「みんな仲が良くてね。新年会やるんですがあなたもどうですか」とシャワー室で誘われた。
せっかく誘ってくれたのだからと、参加したが自分を含めて8人だった。
正午から江ノ電の高架下の居酒屋。
刺し身の盛り合わせとアラ煮にご飯とみそ汁が付いていて、1400円也。
これに生ビールと焼酎のオンザロックをそれぞれ1杯ずつ飲んでプラス1000円。
集まった人は多士済々。自己紹介していったのだが、隣に座ったAさんは88歳。今でも某医系大学で教壇に立つているとかで、実に饒舌、そして健啖であった。最初気付かなかったが、江ノ島水族館の前館長さんだった。「瀬戸内海の島で暮らす100歳のおばあちゃんは毎日のように1500メートル泳いでいるんですよ。負けちゃぁいられませんよ」と元気いっぱいなのである。
Bさん。74歳。68歳まで会社勤めをしていた。クラリネットを吹き、油絵を描く毎日だそうだ。とても珍しい名前の持ち主で「あなたの名前も珍しいですよね。同じ名前の人が私のいた会社の小樽工場にいましたよ」と話しかけてきた。油絵の同好会の展覧会を駅ビルで開催中だというので帰りに寄ってみたが、5点も出品していてなかなか達者なものだった。音楽に親しんで楽器を奏で、絵筆を握り、プールに通って体を鍛える。そんなリタイア生活を思い描く人も多いだろうが、現実にいるもんですナ。
Cさん。69歳。64歳くらいでリタイアした元会社員。実直そのもののような立ち居振る舞いで。最後の会計の場面で活躍した。
Dさん。一つ年下の65歳。1時間泳ぐとくたくたになっちゃうとかで、「大変なんです」とぼやいていたが、「これから病院の図書館の貸出カウンターでのボランティア当番なんです」といっていた。感心じゃないの。
Eさん。82歳。ふるちんで新年会に誘ってくれた人。陽に焼けてあごひげを蓄えている。聞けば12人も乗れる大型ヨットを所有していて日本一周などをしていたそうだが、80歳の身には維持費がかかり過ぎて手放したが、どうにも居心地が悪くて、中古艇を見つけてきて今度は4人で所有することにした。いま整備中だが間もなく乗れるようになるという。湘南のブルジョア。カミサンに話したら「仲良くしておきなさい」だって。
Fさん。75歳。家にいると奥さんに「外に出なさいと追い出されるんですよ」と言いつつ「めまいがしてふらつくんですよね」と浮かない顔である。痩せていて、大丈夫かなと思うが、それなりにスイスイ泳いでいるから、口ほどではないのかもしれない。
Gさん。一つ年上。奥さんが要介護3の認知症で、新年会にはデイサービスに連れて行った合間に参加できた、と喜んでいた。介護のために早々と会社勤めも切り上げたそうで、プールに通ってくるのが唯一の息抜きであり体力維持に欠かせないんだそうだ。明るい人柄のようで、そんな話をしながらも笑顔を絶やさないところなどは、たいしたもんである。Aさん夫妻とプールを通じて交流があるらしく、夫妻に連れられて毎年のように沖縄の波照間島に出かけていて、認知症の奥さんは大喜びをするんだそうだ。
そんなわけで、リタイアした湘南ボーイたちは悩みや心配事を抱えつつも、明るく前向きに、健康に気をつけながら、とても元気印なのが印象的である。
小説「コチャバンバ行き」で永井龍男は湘南の人種を、けっして争いごとを好まず、裕福とはいえないものの経済的には少し余裕があって、自分の楽しみを見つけ出し、心豊かに暮らしたいと願って日々を送る人びと、として描いているが、それを彷彿させる新年会であった。
ところで、8日の小学生の水泳レッスン時間中に一人溺れて病院に運ばれたが朝方、死亡したそうである。何たることか !
信じられない出来事だが、そのため、新年会を開いた日から1週間、体制の総点検とコーチの再教育のため、一時閉鎖だそうだ。
去年の8月にも大人の死亡事故があったそうだが、こちらは病気持ちで手術を控えていながら泳ぎに来ていて亡くなったそうである。
大丈夫かいな…このプール。
▼15日にスイミングクラブから、今回の事故に関する説明と対応に関する文書が送られてきた。それによると、性別には触れていないが、事故に遭ったのは小学1年生で16:00頃からレッスンをしていた10人のうちの一人だという。一緒に泳いでいた小学生がプールの底に沈んでいるのに気付いてコーチに知らせたという。助け上げるまでに、時間にして「数十秒」。プールサイドで人工呼吸などして救急車で病院に運んだという。
14日現在入院中だそうだが、家族からは快方に向かっているとの連絡が入っている、と記述があった。直接確かめたわけではないらしい。こういう事故は類例がない、とも記してあった。どういう意味なのか、測りかねる表現である。
ともあれ、死亡事故でなくて幸いである。後遺症も残らないとよいが。(15日追記)

せっかちさでは負けないが、春の気配を感じるには、それでもまだちょっと早い気がする。