
*八代将弥(ILL TOKAI UNDERGROUND)脚本・演出 下北沢「劇」小劇場 9日まで 14日~17日まで 名古屋/G/PIT
同コンクールこれまでの観劇記事は以下の通り。
2017年公演(2016年審査):1
若手演出家コンクール2023年度最優秀賞を受賞した作品のタイトルが『演出家コンクール最優秀賞受賞予定作品』(未見)。一瞬こちらを目くらませる捻りと企みのあるタイトルだ。「エチュードとメタ構造を用いた創作」を謳うあたりも、手練の趣向を予想させる。
演劇公演にはさまざまな困難、想定外のアクシデントがつきものだ。稽古から本番当日、終演まで何が起こるかわからない。特にコロナ禍が始まって今日まで、演劇の作り手にはこちらの想像が及ばないほどの緊張やストレスがあることだろう。あらゆる妨げに対し、主催側は上演に向けてあらん限りの知恵を絞り、総力を挙げる。代役を立てる、戯曲や演出を変更する等々、それらすべてが不可能な場合、やむなく公演中止となる。
東京公演の初日直前に、3人の出演者のうちの一人が一身上の都合により降板し、映像で出演するという。2024年に旗揚げし、これが第2回公演となるILL TOKAI UNDERGROUNDは、上演を行う決断を下した。映像での出演など、もしかすると出演者降板のアクシデントを逆手に取り、より刺激的な舞台になるのでは?と逆に興味が増して劇場に足を運んだ。
約75分の上演時間中、演劇創作の現場の右往左往をリアルに見せつつ、「Show must go on」の心意気を描くバックステージものとはひと味もふた味も違う舞台になることを期待した。また、公演チラシには若手演出家コンクール審査員方からの絶賛の評価、感想が掲載されており、そのなかに「演劇の作り手と観客の『騙す/騙される』の関係を上手に見せている」が、今回の『そんなつもりじゃない』を観る上でポイントになるのかと予想し、「これはどこまでがほんとうのことなのか」、「どのあたりから核心に迫るのか」と目を凝らしつづけた。
互いの台詞のタイミングや間合いがずれたり重なったりなど、限りなく日常会話に近いやりとりと見せて、綿密な計算と慎重な演出、俳優としての力量を感じさせる。「こう言おう」と決めていたのに、ZOOMとはいえ相手に向き合うとなぜか言えなくなってしまうところなど、微妙な心の動きや変化を丁寧に描いているところもよかった。だが、ひとつの舞台作品として、もっと先へ、別の地点へ到達する力も技もある座組ではないだろうか。「そんなつもりじゃない」ならば、「どんなつもり」だったのか、もっと知りたいのである。
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