧文の資料をすこし読んでみたところ、文献によって、バークニンの誕生日が5月18日になっているものがあった。それでは、そもそものシンクロ・テーマが台無しです。よくあることなのですが、過去の日付とかデータは、複数参照してみないとちがっていることがありますね。どっちが正しいか判定できるものはよいとしても、たとえば物の大きさとか重さとか長さとか。実は、わたしの父親も6月上旬が誕生日なんですけど、昔は届けをだすのが10日くらいおそかったっていってましたね。じゃあ、わたしといっしょで五月末ってこともあるのですよ。双子座にはかわりないようです。バークニン、いつ生まれたんや?

◆ゲオルク・プールバッハ(オーストリアの天文学者Georg Purbach、1423年5月30日 - 1461年4月8日)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F


My private Wiki

2011年01月21日 15時16分47秒 | 文芸

天沼春樹(あまぬまはるき)、1953昭和28年5月30日 生まれ-)は、日本小説家。号は蜃気楼主人、雅号は草壁皇子。飛行船博士とも呼ばれてもいる。

その作品の多くは翻訳・幻想小説である。また、ドイツ文学者であるが、ドイツ飛行船ツェッペリンの歴史を研究し、飛行船の文化史に関する著作や啓蒙書・絵本もある。本来は、幻想文学作家であるが、執筆範囲が多岐にわたっているために多くの誤解を受けて、いまだ解明されていない。すくなくとも児童文学者ではない。本来純文学のつもりで書いた代表作『水に棲む猫』(パロル舎)が、日本児童文芸家協会賞などをとってしまったため、また長くその協会に在籍したために、ミス・ジャンルの居心地の悪さを感じつつづけ、近年になって、分離仕分作業にはいっている。

目次

 1 生涯(前半)

1953年(昭和28年)5月30日、埼玉県川越市新宿町にて長男として生まれる。父は東京電力配電技師、天沼徳次、母は武子(旧姓、石井)。2歳ちがう姉と弟がいる。母は、川越女子高等学校時代からの文学少女で、卒業後東京電力川越支店に勤務するが、採用試験の面接で、島崎藤村の『小諸なる古城のほとり』なる詩を全編暗唱してみせて面接官の度肝をぬき即時採用を勝ち取ったのが自慢。

1959年(昭和34年)川越市立仙波小学校入学。ただし、持病の自家中毒のため入学式には出席できず。そののちも高学年まで年間3,4回は10日前後の長期欠席をくりかえす。自家中毒とは、神経質な子供がストレスや心身の疲れなどで発症する、嘔吐をくりかえし、食事を一切うけつれなくなる病気。これは母親からの遺伝といわれる。病中の楽しみは唯一、理科の図鑑をながめたり、天井の節穴から幽霊や動物を空想することだった。

1964年(昭和39年)東京オリンピックの年。この年の前後の体験が、代表作『水に棲む猫』で描かれた。

1965年(昭和40年)夏、最初の創作『運命の支配者』を書きあげる。(散逸)内容は、太宰治の『走れメロス』と芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をまぜあわせたような運命の支配者、羅刹が天上界からおりてきて、強欲な男を罰し、また男が自滅していくさまをあわれむというもの。かなり難しい仏教用語をちりばめていたらしい。

1966年(昭和41年)川越市立城南中学校入学。体を鍛えようと軟式庭球部に入る。かたわら、詩作や創作に余念がなく、中学生のための全国文芸誌「中学生文学」に投稿をはじめる。最初に応募した詩『春近き街路』が掲載絶賛され、この年の特別賞を受ける。撰者は、香川茂、西沢正太郎、早船ちよなど埼玉県ゆかりの児童文学者。この時以来の縁で、児童文学関係の交流がつづいた。しかし、創作は、いっこうに児童文学的なものにはならず、のちに師事した香川茂からも、好きに書けといわれる。

