Justice! 社会正義の実現!所得充実政策!ワクチンより検査を積極的に推奨! / 薬剤師・元参議院議員・消防団
ひらがな5文字の「はたともこ」ブログ
〈検証Ⅱ〉獣医師の配置を間違えた宮崎県:鹿児島大・岡本嘉六教授に学ぶ口蹄疫対策
「火消しは獣医師でなくても出来るのに、燃え盛る火事現場に獣医師を集めた結果、火の粉がどこまで飛んでいるかを調べる発生動向調査が疎かにされた。ヒトに伝染病が発生したとき、医師を葬儀場に集めるような愚挙をやめない限り、口蹄疫拡大を止めることはできない。」鹿児島大学・岡本嘉六教授の怒りをも込めた一言です。この岡本教授の指摘に従い宮崎県の口蹄疫対策が見直され、更に隣接各県において適切かつ強力な防疫体制が速やかに構築されることを、とにかく望みます。
人(獣医師)が足りない足りないと、常に言い訳をする宮崎県知事ですが、十分な数の獣医師を確保できない中、殺処分や埋却に集中して獣医師を投入する今のやり方は、防疫対策上極めて不合理です。本来、防疫対策の要でなければならない獣医師を、ワクチン・殺処分・埋却に集中投入したことが、周辺地域での野放図な感染拡大を招いた最大の理由です。すなわち、今回の口蹄疫パンデミックは、誤った防疫対策のために引き起こされた、途中からは明らかに「人災」なのです。
また一方で、今回は高電圧による殺処分も行われていますが、この方法は熟練した技術者でなければ難しく、未経験の獣医師がその場にいても役に立たないことがはっきりしています。宮崎県が獣医師の配置を間違えたことは明らかで、その結果、周辺地域の農場に立ち入り、飼養状況・家畜観察・検体採取・診断などの「積極的発生動向調査(サーベイランス)」が行われず、封じ込めに失敗し、被害を拡大させてしまったのです。
「獣医師が一旦殺処分に従事すると、口蹄疫ウイルスが上部気道に付着し、その一部は増殖して風邪症状を呈するため、当分の間、清浄地域の発生動向調査に携わることができなくなる。これでは、発生農場周囲の立入り調査活動を誰がするのか?」と岡本教授は嘆いています。
6月4日、主に国による経済的補償を根拠づける「口蹄疫対策特別措置法」が施行されました。しかし、本来この特措法では、防疫対策の要としての獣医師の権限・裁量・立場を明確にし、獣医師が、殺処分ではなく発生動向調査に積極的に従事できるよう法的裏付けを定めるべきでした。
発生予測地域での先手先手の防疫対策が封じ込めには不可欠で、その指揮官こそ専門家たる獣医師でなければならないのです。今からでもワクチン・殺処分・埋却は自衛官や警察官に依頼し、周辺地域・隣接各県においては、獣医師が積極的に発生動向調査を実施すべきであり、そうしなければ今回の口蹄疫パンデミックを終息させることはできないのです。
規模がここまで拡大すると迅速な殺処分は不可能に近く、今となっては、殺処分と積極的発生動向調査に基づいた的を絞ったワクチン接種とを系統的に行うことしか、宮崎県に有効な手立てはありません。現状の発生動向調査に基づかないワクチン接種にあまり意味のないことは、今なお感染拡大が進行していることが証明しています。ワクチンをただ打てば良いという問題ではないのです。
宮崎県知事は、国による全面的な補償が約束されない限りワクチンも埋却も行わないという、プライオリティを見失った信じがたい態度を崩さず、一刻を争う対策に自らブレーキをかけてきました。種牛の処分に抵抗した知事の気持ちもわからなくはありませんが、結果的にその間更に感染は拡大してしまいした。結論は見えているのに、県知事が感情に流された結果、あらゆる意味で損失が加速度的に膨れ上がりました。
宮崎県のプレスリリースを丹念に見れば、公式発生直後しばらくの間、一般車両の通行に制限はなく、家畜運搬車両についても夜間であれば自由な移動が可能であったことがわかります。これが感染拡大の大きな要因となったことは、今更言うまでもありません。獣医師の配置を間違えたことも重大な過失ですが、宮崎県の初期段階でのガバナンス・リスクコントロールの甘さもひときわ目立ちます。
それにしても何故、防疫には素人の現宮崎県知事が、感情を露わにしつつ、今回陣頭指揮をとってしまったのでしょうか。その理由は、意外なところにありました。昨年までは、全国に組織されていた「家畜畜産物衛生指導協会」が、家畜伝染対策についての情報をホームページ等を通して提供してきました。ところがこの組織が事業仕分けの対象となり、鹿児島など一部の県を除き宮崎県などその多くの県で解消してしまったのです。国や県の退職者(家畜防疫官や家畜防疫員であった獣医師のOB)らによる組織であったことが災いしたようですが、今となっては今回のパンデミックとその経済的損失を考えると本末転倒としか言いようがありません。
