火の見下バス停の脇にある「大仏切通し」の小さな案内表示に従って路地に入ると、突如、家がなくなり杉木立が現れる。
この杉木立を抜けると目の前にいきなり切り立った崖が現れ、急な登りになっている足元には巨石が転がって、のっけから鎌倉時代の七口が如何に険しく、街に入りにくかったかを偲ばせるに十分である。
アップダウンとくねくねとした折れ曲がりを3、400メートルほど進むと、県道鎌倉藤沢線の大仏トンネルの大仏側出口の真上に出る。
この地点で、源氏山から続いている大仏ハイキングコースの終点付近と合流するから、そのまま階段を下り切って県道を下れば高徳院の大仏である。しかし、ここは合流地点を左折して急な階段を登り、ハイキングコースをたどって葛原が岡へ抜けるコースをとる。
平日はもちろんだが、暑さや寒さが極端な時期にここを歩いても、人と行き交うことは少ないが、この日は夏が過ぎて鎌倉を歩いてみようという人たちが、久しぶりの好天の予報に誘われて繰り出したようで、家族連れやアングロサクソン系と思しき外国人たちのグループと頻繁に出合った。
ずっと雨模様のぐずついた天気が続いたせいもあるのだろう。なまった身体を動かしたい欲求にかられた人びとと思われる。
思いは同じなのである。
しかし、市内に在住しているのならともかく、市外から鎌倉に遊びに来てこのコースを辿るというのは、なかなか活発で、鎌倉通である。
建長寺の裏山から入って瑞泉寺に抜ける天園ハイキングコースと並ぶ自然路だが、険しさは大仏ハイキングコースの方が上である。
この大仏ハイキングコースを甘く見てはいけない。
大仏切通し以上に急なアップダウンの繰り返しがあり、木の根っこの露出したところを階段代わりにして上り下りする場所が続く。
スニーカー程度は履いていなければ往生する険しさなのである。
この日は残暑が戻って気温は高く、時々開けた場所に出ると通り過ぎる風がひときわ心地良く感じられる。
おまけに、住宅地ではとぎれとぎれにしか聞こえなくなった蝉の声が、木々が生い茂り、低いながらうねうねと続く丘陵地帯の中ではミンミンゼミとツクツクボウシの2種類だけになってしまったが、降るような蝉しぐれがまだ続いている。
葛原が岡に出るところの案内板を見ていた家族連れから大仏までの道順を聞かれたので、もちろんハイキングコース経由を勧めた、
足元を見てスニーカーを履いた軽装だったのを確かめた上でのことである。
しばらく思案していたようだが、チラッと振り返ってみたら、ハイキングコースへの道を辿る後ろ姿を認めたので、そそのかしに乗ったと見える。
良いそそのかしに、きっと感謝していることだろう。足でもくじいていなければの話だが…
コース途中には映画007シリーズで日本が舞台になった時に登場した林間のカフェがある。そのことも教えてあげればよかったか。ヒロインは浜美枝だったが、ボンドは誰だったか…
ここに至るまでの道すがら、筋肉をつけるにはやはり肉を食べなければ、これからは細るだけだ、とか何とか、遠ざけ気味の肉も適度に食べようという話をしてきたので、大船の手前に美味しい焼き肉屋があることを思い出し、昼飯はそこにすることにしたのである。
汗をたっぷりかいて、エンジンの回転がとても滑らかになっていた我ら夫婦は、にわかに焼き肉の匂いが蘇ってきていて、特段休憩もとらず、そのまま梶原に抜ける道を辿り、円覚寺を遠望する北鎌倉の台峰の緑を抜けて、北鎌倉女学校のグランドを脇に見ながらさらに緑のトンネルをくぐり続け、山崎小の裏山から平地に下りたのである。
鎌倉の西側を取り囲む“緑の衝立”の中を縦走したことになる。
ここからさらに歩くこと20分。モノレールの富士見町駅の下をくぐり目指す焼き肉屋に到着した。何のことは無い、焼き肉を食べるために汗をかきにいったようなものである。
それでいいのさ。人生は臨機応変でなければならない。
火の見下バス停脇から入って家が尽きるとすぐに急な登り道が現れる大仏切通し
足許に巨石の転がる切り立った崖の間をすり抜けて進む
道沿いの木のうろをマイホームにしたキノコが…
大仏ハイキングコース
ハイキングコースを抜けた空き地のセンニンソウとツルボのコラボ
台峰の樹間の小道
コース途中からの円覚寺遠望
画面中央の緑の大屋根は仏殿
家は見えず、こういう景色の中をずーっと進む
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