1969年(昭和44年)埼玉県立浦和高等学校入学。国鉄川越線で、大宮経由の通学がはじまる。浦和高等学校は県内有数の進学校であったが、男子校で旧姓高校の気風が残っていた。どちらかというと理系進学者が多く、数学を競うようなところがあった。理科にはロマンをもとめていた春樹は、即座に興味をうしなって、もっぱら古典漢文を読みふけり、文系科目はトップ、理系は赤点をくりかえす。運動部の軟式庭球部にも所属し、関東大会出場を果たす。片手に文庫本、片手にラケットの異端ぶりに学友は畏怖していたらしい。二年生のとき、旺文社の学生コンクールのシナリオ部門で『帰って来ない長距離列車』(ラジオドラマ、散逸)で第一席で表彰される。16歳のとき、一度だけ原稿用紙に鉛筆書きした中国古典に取材した歴史短編『崑崙奴』(散逸)を文学界の新人賞に応募。もちろん無視される。爾来、賞には応募したことがない。高校時代は翻訳のフランス文学に傾倒し、ランボーやボードレールを愛読し、自作の詩のノートを常に携帯して書いていた。のちに立原道造やマチネ・ポエチックの福永武彦などにもかぶれたが、高校後期はもっぱら三島由紀夫の全作品を読破したり、乱読の時代だった。仏文か国文にしようと考えていたのに、ドイツロマン派やトーマス・マン、ドイツ観念論哲学に出会うと、あっけなく独文学少年になってつきすすんだ。

1973年(昭和48年)当然入れると勘違いしていた東大の文学部には一浪しても入れず、やむなく独文学の教授と大学院が充実していた中央大学文学部文学科独文専攻に入学し、ドイツ語の勉強をはじめる。教授には高橋健二、山口四郎、福田宏年、小塩節、生松敬三、松本道介などの往年の独文学とドイツ思想史の権威がそろっていた。以後、各教授の講義を熱心に聴き、ドイツ語と文学は、文芸評論家の福田宏年に厳しく指導され、大学院博士課程の5年間修了にいたるまで薫陶を受け続けた。入学したての頃、独文研究室で、福田宏年教授に「ローベルト・ムジールってどんな作家なんですか?」と、唐突で失礼な質問をし、「うーん、ま、現代作家だね」と、かわされた。さらには、若書きの短編をいくつか見せてから、「自分のイデンティテート(ドイツ語でのアイデンティティのこと)てものがないんです」なんて、からんでいって、「君ね、そのイデンティテートがないってことを書くんだよ!」と、たしなめられた。そのときは、なんだかわからなかったらしい。いまはよくわかっているつもりだ。

1982年(昭和57年)博士課程後期を終えて、中央大学文学部兼任講師となる。ドイツ語教師の生活が始まる。非常勤講師の仕事は徐々に増え、東洋大学工学部、城西大学、亜細亜大学、桐朋音楽大学、一橋大学、法政大学、日本大学、成蹊大学、杏林大学、大妻女子大学など一時は週に22コマもドイツ語を教えて生計を立てていた。もちろん、最初の本が出版されるまでその後6年はかかった。しかも、オランダの児童文学の翻訳であった。数多くの習作は書き続けていたが、はなからなにかに応募する気がなく、はじめて小説が出版されたのが、『夢童子曼荼羅』(ブックヒルズ、のちに改定版『夢童子』)、『水に棲む猫』からで、30代後半になってから。この時点では29歳だった。

  

 

 

 

 

 


人工楽園の少女 3

2011年01月21日 15時06分35秒 | 文芸
◆ラフレシア


ラフレシア・アーノルディ
あなたの名前だけれど
ラフレシア・アーノルディ
なんだか、王国の名前みたい

わたしの 秘密の植物園に
あなたがつくっている王国のこと?
生きているのに死のにおいがするわ
それとも あなたの根っこが
あちらの国までのびているせい?

