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田村審議委員が「25年度後半に1%まで利上げ」と言及、物価上振れリスク意識

2025-02-06 11:07:30 | 経済

 日銀の田村直樹審議委員は6日午前に長野県松本市で講演し、2025年度後半には少なくとも1%まで政策金利を引き上げておくことが必要との見解を表明した。田村氏は昨年9月に2026年度までの展望リポート見通し期間後半にかけて1%まで引き上げることが適切との考えを示しており、1%までの引き上げ時期が前倒しされた。ドル/円はこの発言を受けて一時、151円後半までドル安・円高が進んだ。

 田村審議委員の講演では、経済や物価に対する評価が全般に強く、物価の上振れリスクにも言及しつつ、次の利上げが実施された場合の0.75%の水準も実質金利の観点で見れば大幅にマイナスと指摘。タカ派色が鮮明になっている。従来からタカ派的な見解が目立っていたとはいえ、経済・物価に対する認識は植田和男総裁がこれまで示してきた見解と重なっており、マーケットは一段と日銀利上げの織り込みの前倒しを強いられると予想する。

 

 <強い経済・物価に対する評価>

 田村審議委員の講演の中で注目されたのは、金融政策運営の前提となる経済・物価に対する評価が強かったことだ。

 まず、企業や家計の予想物価上昇率はしっかりと高まっており「概ね2%程度の水準に達している」と指摘した。そこに企業の賃金・価格設定行動の変化、人手不足を背景とした供給力不足の状況が加わり、中小企業まで含めた賃上げの実績を確認できる2025年度後半には、「物価安定の目標」が実現したと判断できる状況に至る、と明言した。

 その上で「2025年度後半には、政策金利である短期金利は経済・物価に対して中立的な水準、すなわち名目の中立金利まで上昇していることが必要」との見解を打ち出した。

 

 <1%への利上げ、中小企業の賃上げ確認できれば25年10月の可能性も>

 田村審議委員は中立金利の水準を「最低でも1%程度だろうとみている」としており「2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成するうえで必要」との見解に結びつくとしている。

 2025年度後半というのは幅が広いが、「中小企業まで含めた賃上げの実績を確認できる」時期という説明を素直に受け取れば、2025年10月にも1%に利上げすることが必要と読み替えが可能だと筆者は考える。

 

 <企業の賃上げ設定行動の変化、植田総裁と同じ見解>

 もし、25年10月に1%という利上げパスが描かれているのであれば、次の0.75%への利上げの時期は次の次の4月30日ー5月1日の金融政策決定会合という可能性が高まるのではないか。マーケットの足元における利上げ織り込みは20%にとどまっているが、今後の日銀サイドの情報発信や経済データの内容によって、織り込み度合いが一段と高まる可能性が、この日の田村審議委員の講演で強まってきたと予想する。

 また、タカ派の田村氏の発言だから、日銀の多数意見とはかい離しているとの声が市場には多くみられるが、利上げパスの前提になる経済・物価に関する評価は、すでに植田総裁が会見や国会での答弁などで示している内容と大きな差はない。

 例えば、企業の賃金設定行動に関し「人を確保できる水準の賃金を設定せざるを得ないという状況がまずあり、それを所与として経営を考える、具体的には、価格転嫁や効率化、事業や企業の再編を含めたビジネスモデル変革などを、考えなければならない時代に入ってきている」との見方は、すでに植田総裁が1月会合後の会見で同じ趣旨の発言を行っている。

 「物価安定の目標」の実現に向けてオントラックで進んでおり「目標が実現する確度は、引き続き高まってきていると判断している」という部分も、植田総裁が繰り返し発言している。つまり、タカ派とみられる利上げパスの前提になる経済・物価の判断で田村審議委員の考え方が多数意見とほぼ同じであるなら、自ずとその結論部分も多数意見の中に包含される可能性がある、とみるのは合理的な推論だと考える。

 

 <中立金利、1%以上という表現の含意>

 ターミナルレート(利上げの最終到達地点)に関連し、田村審議委員は中立的な金利水準について「最低でも1%以上だろう」と述べつつ、「政策金利を0.75%に引き上げたとしても、引き続き実質金利は大幅にマイナスであり、経済を引き締める水準にはまだ距離がある」と語った。

 0.75%でも実質金利は大幅にマイナスとの表現から見ると、田村審議委員の想定している中立金利は「1%以上」の表現で形式的にありえる1%ではなく、それより上の水準ではないか、と筆者は推論する。

 

 <マーケットは慎重に判断、求められる「繊細さ」>

 同時に「長きにわたってほとんど金利がない世界が続いてきたわが国においては、経済主体が金利にどのように反応するか、予断を持たずに注意深くみていく必要がある」とも指摘し、必要以上に利上げに前傾姿勢となっているわけではない、との見解も示している。

 いったん151円台に下落したドル/円はその後、152円台に戻し、長期金利は1.280%で前日から横ばいで推移している。市場の利上げ織り込みは、6日正午の段階で3月会合がゼロ%、4月30日ー5月1日の会合が20%、6月会合が46%、7月会合が78%、9月会合が100%と前日からの変化率は小幅だ。市場は、日銀の政策スタンスを慎重に推し量ろうとしているようだ。マーケットと日銀の対話は、従来にも増して繊細さを伴うデリケートなやり取りになりそうだ。


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