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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

スタジオソルト第18回公演『柚木朋子の結婚』11月バージョン

2014-11-03 | 舞台

*椎名泉水作・演出 公式サイトはこちら 鎌倉/古民家スタジオイシワタリ 11月は1~3日、8,9日、15,16日上演 1,2,3,4,5,6,6`,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17
 10月バージョンにつづいて、客演の女優3人が交替した11月バージョンを観劇する。今回はJR鎌倉駅から御成通を歩いて昼間の回に行く。鶴岡八幡宮のある北鎌倉方面の喧騒から離れ、こぢんまりした町の散策が楽しい。
 11月は柚木家の長女を佐々木なふみ、次女を奥田和恵、母を内藤通子(プラチナネクスト)が演じる。

 客演の女優さんのタイプが異なるので、舞台の雰囲気が変化するのは当然と言えばそうなのだが、逆に、演じる俳優が替わっても、『柚木朋子の結婚』が持つ優しさや温かさが少しも変わらないことが重要であろう。
 通常なら公演期間中は毎日上演するところを、2ヶ月間土日祝日のみという変則的な方法で行われている。劇場でない場所での公演にはさまざまな制約や困難があろうし、ただでさえ小さなスペースに限られた観客数はさらに少なくなり、俳優も数日の空白をはさんで週末だけ舞台に立つのは、体調管理はじめ台詞を忘れないようになど、大変なのではないか。

 そういったもろもろをまったく感じさせず、俳優たちはイシワタリの座敷がほんとうに柚木家であるようになじみ、観客を迎え入れてくれる。だからこちらも和ガラスの窓を開けて縁側と庭を出入りしたり、玄関のわきにはアトリエがあって、いとこが雑貨や洋服を売っていたり・・・ということをまったく違和感なく受けとめられるのだ。
 ふだん劇場ではない場所で演劇公演が行われる場合、古民家やギャラリーや学校の教室などがもともと有している雰囲気に負けてしまったり、雰囲気がいいだけに、客席にいる自分が場違いで居心地悪く、生身の俳優が目の前で演技をしているところをみるという行為が、非常に不自然に感じられることもあるのもたしかだ。
 俳優もさぞかしやりにくいのでは・・・と思いはじめると、特殊な場所での観劇は楽しめなくなる。

 今回の『柚木朋子の結婚』に、そういった違和感はまったくなかった。ふだんあまり演劇をみたことのない人でも楽しめる自然な温かみがあり、変化球を求めてやってきた観客の気負いを優しく鎮めてくれる。

 長女を演じた佐々木なふみは、非常に知的で美しいシャープな印象を持ちながら、そんな女性がヘアスタイルにしろ服装にしろ、実に垢抜けない格好をしているところが好ましくもあり、ほどよい痛々しさがにじむ。しかもそこに技巧を見せないところがみごとであった。母親役の内藤通子は、冒頭の無表情から笑顔をみせるところ、家族の顔がわかったりわからなかったりの、いわゆる「まだら呆け」の様相を自然にみせる。
 佐々木なふみとちゃんと母と娘にみえるところに、今回の配役の妙がある。

 お芝居はみながらどんどん忘れていくものでもあり、ある台詞を聴いたとき、「これは大切なことばだ」と思っても、すぐに流れてしまうことが多々ある。
 2度めの観劇で新たに気づき、考えさせられたことが多くあった。答をさがす芝居ではなく、何かを求められていると強く感じるものでもない。それだけに日常のぶ厚さや、家族というやっかいだが温かな交わりをしみじみと考えさせる。

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