16世紀に英国のトマス・モアが描いた理想郷の「ユートピア」 では金銀が徹底的に疎まれ、嫌われた。それらは便器や汚物を入れる容器に用いられ、人がつけている金の指輪やイヤリングは、不名誉な罪をおかした者を表すしるしだった▲ダイヤモンドなどの宝石は幼児のおもちゃとなった。 成長すると、そんな子供だましの石で遊ぶのを恥じるようになる。 逆に貴ばれたのは実用的なガラスや鉄で、 モアはよほど現生の拝金主義にうんざりしていたらしい▲ こんな金銀が嫌われるユートピアを思い出したのも、 昨日のニュースで「マイナス金利」 なる言葉が躍っていたからだ。預金に利息がつくのが普通の世だが、 マイナス金利とは預けるほど利息をとられるのか。まさかお金が疎んじられる世になったのでもなかろう▲念のため明言しておきたいが、今銀行に預けているお金がそうなるというわけではない。金融機関が日銀に預けている資金の一部に 0.1 %の手数料を課す、 つまりはマイナス金利にするという日銀の発表だった。 その資金を貸し出しや投資に回させるためである ▲今までデフレ脱却にむけ国債を大量購入して市場にお金を流
す量的金融緩和をくり返した日銀である。だが2%の物価上昇達成がさらに先延
ばしされるなか、 今度は金利面での追加緩和が必要と判断したらしい。ちなみに
欧州は一昨年にマイナス金利を導入している▲「世界にこわきものは酒の酔いと銀(かね)の利にて御座候」は井原西鶴である。金利の正負逆転には西鶴もびっくりしただろうし、市場の酔いをさまさぬようくり返される金融緩和には何やら空恐ろしいものがある。
す量的金融緩和をくり返した日銀である。だが2%の物価上昇達成がさらに先延
ばしされるなか、 今度は金利面での追加緩和が必要と判断したらしい。ちなみに
欧州は一昨年にマイナス金利を導入している▲「世界にこわきものは酒の酔いと銀(かね)の利にて御座候」は井原西鶴である。金利の正負逆転には西鶴もびっくりしただろうし、市場の酔いをさまさぬようくり返される金融緩和には何やら空恐ろしいものがある。