あなたの花弁を よじのぼって
ときどき だれか 帰ってくるのね
ラフレシア・アーノルディ

きっと いつか 王国の入口がひらくわね。
どちらにしても つなかっているのだから
 
       ユーリア・A・バルテュス(詩集『植物園』から)

人工楽園の少女 2

2011年01月21日 15時03分09秒 | 文芸
◆ひとりごと
      ユーリア・A・バルテュス(チェコ)

よびかけても、ささやいても、あなたは返事なんかしやしない。
それでも、わたしの言葉をきいているのだけはわかっている。
そんなふうに、わたしは花に水をやり、その花の茎をスルスルとのぼってくるテントウムシに、ふっと息をふきかけたりする。すこしは、こちらに気づいてほしいから。《あの、わたし、コチネラ・セブテムプンクタタCoccinella septempunctata、。こうみえて、毒があります。》もちろん、そんなこと言いはしない。《あちらの、ツタカヅラのほうへまいります。お話することもございません》そっけないそぶりもみせはしない。それでも、そのナナホシの旅人が、わたしの花のうえまでのぼってきて、しばらくじっとしていると、あなたが誰だかわかってくるの。去年の夏も会ったわね。それとも、あなたの母親かしら。その母親のそのまた母さんだったのか。100年まえには、そんな姿じゃなかったようね。でも、歩き方はかわらないみたい。せわしなく、細い道をたどって、なにかの品を売り歩いていた。あの人でしょう?《さあてね、なんのことでしょう。ネッカチーフの模様がにていただけなんでしょうよ》わたし、ネッカチーフのことなんか、言ってなかったのに。
               

人工楽園の少女

2011年01月21日 14時59分32秒 | 文芸
◆「人工楽園の少女」断片
        ユーリア・アマリア・バルテュス(チェコ)1970年代 詳細不詳


わたしの庭には、不思議な季節がいすわっている。
すべての季節があるのに、それでいて、どの季節でもない。
わたしの庭には、不思議な東屋(あずまや)がある。
会いたい人がいつも来るのに、それでいて、だれもいない。
わたしの庭には、不思議な光の時計がある。
影の針が太陽におくれて動きだす。月にさきがけて動きだす。
その文字盤は油断がならない。
どこの国の文字か思い出せない奇妙な時刻のうえを、影が動いていく。
わたしが使っていたはずの、なつかしい文字なのに、いまは一言も読めない。
そうだ、あの頃は、すべてを覚えていて、わたしが誰だかも知っていた。
わたしをみつめている人のことも、ほんとはよく知っていた。そうだ、あなたなのね、と。
それで、わたしはひどく安心して、庭の植物たちに水をやっていた。
水をそそぐたびに、わたしのほうが大きくなるような気がしてた。
それなのに、さかしまさかしま、すべてが反対に動きだす時間がある。
咲いていた花が、蕾になって、茎がちぢんで双葉になって、気がついたら種になって、わたしのてのひらにのっている。
まるで、やりなおしてほしいといっているみたいに。

名作引用 ベルギー

2011年01月20日 19時17分47秒 | 文芸
■ジャン=リュック・シニエ 『サフラン色の横町』(1997年)から




幾千の河に橋を渡し 祝いの朝に町をたちさる。
ひとが まだ 夢路をたどるうちに、
わたしは空にかえる 孤独な鷲のように。
祭りの日のかがやきに 堪えられるわけもないから。

名前の引用

2011年01月20日 15時48分05秒 | 文芸
ゲオルク・プールバッハ
ミハイル・パークニン
ジュリオ・ドゥーエ
ジョバンニ・ジエンティーレ

ハワード・ホークス
フサオ・ハヤシ
ハンス・アルヴェーン
ベニー・グッドマン
ジュリアス・アクセルロッド

ハル・クレメント
アニエス・ヴァルダ
ロバート・ライマン
アレクセイ・レオーノフ
ヒロ・ヤマガタ

フェルナンド・ルゴ
スティーブン・ジェラード

ピーテル・バウル・ルーベンス
ヴォルテール
フェルナンドⅢ
ジャンヌ・ダルク
シャルルⅨ
クリストファ・マーロウ
アレキサンダー・ポープ
フランソワ・ブーシェ
ウィルバー・ライト
ゲオルギー・プレハーノフ
ゲオルク・フォン・トラップ
ヘルマン・プロッホ
ボリス・パステルナーク
ラファエル・トルヒーヨ

