一歩先の経済展望

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対メキシコ・加の関税実施先送り、日系自動車メーカーが強いられる米国への生産シフト

2025-02-04 12:58:05 | 経済

 トランプ米大統領が3日、メキシコとカナダに対する25%の関税賦課を1カ月間延期することを決め、4日の東京市場で日経平均株価が反発した。だが、メキシコとカナダに生産拠点を構える日本企業と系列会社にとっての試練はこれからではないか。トランプ大統領と政権スタッフは、外国企業を含めた多くの企業に米国内での生産を強く求めているからだ。

 米ゼネラル・モーターズ(GМ)は電気自動車(EⅤ)生産のためのメキシコにある工場の生産規模を縮小し、約1000人の従業員を削減したと一部で伝えられている。トランプ政権の意向を受けた「方向転換」とみられるが、日本の自動車メーカーも同様に米国内への生産拠点のシフトを強く要請されるのではないか。その猶予期間が1カ月ではないか、と筆者は予想する。

 

 <ラトニック氏が明言した「生産拠点を米国に持ってくるとき>

 トランプ大統領から商務長官に指名されているラトニック氏は、今年1月29日の米上院商務・科学・交通委員会で「同盟国はわれわれの善良な本性を利用してきた」「日本の鉄鋼、韓国の家電のような場合、われわれをただ利用してきた」と述べるとともに「もう彼らがわれわれと協力して、その生産拠点をまた米国に持ってくる時」と主張していた。

 2月4日からの関税実行が1カ月延期されたとはいえ、関税の賦課を撤回したわけではなく、メキシコやカナダの今後の対応によっては、25%の関税が両国にかけられる余地は残されている。

 4日の日経平均株価が前日比で600円超の上昇をみせつつ、前日の下落幅の1000円超の3分の2も戻せていないのは、先行きの不透明さを意識しているためだろう。

 

 <生産拠点のシフト、日本の自動車業界の大変動も>

 また、本質的にはラトニック氏の発言に代表されるようにトランプ政権は、海外企業による自動車のなどの対米輸出の代わりに米国内で生産拠点を新設し、そこで米国民を雇用し、適切に納税することを求めている。したがってメキシコとカナダで工場を稼働させ、対米輸出に振り向けている日本の自動車メーカーは、米国内での市場シェアの維持・拡大を目指すなら、メキシコにある工場を閉鎖ないし大幅に縮小し、米国内に既にある工場を拡充するか、新設する方向に舵を切るしかない、と筆者は予想する。

 メキシコに工場のある日系自動車メーカー4社は年間に約77万台を対米輸出しており、ホンダはカナダから約29万台を輸出している(トヨタも生産しているが、対米輸出台数は不公表)。

 3日の当欄でも指摘したが、生産拠点のシフトには巨額のコストがかかり、シフトが完了するまでには相当の年数が必要になるため、コストを負担できそうもない会社は米国へのシフトを断念し、メキシコの生産拠点の大幅縮小を強いられることになりかねない。

 もし、そのような決断を迫れる企業が出てきた場合は、日本の自動車業界の勢力図を大きく塗り替えるような大変動を引き起こす引き金にもなりかねない、と筆者は予想する。

 

 <注目される一律関税、日米首脳会談でやり取りはあるのか>

 上記で触れたラトニック氏の米上院での発言の中で、メキシコ、カナダ、中国向けの関税とは別に、いわゆる「一律関税」にも言及し、各国の貿易慣行を調査して「3月末から4月1日までに結論を出す」との見解を示していた。

 筆者は、トランプ関税の本筋はこちらの「一律関税」ではないか、と指摘したい。日本から見ると、2024年で21兆2951億円に達する対米輸出額に10-20%の関税がかかれば「大惨事」になりかねない。

 7日の日米首脳会談では、この点についても米側の意向を確認できることになるのかどうか。国内報道では、日米同盟や防衛費の国内総生産(GDP)比を2%から3%を目指す方向性が議論されるのではないか、と言った点に注目が集まっているが、「一律関税」で日本がどのような位置づけになるのかも大きな問題であると指摘したい。

 

 米国が対中関税の発動を決めて、4日午後の日経平均株価は上げ幅を大幅に縮小させ、ドル/円もドル安・円高方向に一時、動いた。トランプ政権の本当の狙いは何か、ということを巡り、グローバルマーケットはしばらく値動きの激しい展開が続きそうだ。


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