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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

スタジオソルト第18回公演『柚木朋子の結婚』10月バージョン

2014-10-18 | 舞台

*椎名泉水作・演出 公式サイトはこちら 鎌倉/古民家スタジオイシワタリ 10月は19日で終わり、11月は1~3日、8,9日、15,16日に上演される。1,2,3,4,5,6,6`,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17
 スタジオソルト1年5ヶ月ぶりの新作だ。10月と11月の土日祝日に秋の深まる鎌倉は由比ヶ浜の古民家イシワタリで上演される。築87年になるイシワタリは、もとは木材店であったものをギャラリーやイベントスペースとして開放しているものだ。写真展や陶芸展、結婚式の披露宴や料理教室まで、さまざまな催しが行われている。
 JR横須賀線鎌倉駅から徒歩15分、江ノ島電鉄由比ヶ浜駅から徒歩4分と、都内の劇場に行くよりは若干時間がかかるが、周囲に刀剣・美術店があったり、「危険渡るな」の看板のある線路を歩いたりなど、ほかでは味わえない風情があって、とても魅力的だ。
 ましてずっと待っていたスタジオソルトの新作である。行きますとも!

 今回の特徴はもうひとつ、10月と11月で客演の女優の顔ぶれが替わることだ。10月は松岡洋子(燐光群)、萩原美智子(東京タンバリン)、勝碕若子(劇団よこはま壱座)、つづく11月は佐々木なふみ、恩田和恵、内藤通子(プラチナネクスト)が出演する。まずは10月バージョンを観劇した。

 なかに入ると、イシワタリの座敷をそのまま柚木家の居間にし、すでにふたりの人物が「板付き」になっている。のんびりした風情で新聞の広告を折ってもの入れを作っているのは、今回でソルト客演3度めになる勝碕若子だ。ずっとこの家に住んでいる人の安定感があって、早くも柚木家の物語に引き込まれてしまう。客席に背を向けてお弁当を食べているのは、麻生〇児改め、浅生礼司である。顔は見えないが、何となく奇妙な感じが。
 当日リーフレットの配役名に「坊城豊」とあって、はっとした。2007年春に上演された『7』(1,2)に登場した、あの「ぼう」ではないのか?

 主人公はタイトルの「柚木朋子」(松岡洋子)であり、物語の内容はタイトルずばり、彼女の結婚をめぐる家族や友人、結婚相手とのあれこれ、心の移ろいである。

 人物の設定に若干特殊なところはあるが、老親を抱える子どもたち、周囲が賛成しかねる結婚など、どこの家庭にもありそうな話である。イシワタリの雰囲気も相まって、ゆるめのホームドラマのような展開になるか、とも思わせた。

 公演期間中なので具体的なことが書けないのがつらいところなのだが、『柚木朋子の結婚』はわりあい予想できる設定や流れのなかに、素直にうなづけない小さなひっかかりや、長いこと胸に抱えてきた疼くような痛み、ちょっと触れたはずみに折れそうな心などが、控えめに顔を出す。ここが物語の転機だと大仰に示されるのではなく、しかしこの家族をみつめる観客の心に、人々の過去やそれぞれの背景などを確実に刻みつけるのである。

 朋子役の松岡洋子が、おっとりと優しい長女を演じて魅力的である。11月は佐々木なふみがどのように演じるのか。佐々木はちょうど1年前の鵺的公演『この世の楽園』でみせた硬質な知性と美しさの印象が強烈で、どんな朋子さんになるのか想像できない。よけいにぞくぞくする。

 2006年あたりからスタジオソルトの舞台を見つづけてきて、作・演出の椎名泉水の作風はじめ、舞台の空気というものを自分なりに捉えていると思っていたが、久々の新作は、より温かみが増して優しくなり、同時に人々の心の奥底に湛えられた悲しみがにじみだすものであった。嬉しい再会である。
 11月はJR鎌倉駅から歩いてみよう。いいお天気になりますように。

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