レオ・シラード
クロード・レインズ
マルセル・デュプレ
カール・カルステンス
ファン・カルロス・オネッティ
ジャン=クロード・ブリアリ
トルステン・アンデルソン


    Same day they cam and gone......and I

私的「名作」引用

2011年01月20日 01時48分39秒 | 文芸

名作引用ウラジミール・カシン作『孤島』より (一九二九年)


海鳥たちの白いフンによごれた岩礁だらけの、冷たく青黒い北の海に浮かぶ島。サハリンの南端から西に二百海里。その島には測候所がひとつあって、観測員がひとりだけ長期滞在している。彼の名は、ユーリ・コルチャコフ。彼の仕事といえば、定時の観測データを本国に送信するだけ。無電で気圧と風向、気温と湿度などを打電する。その仕事がすむと、観測員コルチャコフは釣りざおをかついで岩礁だらけの磯へおりていき、今夜の食糧の魚を二三匹釣るのだ。観測所の庭には、生育の悪い青菜の畑があって、冬季をのぞけばパセリや根菜がすこしだけ採れる。その野菜を惜しみながら摘む。次の観測時間まで、観測員は自分の部屋でサモアールでお茶をわかしながら、読みかけのツルゲーネフの小説などのページを開くのだ。この流刑地のように孤島に赴任してから、はや六年になる。本国からの交代員が、シベリアで事故にあって行方不明になって以来、帰還の命令はついぞ来なくなった。

三か月に一度、便船がサハリンからウラジオストックへむかう途中補給品や手紙を運んでくる。食料品や生活必需品、それにウラジミールがウラジオストックの商館から買ってきてほしい品を紙に書いててわたす。便船は、岩礁の多い島には横付けできず、たいがいはボートがちかづいてくる。こちらかにらもボートをだして会場で品物を受け取るがふつうだった。便船の船長ニコライとは顔なじみだった。ニコライは、インクや紙類、紅茶やジャム、ジャガイモや小麦粉の袋のはいった木箱をウラジミールのボートに乗せてくれながら、いつも気の毒そうに、きづかわしげに微笑むのだ。あるとき、ニコライは一匹のロシア犬の子犬を、唐突にウラジミールのボートにほうりこんだ。「こいつは友達だよ!」といって。意外な贈り物に、ウラジミールは当惑したが、いまでは孤島での唯一の話し相手だった。ピョートルとなづけたその犬は、せまい孤島を元気にくるくるし走りまわり、ウラジミールをはらはらさせた。まるで子どもができたみたいだった。それから、ウラジミールとピョートルは釣り上げた魚をわけあいながら、ながい月日をすごすことになった。

 

 


天沼春樹 書誌情報50音順

2011年01月18日 14時54分09秒 | 文芸

天沼春樹(あまぬまはるき)著作リスト(タイトル50音順)
 国立国会図書館書誌による。

◆ アウトサイダーの追跡 / ハンス・クナイフェル,エルンスト・ヴルチェク[他]. -- 早川書房, 2008.9. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
◆ 赤ずきん / グリム兄弟[他]. -- パロル舎, 2005.4. -- (絵本グリムの森 ; 6)
絵本「あめふらし」 / グリム兄弟,出久根育画[他]. -- パロル舎, 2001.11. -- (絵本グリムの森 ; 5)
◆ アラスの使命 / ウィリアム・フォルツ,H.G.フランシス[他]. -- 早川書房, 2003.8. -- (ハヤカワ文庫)
◆ アリストピア / 天沼春樹[他]. -- パロル舎, 2000.5
◆ あれほしいよ / あまぬまはるき[他]. -- アスク講談社, 1990.6. -- (あかちゃんじゃないもん・しつけ絵本 ; 4)

