今日の一貫

先物上場不認可の観測 日経新聞の記事から

29日依頼のコメ先物上場不認可に対し、日経新聞が様々な論評を載せている。転載しておこう。



コメ先物市場をなぜ認めないのか(社説)
2006/03/31, , 日本経済新聞 朝刊, 2ページ, , 1004文字

 実現すればほぼ七十年ぶりの復活となるコメ先物市場をお蔵入りさせていいのか。中川昭一農林水産相は、東京穀物商品取引所などが申請していたコメ先物の上場は時期尚早として認可しない意向を表明したが、認める方向で再考を求めたい。
 先物市場は、売り手と買い手が将来の一定時期に商品の売買契約を取り交わす市場で、商品の受け渡しや反対売買による差金決済で契約を終了する。市場参加者による自由な先物取引は、経営判断の材料となる指標価格を提供し、生産者や流通業者、需要家にとって価格変動リスクをヘッジ(相殺)する保険の手段になる。日本のコメ先物市場は江戸時代にさかのぼる世界最古の歴史を持つが、戦時経済体制への移行で廃止され、戦後も政府の価格統制の下で省みられることはなかった。
 その市場再開の動きの背景には、政府の硬直的な食糧管理政策の破綻でコメ市場にも価格変動の波が押し寄せ、卸売業者や外食産業など需要家のニーズが高まったことがある。主食で、最大の農産物であるコメの先物市場への上場は、日本農業の市場経済化の象徴でもある。
 ところが、農水相は「生産調整の円滑な推進に支障を及ぼす恐れがある」として、国の直接関与から生産者が主体的に取り組む生産調整方式への移行期にある農政の基本政策と整合性がとれない点を、コメ先物の上場を認めない理由に挙げている。「作付け段階で先物価格が上昇すれば、農家の計画生産への参加意欲をそぐ」などと強く反対している農業団体(農協)の主張に近い。
 しかし、内外価格差や生産過剰の構造問題を抱えるコメ価格は長期低落傾向にある。農業団体の本音は自由な先物市場の開設により、かろうじて生産者が支配権を握っている現在の価格決定システムの矛盾が浮き彫りになるのを防ぐことにあるのではないかという指摘もある。
 先物市場が計画生産の障害になるかは定かでなく、生産調整が機能しなければ困るのは生産者自身だ。コメ農政を国際的に許容され、国民の理解を得られる持続可能なものに転換する際に、正確な価格情報は欠かせない。また、農産物の価格変動が避けられない以上、ヘッジ手段が必要なのは生産者も同じはずだ。
 大事なのは市場に背を向けるのでなく、市場を取り込んだ農業改革の速度を上げることだ。三年の試験期間に、信頼でき有用な先物市場に必要な条件を見極め整備することを拒む理由はないのではないか。コメ先物市場開設の機は熟している。





