突如、この文字の連なりが頭の中に降りてきた。
この21文字がいきなり整然と流れるように並んだわけではない。
カンザン… トオクカンザン… セッケイ… ナナメ…
思い出しながら頭を巡らせると、徐々につながっていったのである。
ここまでは、つっかえながらも何とかつながったのだが、さて、その後がなかなかつながらない。
確か ハクウンショウジル… う~ん、なんだっけ。
フウリンノクレ…?…ソウヨウハ…ニゲツ…ノ…???
昔覚えたものがすんなり出てこないのは何とももやもやして、気分の悪いことこの上ない。
じらされているようでもあり、いたぶられているようでもあり…
年のせいで記憶装置が劣化してきていることは疑いようがない。
外出中の電車の中で“突如襲われた”ものだから、家に着いてすぐに書棚に直行した。
山行
遠上寒山石徑斜
白雲生處有人家
停車坐愛楓林晩
霜葉紅於二月花
サンコウ
トオク カンザンニノボレバ セッケイナナメナリ
ハクウンショウズルトコロ ジンカアリ
クルマヲトドメテ ソゾロニアイス フウリンノクレ
ソウヨウハ ニガツノハナヨリモ クレナイナリ
800年代前半に生きた晩唐期の詩人・杜牧の「山行」という題の七言絶句である。
たぶん高校一年の教科書に載っていて覚えたんだと思う。
ものさびしい秋の山を遠くのぼりゆけば、石の多い小道が、斜めにどこまでも続いている。
遥かに白雲の湧きあがるあたり、そこにも人の住みかがある。
車を停(とど)め、夕日に映える楓樹の林の美しさに、われ知らずじっと見入る。
晩秋の霜に染まった楓樹の葉は、春の盛りに咲く花よりも、さらに真紅に輝いている。
(岩波文庫 松浦友久、植木久行編訳)
今の季節にぴったり合って、しみじみと心にしみる。
鎌倉もあと3~4週間もすれば低い山並みだけど色づいてくる。
それにしても、どうして2月を「ニゲツ」と覚え込んでしまったんだろうか。
「コンゲツ」とは言うけれど「イチゲツ」「ジュウニゲツ」などと言わないではないか。
漢文はだれに習ったか忘れてしまったが、漢詩っぽくてカッコ良いと感じたからだろうか、謎である。
杜牧の詩集を手繰っていたら、この詩も甦ってきた。
江南春絶句
千里鶯啼緑映紅
水村山郭酒旗風
南朝四百八十寺
多少樓臺烟雨中
コウナンノハル ゼック
センリウグイスナイテ ミドり クレナイニエイズ
スイソン サンカク シュキノカゼ
ナンチョウ シヒャク ハッシンジ
タショウノロウダイ エンウノウチ
いいなぁ。これも大好きだ。春になると思わず口を衝いて出てくるのである。
それにしても、脳みそってぇやつはどうして自分でも思っていないことを、突如突き付けてくるんだろうか。
山紫水明の真っただ中を列車に揺られている時ならいざ知らず、屋並みの続く人口密集地域の見慣れたつまらない景色を、見るともなく、視線を窓の外に向けていたら、ふと、カンザン… が浮かんできてしまうのだから…
よもや劣化による記憶装置の暴走が始まったんじゃあないだろうナ。
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