◆アンデルセン全集1/H.C.Andersen,ドゥーシャン・カーライ画/天沼春樹訳/西村書店,2011.8--
アントン・ベリーのながいたび / 天沼春樹[他]. -- 鈴木出版, 2007.2. -- (ひまわりえほんシリーズ)
◆ イザンティムルの従者 / ハンス・クナイフェル[他]. -- 早川書房, 2000.10. -- (ハヤカワ文庫 ; 264)
◆ 1異次元からの災厄 / H.G.エーヴェルス,クラーク・ダールトン[他]. -- 早川書房, 2009.3. -- (ハヤカワ文庫 ; SF1701)
◆ いつかこの闇をぬけて / インゲボルク・バイヤー[他]. -- ほるぷ出版, 1997.8
◆ エリスガンの地底帝国 / H.G.エーヴェルス,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 1998.9. -- (ハヤカワ文庫 ; 243)
エルフの血脈 / アンドレイ・サプコフスキ[他]. -- 早川書房, 2010.10. -- (ハヤカワ文庫 ; FT514)
◆ 狼がくるとき / アルフレート・C.バウムゲルトナー[他]. -- 佑学社, 1989.7
カンパネルラ / 天沼春樹[他]. -- パロル舎, 2001.9
◆ カール大帝と十字軍の遠征 / 河原温[他]. -- 全面新版. -- 集英社, 2002.11. -- (集英社版・学習漫画 ; 6)
◆ 1不時着! / ハンス・クナイフェル,クラーク・ダールトン[他]. -- 早川書房, 1999.12. -- (ハヤカワ文庫 ; 256) ◆ 月 / グリム兄弟[他]. -- パロル舎, 1999.12. -- (絵本グリムの森 ; 4)
◆ きみがしらないひみつの三人 / ヘルメ・ハイネ[他]. -- 徳間書店, 2004.3 ◆ 旧ミュータントの帰還 / エルンスト・ヴルチェク,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 2004.4. -- (ハヤカワ文庫)
◆虚無への追放 / Cクルト・マール[他]. -- 早川書房, 2002.7. -- (ハヤカワ文庫 ; 281)
◆ グリムコレクション. 1 / ヤーコプ・グリム,ヴィルヘルム・グリム[他]. -- パロル舎, 1996.6
◆ グリム・コレクション. 2 / ヤーコプ・グリム,ヴィルヘルム・グリム[他]. -- パロル舎, 1997.4
◆ グリム・コレクション. 3 / ヤーコプ・グリム,ヴィルヘルム・グリム[他]. -- パロル舎, 1998.12
◆ グリム・コレクション. 4 / ヤーコプ・グリム,ヴィルヘルム・グリム[他]. -- パロル舎, 2001.9
◆ 芸術のヒーロー伝 / 日本児童文芸家協会. -- 教育画劇, 2009.4. 歴史のヒーロー感動の名場面 ; 4巻)
◆ 現代文化の開拓者 / 天沼春樹. -- ぎょうせい, 1999.10. -- (物語・20世紀人物伝 ; 第6巻)
◆ 2虚空の獄舎 / H.G.エーヴェルス,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 1998.12. -- (ハヤカワ文庫 ; 246)
◆ 子どもに語る聖書 / 小塩節,天沼春樹. -- こぐま社, 1998.10
◆ 子どものころ読んだおとぎ話37選 / 天沼春樹. -- 東京書籍, 1999.9
◆ 子どもの文学100選 / 國文學編集部. -- 學燈社, 2009.3
◆ サイナック脳の謀略 / クルト・マール,H.G.エーヴェルス[他]. -- 早川書房, 2005.11. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
◆ 三惑星ウィルス包囲網 / ハンス・クナイフェル,H.G.フランシス[他]. -- 早川書房, 2001.4. -- (ハヤカワ文庫 ; 269)
◆ 静かな監視者の惑星 / エルンスト・ヴルチェク,ハンス・クナイフェル[他]. -- 早川書房, 2006.4. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
◆ しらゆきひめ / グリム兄弟[他]. -- パロル舎, 1998.7. -- (絵本グリムの森 ; 3)