コメ先物、上場不認可、商取、戦略見直しを模索――取引所、決め手欠く浮揚策。
2006/03/30, , 日本経済新聞 朝刊, 28ページ, 有, 934文字




 農水省が東京穀物商品取引所と関西商品取引所の申請していたコメ先物の上場を不認可とする方針を打ち出したことが、先物業界に大きな波紋を広げている。“最後の大型商品”とされていただけに商取関係者の失望感は強く、今後の取引所運営にも影を落とすのは確実。コメ卸など実需家にも先物市場を求める声は根強い。
 東穀取は二十九日、農水省が政策のあり方を聞くために識者や生産者、コメ卸を集めて開いた「食糧部会」に担当者を送り、不認可方針を決めた背景を含めて情報収集に追われた。「農水省から公式に伝えられておらずコメントできない」としているが、三十日に開く会合で会員である有力商取会社幹部とともに対応策を話し合う予定だ。
 貴金属や石油製品などの品目を抱える東京工業品取引所に比べ、精彩を欠く東穀取。これを脱却しようと、二〇〇二年にコメ先物の上場をテコに取引の活性化を進める方針を決め、内部で検討を進めてきた。
 最近の体制はコメ先物上場が前提。例えば、トウモロコシなど既存商品の取引に板寄せ(単一約定値段)方式のシステムを取り入れていたが、コメについては海外資金を呼び込みやすいとされるザラバ(複数約定値段)方式を採用。昨年秋から売買テストを繰り返してきた。コメ先物が不認可となったことで、こうした事業戦略の練り直しが不可避となったが、具体策はメドすら立っていない状況だ。
 上場実現のため昨年、六期目も続投した森実孝郎理事長には「もう少し慎重に申請してもよかった」(商取会社幹部)との指摘も出ている。
 関西商取は事態がさらに深刻だ。全国七取引所に占める二月の売買高シェアは〇・三%に過ぎない。大豆や冷凍エビなど既存商品の売買高急減に見舞われる中、コメ先物を巻き返しの起爆剤と考えていた。
 大阪のコメ先物は一七三〇年の「堂島米会所」以来の歴史を持ち、伝統市場復活に向けた地元関係者の思い入れは強い。関西商取は三月初め、大阪商品取引所に合併を申し入れたが、大阪商取は十六日に中部商品取引所との合併を決定。「コメ先物の上場が先送りされたことで、国内取引所の再編論議が一段と高まる」(同)との見方も広がっている。
【図・写真】29日に開かれた食糧部会では上場不認可への疑問も出された(東京都千代田区)





コメ先物、上場不認可――コメは聖域なのか、価格調整機能、生産者にも利益。
2006/03/30, , 日本経済新聞 朝刊, 28ページ, , 644文字




 コメはやはり特別な商品なのか。少なくとも農水省と農業団体はそう考えていることが、上場不認可の決定で改めて明らかになった。
 一九九〇年に商品取引所法に試験上場制度が導入されて以来、原油や石油製品をはじめ二十余りの新規上場商品が誕生しており、不認可は初めて。「生産や流通に著しい支障のおそれがない」限り、上場を認めるのが法の建前である。
 コメの場合「著しい支障のおそれ」があるのかどうか。食糧部会での農水省の説明では、「生産者団体などが行う生産調整が円滑に進まないおそれがある」というのが不認可の理由のようだ。だが生産調整への悪影響にしても、先物市場とどう関係するのか、説得力ある説明は聞けなかった。
 価格変動のリスクにさらされるコメ卸など流通業者は、ヘッジ(保険つなぎ)市場の必要性を強調している。この点に関してはだれもが認めざるを得ない。ヘッジ市場の必要性は、実は生産者にとっても同様なのだ。
 農水省のコメ政策によれば「需給・価格情報を踏まえ、農業者が自らの判断で生産し主体的に需給調整する姿を二〇一〇年度までに実現する」のを目標としている。目指すところは、価格情報のシグナルに基づいて行動する企業的な生産者。それが競争力のあるコメづくりへの方策と考えているからに違いない。
 「価格のシグナルに最もふさわしいのは先物市場ではないか」。食糧部会の席でこう指摘し、農水省の決定に異論を唱えた委員もいた。コメをいつまでも聖域視していては、日本の農業も本当には強くならない。
(編集委員 林邦正)





コメ先物、上場不認可――商取会社、海外資金獲得へ懸念も。
2006/03/30, , 日本経済新聞 朝刊, 28ページ, , 243文字




 大手商取会社、豊商事の多々良義成会長は「久々の大型商品上場と期待していたのに」と落胆の表情を隠さない。
 改正商品取引所法が施行された昨年五月前後からの取引縮小傾向が長引いているうえ、ここ数年は売買高が伸びている新規上場品目も見当たらず、コメ上場に期待が集まっていた。
 海外の投資家に与える影響も懸念されている。農水省が不認可方針を決めたことで、「日本の商品先物市場は規制が多く、自由に投資できないという印象を与えた」(穀物商社、ユニパックグレインの茅野信行社長)との指摘も少なくない。