とうとう6月10日、鹿児島県境の都城まで感染が拡大し、鹿児島県をはじめとする隣接各県への飛び火は時間の問題となりました。本来とるべき対応から大きくはずれた宮崎県の対応を反面教師として、隣接各県は適切で強力な防疫体制を構築すべきです。政府も、これまでの認識をあらため、隣接各県が同じ轍を踏まないよう正しいサポート体制を敷かなければなりません。
例えば鹿児島大学・岡本嘉六教授のような方に防疫指揮官を委任し、専門家による迅速な指揮系統の確立を急ぐべきではないかと、私は強く思います。
★口蹄疫の蔓延を防止するための殺処分にあたるものが、獣医師でなければならないという規定はありません。家畜伝染病予防法においては、「家畜の所有者」は家畜防疫員(獣医師)の指示に従い直ちに当該家畜を殺さなければならないとし、緊急性がある場合には家畜防疫員(獣医師)自らが当該家畜を殺すことができると定めています。口蹄疫対策特別措置法では更に、知事の勧告を大臣が代執行できるとしています。
大量の殺処分となった今回の場合は、より現実的な対応として、「殺処分→搬送→埋却」の一連の作業を組織行動のとれる自衛隊に要請し、獣医師は、防疫対策の本来の要であるまだ発生が確認されていない周辺地域の農場に立ち入り、飼養状況・家畜観察・検体採取・診断などの「積極的発生動向調査(サーベイランス)」に専念することが最も重要だと、岡本教授は指摘しています。
〈検証Ⅰ〉「1/7付『韓国における口蹄疫の発生について』農水省動物衛生課長通知」は周知徹底されたのか
1月7日付の「韓国における口蹄疫の発生について」との農水省動物衛生課長通知を受けて、一部の県ではホームページ上でも地元農家に対して注意喚起を行っていますが、宮崎県ではホームページで情報提供・注意喚起を行った形跡はありません。1月7日の農水省通知が宮崎県でも徹底されていたなら、感染の拡大を防ぐことが出来たのではないかと今更ながらに強く思います。
4月9日、児湯郡都農町の農家で、口内がただれた牛が見つかりました。宮崎県は獣医師を派遣しましたが、症状が軽く他に症状のある牛もいなかったという理由で「経過観察」とし口蹄疫の検査を行いませんでした。二週間後の4月23日、あらためて東京の独法・動物衛生研究所に検体を送り、この牛は口蹄疫陽性と判定されました。
また、それ以前の3月31日、都農町の別の農家の水牛に風邪のような症状がありました。農家がかかりつけの獣医師を通じて宮崎県家畜保健衛生所に、「水牛が発熱している。牛乳の出も悪い」と連絡したところ、その日のうちに同衛生所の家畜防疫員(獣医師)が立ち入り検査を実施しましたが、4頭の水牛に発熱・下痢等の症状を確認するも「普段の下痢」と判断して通常の風邪の検査だけを行うにすぎませんでした。このとき採取した検体が保存されていたので、あらためて検査を行った4月23日、この水牛は口蹄疫陽性と判定されました。
この2例に対する県の対応は、国が定める「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に明らかに違反しています。同指針では、確実な診断が得られるまでは農場を閉鎖し防疫関係者以外の立ち入りを禁止しなければならず、その場で口蹄疫が否定できない場合には家畜保健衛生所は都道府県畜産主務課に連絡するとともに、家畜防疫員(獣医師)は独法・動物衛生研究所に検体を搬送し検査を受けなければならないとしています。
宮崎県は1月7日の農水省通知をきちんと踏まえ、上記二例の場合も直ちに口蹄疫を疑い、「指針」に則った対処をしなければなりませんでした。指針に則り対処していれば、4月12日・13日、安愚楽が川南の牧場からえびのの預託牧場に牛を移動・出荷することも、防ぐことができたはずです。口蹄疫を否定できる根拠がない限り、農家は農場を閉鎖し口蹄疫の検査を受けなければならず、この指針通りに動いていれば、宮崎県がこれほどまでの口蹄疫パンデミックに陥ることはなかったのではないかと思います。
1月7日の農水省通知を、何故すべての都道府県が周知徹底できなかったのか。農水省は周知徹底を確認したのか。何故、口蹄疫類似症状を前に、指針に則った対応を宮崎県はとることができなかったのか。その検証は、今後のリスクコントロールの在り方を考える上でも非常に重要です。
(訂正)この文章の8行目「4月23日」を「4月19日」に訂正します。6月20日付〈検証Ⅲ〉では「4月19日」と記していますが、このたび東国原英夫知事のブログで指摘を受けましたので、あらためて訂正させていただきます。(6月22日23:16)
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