平方録

ミナトの歯科診療所

目の前に横浜港が広がるビルの一角にある歯医者へ。

ようやく天候が回復したので、自転車。
駆け出し時代のこと。勤務中に歯がとても傷み、我慢しきれなくなって近くの診療所に飛び込んで見てもらったら、原因は親知らず。
書かされた問診票の職業欄を見たのだろう、当時の院長が「忙しそうだから、すぐにやってあげるよ」といわれ、あれよあれよという間に抜いてもらった。
以来40年の付き合い。
当時は2人きりの診療所だったが、最盛期にはどの時間に行っても混み合っていて、医師も20人をはるかに超えていた。
今や医師の数は10数人に減り、待合室が込み合うこともほとんどない。時代の流れはここにも垣間見える。
現院長は当時入りたての第1号。いわば、生え抜き中の生え抜き。ここ30数年の主治医である。

口の中全体を調べ直してみましょう、とレントゲンを撮られる。
肝心の土台は歳相応らしいが、当分何とかなりそうなので一安心。しかし「奥歯の1本に虫歯になりそうなところがあるので、かぶせものをします」といわれ、随分と待たされた挙句に麻酔を打たれて「工事」が始まってしまった。
今回は30~40分で終わるだろうと踏んで出かけたのだが、なんと診療所を出たのが5時半近く。2時間も費やしてしまった。
終わった後は港周辺を自転車で散策して帰ろうと思っていたのにあてが外れる。

この横浜港大桟橋の付け根までの距離はわが家から23キロ。
大磯の旧吉田茂邸まで片道28キロだから、たいしたことはない。
ただ、波打ち際に沿って伸びるサイクリングロードをスイスイ走るのと違って、車や人に注意を払って走る分、神経の使い方が違う。
最大の相違点は爽快感である。
車の往来の激しい幹線道路は避けて、裏道を行くのだが、至る所に一時停止やら信号やらあって、スピードは上がらない。
幹線道路を車に交じって走ればスピードは上がるが、最近はそういう走り方は趣味ではない。
のんびり、きょろきょろあたりを見渡しながら、花の咲き具合やら、街の佇まいやら、さまざまな空気を味わうのを楽しみにしている。
旧吉田邸までゆっくり走っても1時間20分程度だが、23キロに1時間半近くもかかってしまった。

歯医者が手間取った分、帰り道は途中の七曲りの坂あたりでとっぷり暮れてしまい、自転車のライトを頼りに走るため、更に速度は落ちる。
鎌倉市内に入ってわが家に至る道筋は、車がめったに通らないような所を選んで走るせいもあるが、街灯もなく、真っ暗なところもある。
自動車のライトと違って、光は弱いし、路面のごく一部分しか照らさないから、手探りで進むようなものである。
暗闇から急に人影が現れてびっくりしたりもする。
安全そうな道を選んで戻ってきたせいもあるが、おかげで2時間もかかった。

自転車というのは昼間の乗り物である。しかも、良く晴れて風の弱い日がベスト。徒歩で旅をした昔の人と同じである。



春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。


今回は小部屋に閉じ込められ、港が見えなかったのが残念
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