赤レンガ倉庫の脇を抜け、みなとみらいの高層ビル群の間を進む。横浜の代表的な観光スポットである。
正午までまだ間のある時間帯。ウイークデーだし、観光客の姿はまばらで静か。
フト懐かしいものが目に入った。
われらが「ジャックナイフ」
かれこれ10年になる。東京勤務の折、全国の仲間と時々ここに繰り出した。
「良いバーに案内するよ」と言って誘いだしたのだが、当時は本牧ふ頭の端っこの運河沿いにあり、薄暗がりでタクシーを帰してしまうと心細いようなところである。しかも角をまがった奥の暗がりに隠れるようにして止まっている古びたバスが目指す先である。辺りに街灯などなく、周辺の道路や対岸の倉庫やビルの常夜灯の頼りない光だけが頼り。もちろん人気はまったくなく、その怪しさにみな喜んだものだ。
特に夏は良かった。
バスの中にも照明らしい照明はなく、蝋燭のか細い光だけ。
運河に映る周囲の明かりが浮世離れしてやけに幻想的に見えたものである。
おんぼろバスの後部にある非常口を開け放つと、運河を渡ってくる自然の風も心地よかった。
そんなわれらの隠れ家だったが、港湾局から立ち退きを迫られ、一時は存続が危ぶまれた。
今の場所に収まったのは4、5年前だが、運河沿いという共通点はあるものの、怪しさという点から見ると少し賑やかなところに近づきすぎたきらいがある。
見られているというか、飲んでいて何か落ち着かない。
しかし、まだまだ貴重な存在には違いない。
午前中の明るい光の中でわれらがジャックナイフはやけに老け込んで見えた。
おんぼろバスが一層おんぼろに見える。
見てはいけない物を見てしまったような、本当の姿を垣間見てしまったような…
あのあたりを通る時は、見えていても見えていないようなふりをして、気がついても気づいていないそぶりをして通りすぎるのが礼儀というものかもしれない。
惻隠の情、というやつである。武士の情けと言ったほうが良いか。
誰かを誘ってまた行ってみたくなった。
運河沿いに佇むわれらがジャックナイフ
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