良い記事だ。
以下朝日
(経済政策を問う)意図見えぬデフレ宣言 自民・与謝野馨氏に聞く
2009/11/29 朝日新聞 朝刊 3ページ 2126文字
――政府が「デフレ」を宣言しました。日本経済の現状をどうみますか。
「消費者物価の下落幅自体はそう大きくないし、今は、売り上げが落ちたのに対して金利や賃金が下がらずに高止まりし、企業収益が圧迫されているという状況でもない。だからデフレ自体はまだそれほど心配はしていない」
「もちろん『二番底』の可能性を低くするために、政府にはリスクを自覚して政策運営をやってもらいたい。だが、デフレ宣言にどういう意味を込めたのか、それで何をしようというのかがよくわからない。01年3月にデフレを宣言した時は、政府はデフレを金融問題と位置付け、宣言を盾に日本銀行に金融緩和をさせる政治的な戦略や、それで円安になれば輸出で景気を浮揚させられるという思惑があった。今回の宣言は亀井(静香)金融相が主張するように需給ギャップを財政出動で埋めようという話なのか、日銀に一層の金融緩和を求めるのか、意図が不明だ」
「今回の不況は世界経済の構造調整によるものだ。通常の不況とは違う。リーマン・ショックを機に米国の過剰消費の是正、世界の供給体制の修正が行われている。世界的な調整には時間がかかる。専門家の間でも、今後3年ぐらいは日本は物価下落が続くという見方で一致している」
――ドバイ発の新たな金融不安、さらに14年ぶりの円高も襲っています。
「円高も、ドル安やユーロ安によるものだから、日本が単独では解決できない難しさがある。だが政府は、いざとなれば介入も辞さないくらいの意思を示すべきだ。今の日本の景気底打ちは外需によるもの。9月に藤井(裕久)財務相が『円高容認』発言で為替市場を刺激した。為替変動が国民生活に与える影響や市場に対する理解、認識が弱い。政治主導を掲げながら、政治が動くべき時に看板倒れだ」
――子ども手当のように家計に直接、働きかけて需要を喚起する政策には可能性を感じますが。
「子ども手当は成長実現の政策なのか、女性の社会参加をすすめる政策なのか、あるいは両方、混じっているのか。しっかりした政策の立脚点もないまま、来年の参院選挙向けにやるというのが実体だろう。恒久財源を確保しないまま、手当をもらった子どもが将来、その借金を返すというのでは無責任な話だ」
「新政権ではそれぞれの政策がばらばらに打ち出され、整合性に欠ける。司令塔の国家戦略室が機能していないことが問題だ。財政がデフレに対しどういう役割をするのかはっきりしない。一方で中長期の財政再建の道筋も示されないのでは、国民の不安を強くしてしまう」
「成長戦略も決定的に欠けている。よってたつ政策のバイブルがマニフェストだけというのでは、経済がうまくいくはずがない。事業仕分けでの次世代スーパーコンピューターの議論で『なぜ世界2位ではいけないのか』という声があったが、将来の成長のためにも、世界の最先端を目指した技術開発やそれが産業に結びつくような種をいっぱいまく必要がある」
◆「財政赤字、自民も責任」
――しかし財政赤字を一つとっても、自民党政権が残した失政のツケでしょう。
「財政赤字を膨らませた自民党政治の責任は認める。民主党には我々ができなかったこと、古いしがらみをばさばさ切ってほしいと国民は期待していると思う。ただ『事業仕分け』にしても、大向こうの受けを狙うのはいいが、短時間の討議で何が生まれるのか。自民党政治はいろんな業界団体と深い関係があって、歳出拡大や減税要求に政治がおされた面はあった。だが、財政赤字の最大の要因は社会保障費の増加だ。高齢化で医療費や年金給付が増える状況で負担の手当を政治がしてこなかった。野党時代、民主党も同様にそれを怠ってきた責任はあるはずだ」
――90年代後半以降、何度も打ち出された成長戦略も結局、失敗しました。
「従来の成長戦略が小泉改革に象徴されるように、競争や規制緩和による生産性上昇など供給サイドに偏り、需要をいかに増やすかの視点やセーフティーネットの整備などが欠けていた失敗はある。小泉改革の本質は土地や資本、労働(人)という生産要素を安くして、生産性を上げる政策だったが、結局は人件費を抑制する企業や低賃金の派遣労働者などが増え、消費が盛り上がらないまま終わった」
「だが、民主党がそういった教訓を生かして、代わるものをだしているのかといえば、否だ。医療や介護、環境関連のグリーンエネルギー、安全・安心の社会保障分野などで成長をめざす一方で、所得再分配を手厚くする政策は、民主党が言い出したわけではなく、我々が言ってきたことだ」
――野党として経済運営にどうかかわるのですか。
「民主党の幹部が政権につくまでに経済政策で何を言ってきたのか、実際打ち出された政策がどうなのか、まずは来年度予算や税制改正の出来上がりを検証する。補助金をやめて一括交付金に替えれば、巨額の財源ができると言ってきたし、天下り法人に流れている12兆円の資金を節約できるとも言ってきた。それが実現されたかどうか。通常国会でじっくり議論したい」
(聞き手 編集委員・西井泰之)
よさの・かおる 麻生内閣で財務・金融・経済財政相。現自民党経済政策調査会長。71歳。
最新の画像もっと見る
最近の「政治 行政制度」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2020年
2019年
2014年
2004年
人気記事