コメ先物、上場不認可――卸売会社、現物市場の拡充に期待。
2006/03/30, , 日本経済新聞 朝刊, 28ページ, , 424文字




 卸業界では「当業者として驚いている」(大手卸)と戸惑いの声が聞かれた。卸業界には、二〇〇三年産米の価格が乱高下した際に高値で買ったコメが在庫となり、経営を長期間圧迫した苦い経験がある。一部では上場に向けて組織面の準備を始める卸すらあった。
 コメ卸の業界団体、全国米穀販売事業協同組合(全米販)の古橋政弘常務理事は「現物だけではリスクをヘッジ(保険つなぎ)する場がなく、安定取引が難しかった。コメ先物は現物市場を活性化させると訴えてきただけに残念だ」と述べた。
 当面、期待されるのは現物市場のコメ価格センターの機能拡充だ。同センターでは従来の基本取引に加え、先渡しとスポットの市場を九月をメドに立ち上げる予定。特に先渡し市場はコメ先物の議論を意識したとされ、三カ月先まで一定量のコメを決まった価格で確保できるメドが立つ。
 急な価格変動リスクを避けることが可能となるが、先物が持つ本質的なリスクヘッジ機能とは異なり、実需家であるコメ卸には課題も残る。





農水省、コメ先物の調査結果公表。
2006/03/29, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, , 158文字




 農水省は二十九日、コメ生産者らを対象にしたアンケート調査の結果を公表した。回答者の半数に当たる四八%が「コメ先物はコメの生産調整に支障がある」と答える一方、「(支障があるか)分からない」が四七%に上った。この結果が東京穀物商品取引所と関西商品取引所が上場申請していたコメ先物取引を不認可とする一因になったもようだ。





コメ先物「復活」認めず、上場巡り農相方針――「価格ヘッジの場を…」。
2006/03/29, , 日本経済新聞 朝刊, 3ページ, 有, 610文字




取引所、落胆深く
 農水省がコメ先物を不認可とする方針を決めたのは、全中を頂点とする農協組織の意向を優先したからだ。
 識者や関係者を集めた農水省の食糧部会では昨年から数回にわたってコメ先物を議論、コメ卸や外食業界には「コメの卸価格が高騰した場合にヘッジ(保険つなぎ)する場が必要だ」との声があった。上場により、値段を決める主導権が生産者から、消費者に近い流通業者に移る変化が起きるとみられていた。
 上場しても一般消費者が購入するコメ価格への影響は小さいとされるが、急騰時に末端価格の上昇を抑える効果はあるとの見方がある。
 ただ、小豆先物で投機資金が入り、小豆の価格が乱高下した前例があり、全中は「丹精込めて作ったコメの値段を投資家に支配されるのはいかがなものか」(山田俊男専務理事)と反対を崩さなかった。
 農水省はコメ先物が生産現場に与える影響を探るため農協などを対象にアンケート調査を実施。一方で流通業者に対する調査はしていない。東京穀物商品取引所の森実孝郎理事長は「流通業者の意見も聞くべきだったのではないか」と指摘する。
 先物が価格を不安定にさせるのかどうか。消費者に影響があるのかないのか。詰めた議論をしたとは言いにくく、生産者サイドにだけ顔を向けてきた農水省の政策の方向性が変わっていないことを示したといえる。
 商品取引所はコメ先物で新しい投資家を呼び込めるとの期待もあっただけに不認可に落胆の思いを強めている。





