笑うしかない友
~玉手箱
これ、何だと思われます。
どれ。
これです。
だから、どれ。
これですよ、これ。
さっきのこれと今のこれは違うね。
一緒です。
何が何やら。
だから、ここも、ここも、これの一部なのです。
ほう。たとえば、私からは見えない君の背中も君の一部というようなことかな。
ま、まあ、そういうことです。いいえ、見えていらっしゃいますよ、これ。
君の指も、これの一部かな。
いや、これは違いますよ。このこれはこのこれとは違って……。いや、ここも、ここも、そしてここも、これです。しかし、これを差す指は、これではありません。
では、聞くが、右の人差し指と左の人差し指を合わせると、これはどっちだ。
これがこれですよ。
君と私の人差し指を合わせて何になる。
イーティー。
どっちがどっちだ。神か、アダムか。神がアダムを創造したか。あるいは、アダムが神を想像したか。どっちもどっちか。レオナルド・ダックに聞くしかない。
ダ・ビンチね。
神はアダムから慰撫を創造したが、アダムは慰撫を想像したか。Madam,I‘m Adam.
字が違う。
呉医務はWORDに家。
もっとひどくなった。
いいかね。こうやって、自分の指と指を触れ合わせるのだよ。すると、さあ、これはどっちの指だ。
左です。
どうして。
私は右利きですもの。
左利きの人なら。
初対面の人に聞けますか、あなたは右利きですか、左利きですかって。
では、聞くが、君は自分の右の指で自分の右の腕が指せるのかね。
できますよ、ほら。
あれあれ。本当だ。柔らかいね。
両手を背中で合わせることもできますよ。やってみましょうか。
いいよ。今はこれの話をしているのだ。
だから、これはこれですって。ほら、これ、これ。私が今上下させている、これ。
君はわざとらしく腕を上下させているが、腕がこれかね。
いや、私の腕は私の一部ですが、これは私の一部ではないのです。
日本は?
違います。何が。いや、違いません。これは日本の一部です。
いつから。
昔からでしょうね。
嘘だろう。君はそれをメイド・イン・ジャパンとは思っていないはずだ。
じゃあ、何だと。
竜宮城の宝物だと思っているのだろう。あるいは、私にそのように思わせたいのだろう。
何だ。ご存じじゃありませんか。
知らないよ。君がそう思っているのだろうと思っているだけだ。
じゃあ、なぜ、最初から玉手箱だろうとおっしゃらなかったのですか。
知っているからだよ。それは箱だ。だろう、じゃない。だ、だ。私はそれが箱であると確信している。箱だと思っているのではない。君だって箱だとわかっているはずだ。だから、私が、わざわざ、それは箱である、えっへん、などと威張っている場合ではなかった。
では、どんな箱だと思われますか。
だから、ただの箱だよ。いくらしたか、知らないけど、竜宮城から浦島太郎が持ち帰った玉手箱だとは思わない。他の何だとも思わない。
あっ。そういうこと。
そういうことって、わかっているのかな?
わかります。わかります。
では、聞くが、君は自分のことを何だと思っているのかね。
うう。
正直に答えなさい。
言えません。
言いたくありません、だろう。
うう。
よし。今日はこれぐらいにしといてやる。とっとと帰りたまえ。君が帰らなければ、私が帰る。蛙が鳴かなくても帰る。
いえいえ、それはなりませぬ。
落ちを忘れてかなりいやか。
カナリヤね。
落ちなんか、私の知ったことではない。私は落ちのためにこの世に生れてきたのではない。
でも、落ちぐらいないと。
落ち着かないか。では、聞くが、君は何のために生きてきたのだ。落ち着くためか。十六の夏休みに抱いた夢や希望を忘れるためか。
若かった。
あのスニーカーは捨てたかい。
知らないのです、私は自分が何のために生まれたのか。
ご両親は何と。
プライバシーの侵害です。
そんなにもありのままでいたいか。
レリゴ。
では、蟻のパパはどうなる。うちのパパはせっかち。
パパは乳牛屋。
茄子がママなら、胡瓜はパパ。
耳に蛸焼き。
蟻が倒産。
蚯蚓は線引き。
では、それを横須賀。
寄越すかね。
軽々来たぜ、箱だけ。横幅、縦幅、持てるの、小箱。開けましてお目玉。ぽわ~ん。げほげほ。開けてびっくり、黙ってパコパコ。
ぱたぱた。こんなことになろうとは。
煙いことは煙いが、何も起きない。
起きてますよ。
あれあれ。どうしたことか。君がいない。君がいた場所に見知らぬ高齢者がいる。よう、先輩、二千万、持ってる? 持ってたら、ちょいと丁髷。
持ってません。
半分でいいから卓袱台。せめて范文雀でも帳面。
私ですよ、私。さっきの白い煙を浴びたせいで年を取ってしまったのです。
君は浦島太郎だったのか。
違います。私は普通の人間です。玉手箱の中の煙を浴びると、誰もがあっという間に老化するのです。
では、あの白煙はDDTとかPCBとかPTAのようなものだったのか。
ちょっと私にはわかりかねます。
もしかして、私も老化したのだろうか。廊下は柱ない。誰もが知らない、自分が本当は誰なのか。
そうだったのか。誰も教えてくれなかった。
あれあれ。ここはど~こ。私はだ~れ。あなたはど~なた。どう~なってんの。夏夏夏夏ここドーナツ売ってんの。愛愛愛愛淫乱どすえと帯解きながら花嫁御寮はなぜ笑むのだろう。SMだから。へらへらへったら、腹へった。
呆けちゃった。
下関を頼む。
下の世話ね。
白煙は百円では食えんで。ふがふが。
というのが最期のお言葉でした。深々。
ぶかぶか。ぷかぷか。ぱぺぴぼぷぴぴぴ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピ――――
おやおや。ついに私もご臨終か。
ご中傷様です。
夢にも思わなかったな、こんなにもさっさと死んでしまう自分を看取ることになろうとは。
何が何やら、ちっともおわかりにならない方でしたね。
二千万は二千円札でナンマイダーメン、略してメンマラーメンということで、本日の死亡遊戯は、これにて獅子舞。
おしまいね。
今回は落ちがなかったな。
残念ながら。
私は残念ではない。
ところで、その空き箱、どういたしましょう。
どれどれ。
それそれ。
これこれ。
あれあれ。
やれやれ。
(終)