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物語は正に、主人公工藤泉の高校生時代の回想から始まります。演劇部担当の葉山先生との熱い恋愛関係が、力まない、すっきりとした語り口で物語られて、進んでいきます。
とにかく純な恋愛物語です。
泉を支える両親は、ベルリンに転勤になっても常に泉を支えて見守り応援する、いい父親で優しい母親です。演劇を練習するメンバーも、みんな思いやりのある人、力を貸す人、協力する人ばっかりです。
全員が、主人公の恋愛が成就するように願い、盛り上げようとする人ばかりです。だから、純粋に人を思うという気持ちが結晶が形成されていくように感じられていきます。
「頼りにされる自分が気力を取り戻していくのを感じた。」331ページ。「この人からはなにも欲しくない。だだ与えるだけ、それでおそろしいくらい満足なのだ。」347ページ。
静かに上品に進行していきます。この物語には、悪意を持った人、騙す人、妨害、邪魔する人、は一切登場してきません。
葉山先生もとっても素敵な、芯の通った、とっても思いやりのあるパートナーなんです。泉の将来のことを思いやって身を引いてしまうのですから。そして泉も葉山先生の奥様のことを思い身を引くのです。
泉が社会人になって、偶然、カメラマンの友人から葉山先生が、まだ、泉の写真を持っていて、愛する気持ちの大きさが確認できるのが結末なのだが・・・・・。
哀しい物語です。お互い思いを残して身を引いてしまうんです。純粋な思いだけが残っています。