コメ先物「復活」認めず、上場巡り農相方針――価格管理こだわる、農協側に配慮。
2006/03/29, , 日本経済新聞 朝刊, 3ページ, 有, 1071文字




 中川昭一農相は二十八日午後の記者会見で、東京穀物商品取引所(東京・中央)と関西商品取引所(大阪市)が申請していたコメの商品先物取引の上場を認めない方針を明らかにした。先物市場への上場申請が不認可となるのは初めて。コメ価格が不安定になるとする農業団体などに配慮、戦時下に廃止されたコメ先物の六十七年ぶりの復活は見送られた。
 農水省は両取引所からの意見聴取を踏まえ、近く正式に不認可を通知する。先物取引は一定期間後の売買について前もって価格や数量を決め、金銭で決済したり、約束の期日に現物を受け渡しする仕組み。
 コメの先物取引の復活をめざし、両取引所は昨年十二月に上場を申請。コメ卸団体などは、先物があれば不作でコメの価格が急騰しても安い価格で仕入れることができるとし、価格変動リスクを減らす機能を期待していた。これに対し、農協グループの取りまとめ役である全国農業協同組合中央会(全中)は「投機的な価格変動が起き、生産現場に混乱をもたらす」として反対していた。
 中川農相は会見で「現時点では生産に著しい支障の恐れがある」と認可しない理由を説明した。
 農水省は、供給過剰なコメの価格維持のために、コメの生産を減らす生産調整などをしている。二〇〇七年からは農業団体などが主体的に取り組む新制度に衣替えする予定。上場を認可すれば、反発する農業者が新制度に参加しない恐れがあり、こうした事情を考慮したもようだ。
 政府はコメの需給を安定させる食糧管理制度の下で、農家がつくったコメを買い入れ管理してきた。しかし生産者と業者が直接取引する自由米などが増加。全量管理が見直され、コメの流通はほぼ自由化されたが、農水省は生産調整による価格管理にこだわってきた。
 コメ先物の上場はコメも市場経済のなかで例外ではなくなるとの意味合いもあったが、農水省は主食であるコメの価格管理に影響しかねない先物に慎重姿勢を変えなかった。農水省はコメ需給のバランスを整える目標を一〇年度に設定しており、それまでは先物を認めない公算が大きい。
 ▼コメ先物 江戸時代の一七三〇年に大阪(当時は大坂)で幕府が公認した「堂島米会所」を起源とし、会員制でコメを将来受け渡す約束をする先物取引が活発となった。堂島での取引は現在、世界の穀物取引の中心となっている米シカゴ商品取引所も参考にしたとされる。明治維新後もコメ先物取引は続き、全国に取引所が生まれたが、配給制度が始まった一九三九年に全廃された。
【図・写真】中川農相
【図・写真】規制緩和の流れの中、楽観論もあったが…(東京穀物商品取引所)





関西商取、再建策白紙に――コメ先物上場不認可、外食業界など期待、再申請を模索。
2006/03/29, , 日本経済新聞 地方経済面 (近畿B), 10ページ, , 720文字




 農林水産省は二十八日、関西商品取引所が申請していたコメ先物の上場を認可しないことを決めた。伝統の大型商品である大阪のコメ先物の復活による取引活性化を期待していた関西商取は落胆を隠せない。(3面参照)
 「残念と言うほかない」。二十八日午後、不認可の報を聞いた関西商取・岩村信理事長はこう語った。認可されれば六月にも先物取引を開始。今年秋産のコメを上場するとのシナリオを描いていたが、白紙に戻った格好だ。
 関西商取がコメ先物上場の検討を開始したのは一九九六年、前身の関西農産商品取引所時代だった。以来、反対する生産者団体の動向をにらみながら内部検討を重ね、昨年十二月にようやく申請にこぎつけた。上場が実現すれば、戦時の統制経済下に取引が途絶えて以来、六十七年ぶりの復活となるはずだった。
 冷凍エビや大豆など関西商取の既存商品は軒並み低迷。売買高が多い東京の二取引所に集中する傾向が顕著になっていることや、昨年五月に勧誘規制が強化されたことも響き二〇〇五年の売買高は前年比六七%減少した。このままでは存続に黄信号がともることもあり、「認可されるかどうかは五分五分」(関西商取)と見ていたが、あえて東京穀物商品取引所とほぼ同時にコメ上場の申請に踏み切った。しかし結果は不認可。
 石油製品など新規大型商品の上場ができず売買高が激減した大阪商品取引所はこのほど、中部商品取引所に事実上の吸収合併を申し入れた。コメ先物は外食産業などから導入への期待感が高まっており、関西商取の岩村理事長は「農水省から不認可の理由を聞いた上で考えたい」と再度の上場申請も視野に入れる。ただこれも認められるかは不透明で、再編も含め新たな生き残り策の検討も必要になりそうだ。
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