平方録

旬を味わい尽くす

雨ばかり降りこめるし、バラに病害虫でも出やしないかと心配である。
もう雨は降らない、しばらく好天が続くという気象庁のご託宣を信じて、否定する材料も持ち合わせないものだから信用するのは当然として、うどんこ病の予防薬を散布したところ、夕方雨になった。

こういうのは悲しい。
何だよ。気象衛星やらなにやら、大枚払って近代的な機器を使って予報しているんだろう?
しっかりしてよ。
せっかく散布した薬が雨に流されちゃうじゃあないの。
まあ、撒いてから6時間くらい経っているから、ある程度効果は持続するだろうけれど、3割くらいは効果が減殺されてしまったんじゃぁないだろうか。

4月に入って日照時間が極端に少ないそうで、全国各地で農作物の被害も出始めている。
雨ばかり降るのは気象庁のせいじゃあないけれど、正確に予報してくれればそれなりの備えもできるってぇものだ。

そういう嘆きとは別に、自然界はそれでも回転を止めていないようだ。
暖かい地方からのタケノコが出回り始めているし、大型連休前までには地元の初物も登場するはずである。
2月に千葉の勝浦沖で獲れたというカツオを食べたが、間もなく相模湾にも入り込んでくるだろう。あの“目には青葉山ホトトギス初鰹”のまさにそれである。
待ち焦がれたシラスはつい先日食べ、危うくほっぺたを落としかけた。特産の三浦半島の春キャベツも出回っている。アサリも同様である。
このほか春の相模湾ではサヨリ、キンメダイ、サワラ、マダイ、メバル、タコが獲れている。

こういう、いわば季節そのものを食べてきたのが日本人である。
自然が提供してくれる、その時期に一番おいしくて、しかもたくさんとれるものを味わってきた。
これぞ理にかなった食生活というべきで、たくさん出回るから値段も安いし、何より新鮮。新鮮というのは生命力にあふれているということだから、それを体内に取り込めば、ヒトの身体にも良い影響を与える。

季節の変わり目というのは、わけても冬の寒さから解き放たれる季節への移り変わりはヒトの心も解き放つから、出回るすべてが愛おしく感じられ、共感さえ覚えるのだ。
昨日は春キャベツの葉に間にベーコンを挟んで丸ごと1個を煮込んだものを食べたし、その前の日は色とりどりのたっぷりの野菜を入れたアサリのスープと洋風にアレンジした炊き込みごはんを食べた。

春キャベツは柔らかくて、矛盾するようだが歯ごたえがあり、味が濃い。味付けはベーコンからにじみ出る塩け以外はキャベツの持つ自然の甘みである。他に調味料は使わない。美味しいものだからお代りをして、あっという半個を食べてしまった。
一方のアサリは、にじみ出る出汁が効いて、この上なく春を告げているようで、思わずうなり声が漏れるほどである。貝というのは実に良い味を出す。
両方とも、にじみ出るエキスを一滴も残さずに食べ尽くす調理法なんである。
こうなると一緒に口に運ぶ酒の味もまた格別である。

ナポレオンじゃぁないけれど、余の辞書には、こういう食卓の光景を指して「贅沢」と「至福」という文字が光り輝く。




野菜のたっぷり入ったアサリのスープと炊き込みご飯


春キャベツの丸ごと煮
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