◆ 聖なる隕石の都市 / H.G.フランシス,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 2003.3. -- (ハヤカワ文庫 ; 288)
◆ 世界の怪奇伝説博物館 / 天沼春樹. -- くもん出版, 1996.9. -- (ミステリーファイル ; 6)
空の旅 / ヘルマン・ヘッセ[他]. -- ゼスト, 1999.4
◆ タイム・バード / 阿川佐和子、天沼春樹[他]. -- 全日出版, 2004.10. -- (ファンタジーの宝石箱 ; v.3)
◆ タイム・バード [点字資料] / 産経新聞文化部[他]. -- 日本ライトハウス, 2006.1 ◆ タイムマシンクラブ. 1 / 天沼春樹,香西美保[他]. -- くもん出版, 2010.3
◆ タイムマシンクラブ. 2 / 天沼春樹,香西美保[他]. -- くもん出版, 2010.3
◆ タイムマシンクラブ. 3 / 天沼春樹,香西美保[他]. -- くもん出版, 2010.3
◆ 太陽系の楯 / H.G.エーヴェルス,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 2002.3. -- (ハヤカワ文庫 ; 278)
◆ 戦いのヒーロー伝. 1巻 / 日本児童文芸家協会[他]. -- 教育画劇, 2009.2
旅うさぎ / 天沼春樹、水野恵理画[他]. -- パロル舎, 1999.2
◆ 短編!ほんとうにあった感動物語. 4. -- 学習研究社, 2009.2
◆ 地球最後の奇術師 / ウィリアム・フォルツ,クラーク・ダールトン[他]. -- 早川書房, 2006.10. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
◆ 超重族レティクロン / ウィリアム・フォルツ,H.G.エーヴェルス[他]. -- 早川書房, 2007.2. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
◆ テラナーとサイノス / ハンス・クナイフェル,H.G.エーヴェルス[他]. -- 早川書房, 2001.9. -- (ハヤカワ文庫 ; 273)
◆ テラの密使と宙賊レディ / エルンスト・ヴルチェク,H.G.エーヴェルス[他]. -- 早川書房, 2000.1. -- (ハヤカワ文庫)
◆ テラ=ルナ脱出作戦 / クルト・マール,H.G.フランシス[他]. -- 早川書房, 2007.7. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
ドラゴンゲート. 上巻 / ジェニー=マイ・ニュエン[他]. -- 柏書房, 2009.3
ドラゴンゲート. 下巻 / ジェニー=マイ・ニュエン[他]. -- 柏書房, 2009.3
◆ ドロップス / ヤン・デ・ツァンガー[他]. -- パロル舎, 1996.6
◆ ながいおはなのハンス / ジェームス・クリュス[他]. -- ほるぷ出版, 1991.12
猫町∞ / 天沼春樹. -- パロル舎, 1997.5
◆ 猫路地 / 天沼春樹、東雅夫編. -- 日本出版社, 2006.5
◆ ノアルの手紙 / 天沼春樹[他]. -- 新風舎, 2001.8
◆ ノパロールの地下霊廟/ウィリアム・フォルツ,クラーク・ダールトン[他]. -- 早川書房, 2005.6. -- (ハヤカワ文庫 ; SF)
働く僕ら / 天沼春樹・太田蛍一[他]. -- リブロポート, 1991.1. -- (a-tempo ; 2)
◆ 発明のヒーロー伝 / 日本児童文芸家協会. -- 教育画劇, 2009.4. --
◆ 発明・発見への挑戦 / 天沼春樹. -- ぎょうせい, 1999.6. -- (物語・20世紀人物伝 ; 第2巻)
◆ 話のびっくり箱. 2001 上. -- 学習研究社, 2001.6
◆ 話のびっくり箱. 5年 下. -- 学習研究社, 2006.11. -- (科学と学習増刊 ; 読み物特集号)
◆ パラドックス知性体 / エルンスト・ヴルチェク[他]. -- 早川書房, 2003.12. -- (ハヤカワ文庫)
◆ パルピロンの闘技会 / H.G.エーヴェルス,エルンスト・ヴルチェク[他]. -- 早川書房, 2004.8. -- (ハヤカワ文庫)
