平方録

天中殺!

2か月に1度くらいの割合で横浜にある40年来のかかりつけの歯医者に通っているのだが、予約日を間違えてしまった。
予約していた日は前日だったのだが、何を勘違いしたのか、すっかり思い込んでしまっていて、出掛ける直前まで気付かなかった。
この歯科診療所は診察カードに診察日が印字されるカードを使っているので、所持を確認するため取り出し、何げなく見たら前日の日付だったのである。
何たるミステイク! ついにボケが始まったか…

すっかり出かける気になっていたので、その診療所に何とかなりませんかと尋ねたら、30分前倒しなら空きがある、というのでダッシュで出掛けて行ったところまでは良かったのである。
ミナトに面した診療所は中華街にも近い。治療が終わり、腹ごしらえにはもってこいで、あれこれ思いあぐねるうちに「そうだ、パイコー麺にしよう!」と“その筋”にはちょっと知られた雲龍という店に行ったのである。
店の外観はみすぼらしいのだが、「巻揚」と並んで絶品なのだ。

パイコー麺は大概の中華料理店に定番のメニューだが、ここのはなぜか癖になり、時々思い出しては、どうしても食べたくなって足が向いてしまう味なのである。
カレー粉をまぶして揚げた肉がまだジュウジュウ音を立てているうちに出される一品は、ほかの店では到底味わえない。
透きとおったスープも美味しいのである。長年厨房に立っていた亭主が亡くなって、その奥さんが上手に味を引き継いだようなのだ。

同様に絶品なのが豚の内臓を覆う網脂でエビなどの具材を巻いて揚げたのが巻揚。
これは中華街広しといえど、メニューに加えている店は多くない。その中で、イチオシなのである。
紹興酒を飲みながらこれをつまみにするとこたえられないのだが、パイコ―麺と巻揚1人前は多すぎるのでこちらは断念した。
紹興酒以外ではハイボールとかチューハイで合わせると、飲み過ぎてしまうのではないだろうかと思いたくなる危険なつまみになる。

久しぶりのパイコ―麺に満足し、久しぶりの入道雲を眺めながら隣町の元町商店街に向かったんである。
その元町の入口に差し掛かった途端に呼び止める輩がいた。
振り向くと2度目のお勤めをした会社の1年先輩である。なぜか高校も同じだと本人は言うのだが、まったく見覚えがない。胡散臭い奴なのである。

ペラペラとおしゃべりで、思い込みの激しいヒラメ野郎なのだが、そういう奴だからか、ボードメンバーに加わっていて、仕方なく付き合ってきた。
そいつの顔が目の前に現れただけで、気分が悪くなる。たった今、すこぶる機嫌よく喉を通過したパイコー麺が危うく逆流しそうである。
会釈だけしてさっと離脱しようと思ったのだが、「ねえねえ、今何してるの? 元気? どこに行くの?」などと馴れ馴れしく声をかけて寄ってきて、一緒に歩き始めるのには閉口した。
さすがに「ちょっと」と言って相手を無視して横道にそれたが、最も会いたくない人間に呼びとめられるとは。きっと天中殺だったのだ。

あわよくば、これからの季節に合うしゃれたシャツでも買って帰ろうかと目論んで寄った街なのだが、台無しじゃあないか。元町散策をあきらめ、さっさと街を離れたのである。
いろいろ思いがけないことが起こるけれど、よりによって…



中華街「雲龍」の癖になるパイコ―麺。奥で折れ曲がっているのが骨付き肉。
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