アポカリプス Απōκάλυψις
あるいはペテル・ウフナ―ルの部屋
01
世界が逆まわりに閉じていく。ひろがりつづけ、ふくらみつづけた貪欲な世界に、欲望をひろげ、食指をのばし、むさぼっては吐きだしていた汚らわしい生き物たちに、とうとうさかしまの時が訪れた。
世界はもはや無限にひろがりはしない。むすんでひらいてのたとえよろしく、本日、この瞬時、世界は逆まわりに閉じていく。生きものたちは、もはや増えもせず、ひとつの黒い塊へと凝固していくのみ。きみに残された時間があるとすれば、逆まわりに閉じていく世界の終り近くに、身も知らぬ孤独な祖先たちの幻影を見るだろう。しかし、それもわずかな時間だ。時間? 時間だとて、もはや意味をなさない。あらゆる時の流れが、逆流し、収束しはじめたとき、あらゆる方角からさかしまの時の中をちりぢりに砕かれながら墜ちてゆく無数の破片が灰色に光るだけだ。
02
きみはなにを見るだろうか? このΑπōκάλυψιςの刹那に。アポカリプス--------『黙示録』の時。
さしずめ呼びだされるのは預言者たちだ。あるいは預言獣とでもいおうか。見よ! 猛々しい獣たちのかわりに、静謐なる預言者たちが、きみたちの系統樹の源に姿をみせはじめる。進化を厭い、たった一頭で地に立ち、そして滅んだものたちが。賢明であったゆえに子孫を残さず、愚者に勝ちをゆずって立ち去った者たちだ。わたしは、たったひとりでいい。わたしに似たものたちなどいらぬ。わたしの苦悩と孤独はわたしだけのもの。孤独がわたしを養い、生きさせていたのだから。孤独に歩む者、アンチ・エントロピウス! わが同胞たちは、そのふたつ名を拒まない。
03
最後の地獄めぐりに連れはいない。せめて、出会った者たちに耳をかたむけるがいい。しかし、ことわっておくが、どの道をたどろうが、きみは巨大な石の一部になるしかないのだよ。知識も悟りも、もはや意味がない。もうすこしはやくそれを手にいれるのだったね。
翼あるものたちに運ばれながら、きみはその声をきくだろう。きみの小さな翼で、こざかしく羽ばたくまえのことだよ。
04
さあ、封印をとかれた子羊がみえるだろう。子羊は語ってやまない。無量大数の言葉をつなげ、あれほどきみたちに説いてまわったのに。
きみたちはそれを記録するのにいそがしく、けして理解しようとはしなかった。子羊の子孫がいないわけがわかるだろう?