平方録

懐かしの海

葉山の森戸神社境内にある石原裕次郎のレリーフの写真を撮っていたら、その脇に座ってじっと海を眺めていた老人に声をかけられた。

ぼちぼちヒラメが釣れ始めたんですよ。
3月くらいまで獲れるんです。

視線の先にはヨットやプレジャーボートに混じって一隻の小型漁船がジグザグと航跡を引いている。
まるで春先のように富士山がぼーっと霞み、ポカポカと暖かい小春日和のべた凪の海である。
老人は美しい景色に見とれていたのでも、日向ぼっこをしていたのでもない。
この漁船の動きをじっと追っていたのだ。

葉山で生まれ育ったんですよ。
私もモーターボートを持っていましてね。
昨日は東京から友人が遊びに来て、三崎まで行って、戻ってきてさらに江ノ島沖を通って茅ヶ崎の烏帽子岩まで行ってきましたよ。
こうして漁船の動きを眺めていると、どの辺りで釣れているか良く分かるんです。
シーズン中には1キロから1.5キロくらいの、若くて型も良い、ちょうど良い具合の美味しさになったヒラメを3、40枚は釣りますかね。
外道も良くてね、30~40センチくらいのマゴチや30センチくらいのホウボウも混じるんです。

へぇ~、ほぉ~! 何ともうらやましい話ではないか。
釣り方は竿を艫の両端から延ばし、海底に垂らした擬似針をゆっくり引いて行くんだという。

擬似針はね、牛の角を削って磨いたものが一番なんですよ。
水中で光り具合が違うんです。
引っ張ると、動き方ももちろんだけど、本物の小魚のように光って見えるんですね。
知り合いの漁師からもらったの使ってるんです。

海に出るときはいつも帽子をかぶっているのだろう。
頬から下だけが陽に焼けた顔をほころばせながら、たっぷり自慢話を聞かされてしまった。

普段は西に向かってペダルをこぐことがほとんどだが、この日は東に向かったのである。
湘南海岸と違って、こちらの海は岩場だらけで、景色がまったく違う。
逗子から葉山へのメーンストリートは国道134号で、三浦半島の突端を回って東京湾側の横須賀まで続いているが、道幅が狭く、交通量も少なくないから自転車でのんびり走るのには不向きなのである。
2000年に三浦縦貫道が開通するまで、三崎港で水揚げされた魚やダイコンやキャベツなどの三浦野菜を運ぶ大型トラックがビュンビュン行き交っていた道路なのである。
クワバラクワバラの恐ろしい道だったのだ。
そのイメージがこびりついていて、それでいつも敬遠しているのだ。

しかし、葉山までなら、細い路地をぬってゆけば、どうにかのんびり走るのは可能なのである。
御用邸の前を抜けて長者ケ崎まで行って戻ってきた。
かつて友人のところにシーカヤックを置かせてもらって、30代の終わりから50代の前半まで、漕ぎ回って遊んだのが葉山の海なのである。
毎回、自転車で通ったものなのだ。懐かしい海と街なのだ。

リタイアに際してシーカヤックの復活を考えないでもなかったのだが、そういう友だちもいなくなってしまい、逡巡してしまったのである。
時の流れとはそういうものなのかもしれない。
この日の海のようなら、絶好のカヌー日和なのである。
それにしても移動性高気圧に覆われ、晴れて20度を超す暖かい日が3日も続いたものだ。



小坪マリーナからの景色


秋になるとこの界隈の海水は澄み渡ってくる



この浜、このアングルからシーカヤックを漕ぎ出していた



森戸神社境内のレリーフと左遠方は裕次郎灯台と名島


長者ケ埼


昼に立ち寄った食堂のカツオのユッケ丼
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