紐を使ってつるをアーチに結びつける際、厚手の手袋をしていたのではやりにくいため、右手だけ手袋を外す。
おかげで右手の指と甲は棘が刺さったり引っかいたりで、たった1日やっただけなのに傷だらけになってしまった。
パソコンのキーボードをたたくにも、たたくとピリッと痛む指がある。
名誉の負傷と言ったところか。
作業は例年より前倒して10日から始めたのだが、10日は昼前には晴れ上がったものの強風と大雨に見舞われた日で、その後も雨の日があったり、作業ははかどっていない。
つるバラのせん定作業を手伝うようになって3年目である。
つるバラの成長には目覚ましいものがあり、いまやジャングル化していると言ってよいほどに、複雑に絡み合って伸びている。
こうしたつるを1本1本バラして、不要な枝と必要な枝に寄り分け、古くなった枝は切り捨てていくのである。
バラは古い枝よりも新しく伸びた枝に、より多くの花をつけるからである。
アーチに結び付ける作業よりも、枝をほぐし、切り捨てていく作業に時間がかかるのである。
ただひたすら、絡まったものをほぐし、えり分けていくのは根気のいる作業なのだ。
「ええい、面倒な!」とばかり、バッサバサとハサミを入れるわけにはいかないんである。
9時半に着いて、4時少し前に作業を終えるまで、食事の30分くらいを除いて脚立の上で立ちっぱなしの作業である。
腰が痛くなってくるし、寒風に長時間身体をさらすので、去年は1週間ほどやった後、家に帰ってぎっくり腰を起こしてしまい、その後の作業の手伝いが出来なくなったばかりか、日常生活にも不自由を来したので、今年は腰に簡易カイロを張り付けたりして予防に之務めているのだ。
妻におにぎりを3つ握ってもらい、ゆで卵と有り合わせのおかずを持っていそいそと出かけたのである。
こういう肉体労働と言うのが性に合っているというか、特に庭仕事は好きなのである。
文字通り手弁当のボランティアだが、5月のシーズンにきれいな花をアーチを覆い尽くさんばかりに咲かせるその姿を思い浮かべながらやるのだから、むしろ作業は楽しいのである。
こういう肉体労働を終えた後の楽しみというものも、人それぞれだろうが、あるものである。
私の場合は「♪ 今日ぉの~ぉ 仕事はつらかったぁ~、後はぁ~ ショオチュウゥをあおるだけ~」という山谷ブルースの虚無的なメロディーと歌詞が頭に浮かんでくるのだ。
学生時代、真夏の横浜港で沖中士の手伝いのアルバイトをして重い荷物を担ぎ、浴びるような汗を全身にかいた後、手配師から日銭をもらい、この日銭は当然ながらピンハネされているのだが、それでも学生には満足のいく金額で、埠頭の付け根にやってきている屋台に群がって、少しばかり涼しくなった風に身を任せ、何の肉だか分からないような肉の串をほおばりながら煽る焼酎の味と言うのは今でも忘れられない。
そして労働市場から退いた身とはいえ、5時だというのに真っ暗な空の下、最寄りの駅に降り立って赤ちょうちんを探したのである。
こういうシチュエーションの場合には、行きつけの飲み屋では物足りない。
1人で疲れを癒して飲む酒は、見ず知らずのうら寂しいような酒場の方がいいんである。
既に立ち飲み屋は満員電車並みの混みようで敬遠し、大阪からやってきた派手な装いの串焼き屋のカウンターに腰を落ち着けたんである。
レインコートを着たまま、背中を丸めてホッピーをすすっていたおっさんがチラッと顔を上げたが、まだ客は1人である。
「2度ずけはダメ!」と書かれたソースの入った缶殻が目の前にあり、こういうところで飲むのは初めてである。
“なにわハイボール”と言うニッカウヰスキーを炭酸で割ったものだというものを頼み、どて焼きの串をつまむと、これが案外いけるのである。
続いて、“なにわブラック”という焼酎を辛口のジンジャエールで割った飲み物に変え、缶殻のソースに牛串を1度だけ浸してかじってみる。
そんなものがあるのかどうか知らないが、思いがけず“西成ブルース”の世界である。
これで1296円。いいねぇ。
また今日も別な店を探そうっ、と。
せん定の目的が赤ちょうちんになってしまいそうである。それもまたよしか。
脚立の上は案外高いのだ。この高さで棘と格闘するのだ。
手前が大阪名物どて焼き。奥が突き出しのキャベツと“なにわハイボール”
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