◆ ひこうき / イアン・グラハム[他]. -- 岩崎書店, 2000.4. -- (のりものスピード図鑑 ; 3)
飛行船 / 天沼春樹. -- KTC中央出版, 2002.10
ひこうせん / ロクシー・マンロ[他]. -- 福武書店, 1991.9
飛行船帝国 / YA,天沼春樹. -- ほるぷ出版, 1993.7
飛行船ものがたり / 天沼春樹. -- NTT出版, 1995.3
◆ 氷界から来た男 / ウィリアム・フォルツ,H.G.エーヴェルス[他]. -- 早川書房, 2002.10. -- (ハヤカワ文庫 ; 284)
ヒンデンブルク炎上. 下巻 / ヘニング・ボエティウス[他]. -- 新潮社, 2004.8. -- (新潮文庫)
ヒンデンブルク炎上. 上巻 / ヘニング・ボエティウス[他]. -- 新潮社, 2004.8. -- (新潮文庫)
◆ フェリックスとお金の秘密 / ニコラウス・ピーパー[他]. -- 徳間書店, 2008.7
◆ 不思議な魔法」にかかる本 / 天沼春樹. -- 三笠書房, 2001.10. -- (王様文庫)
◆ 不死者発!救難インパルス / クラーク・ダールトン,H.G.フランシス[他]. -- 早川書房, 2000.4. -- (ハヤカワ文庫 ; 259)
◆ ふね / イアン・グラハム[他]. -- 岩崎書店, 2000.4. -- (のりものスピード図鑑 ; 4)
◆ 不良とよばれたベン / ヤン・デ・ツァンガー[他]. -- 金の星社, 1988.6. -- (文学の扉)
◆ ブルーノはおかんむり / カーチャ・メンズィング[他]. -- 福武書店, 1994.6
◆ ヘンゼルとグレーテル / グリム兄弟[他]. -- パロル舎, 1997.10. -- (絵本グリムの森 ; 2)
◆ ベラグスコルス強奪 / ウィリアム・フォルツ,ハンス・クナイフェル[他]. -- 早川書房, 2009.11. -- (ハヤカワ文庫 ; SF1731)
◆ ペルダシストの叛旗 / H.G.エーヴェルス,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 1998.8. -- (ハヤカワ文庫)
◆ 冒険のヒーロー伝 / 日本児童文芸家協会. -- 教育画劇, 2009.4. -- (8分で読める!
◆歴史のヒーロー感動の名場面 ; 3巻)
◆ 魔法世界への旅 / 天沼春樹,水月ルツ. -- 東京書籍, 2003.8
◆ 強行出撃! / エルンスト・ヴルチェク,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 2001.8. -- (ハヤカワ文庫)
◆ まんがグリム童話. 第6巻 / 樋口雅一[他]. -- 講談社, 2003.7. -- (Kodansha sophia books)
◆ マークス惑星応答なし / クルト・マール,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 2005.1. -- (ハヤカワ文庫)
水に棲む猫/天沼春樹. -- パロル舎, 1996.8 受賞作品
◆ 緑の石食い虫 / ベルンハルト・クナーベ[他]. -- 西村書店, 2000.7
◆ 緑の侵入者 / クラーク・ダールトン,ウィリアム・フォルツ[他]. -- 早川書房, 1998.5. -- (ハヤカワ文庫 ; 240)
◆ メルヘン標本箱 / 天沼春樹. -- NTT出版, 1993.9
◆ メールストロームでの邂逅 / ウィリアム・フォルツ,H.G.フランシス[他]. -- 早川書房, 2008.2. -- (ハヤカワ文庫)
郵便配達マルコの長い旅 / 天沼春樹[他]. -- 毎日新聞社, 2004.2
夢童子 / 天沼春樹. -- パロル舎, 1999.7
夢みる飛行船 / 天沼春樹. -- 時事通信社, 2000.12
◆ ヨーロッパ精神とドイツ / 小塩節,編集委員会. -- 郁文堂, 1992.10
◆ ラプンツェル / グリム兄弟[他]. -- パロル舎, 1996.11. -- (絵本グリムの森 ; 1)
◆ リックとリック / エリック・バトゥー[他]. -- ほるぷ出版, 2003.10
◆リトル・レトロ・トラム / 天沼春樹[他]. -- 理論社, 2007.12
◆われらスキンヘッズ / マリー・ハーゲマン[他]. -- ほるぷ出版, 1994.6