回文
~閑人
夏休み 手仕事伍して 御簾や綱
(なつやすみ てしごとごして みすやつな)
足し算と 苦闘に疎く 頓挫した
(たしざんと くとうにうとく とんざした)
閑人か ナウいと言うな 感じ麻痺
(ひまじんか なういというな かんじまひ)
青海波 挫け掛け軸 排外せ
(せいがいは くじけかけじく はいがいせ)
(終)
回文
~閑人
夏休み 手仕事伍して 御簾や綱
(なつやすみ てしごとごして みすやつな)
足し算と 苦闘に疎く 頓挫した
(たしざんと くとうにうとく とんざした)
閑人か ナウいと言うな 感じ麻痺
(ひまじんか なういというな かんじまひ)
青海波 挫け掛け軸 排外せ
(せいがいは くじけかけじく はいがいせ)
(終)
笑うしかない友
~梅干し
梅干しの種も役に立つよ。
割って天神様を食べるのね。
違うよ。埋める。
梅だから埋める?
梅干しの実が生るんだ。
まさか。
梅の種から芽が出て梅の木になって梅の実が生るよね。
だろうね。
梅干しの種から梅干しの木が生えて梅干しが生るんだな。
へえ。じゃあ、梅干しの花って、どんなの?
梅干しと一緒に入ってる紫のあれ。
紫蘇ね。
あれが梅干しの花だ。
あれは花じゃなくて、葉だよ。
紫蘇の花って知らない?
知ってる。
梅の花のことをお洒落に言うと紫蘇の花だよ。
紫蘇の花は全然違うよ。
波の花って知ってる?
うん。
あれは花じゃないよね。
だから、何。
君、頭、固いなあ。
比べようか。ごっつん。
痛い。
ごめんなさいは?
ごめん遊べ。
ごっつん。ごっつん。ごっつん。
(終)
野遊び
~毒虫あるいは妖精
茗荷を抜こうとして、
枝の差し交す影が落ちる斜面の草を掻き分けると、
薄暗い中にぼうっと明るんだ空間があり、
何匹も美しい黄色の虫が蠢いていた。
妖精のようだ。
手の甲に痛みを感じた。草の刺だろう。
だが、見ると、虫が留まっていた。尻を持ち上げている。
形は雀蜂に似ているが、黒い縞はない。
払って、急いでその場を離れた。
以前、雀蜂にアキレス腱を刺されたことがある。
そのときは、歩いていて垂直に体が落ちた。
痛いなんてもんじゃない。
そのときに比べたら、今度の痛みは軽い。
掌の腫れが引いたら、どんな虫だか、確かめに行こう。
完全防備をして。
夏の野遊びは命懸けだよ。
毒蛇もいるしね。
近頃は、熊も心配。
鈴は買ってある。
(終)
モロシになりそう。
~目黒祐樹
ある音楽家の名前を思い出せなかった。〈海〉という字が頭に浮かんだ。ただし、その字が当たっているようには思えない。調べたら、すぐにわかった。〈海〉ではなく、〈洋〉という字が含まれている。
名前はわかったが、どうもしっくりと来ない。
同じ名字で嫌いな人がいたのを思い出した。ただし、嫌いな理由は特にない。口を利いたこともない。その人は私を嫌っていたらしい。嫌われても平気だった。
一時間ほどして、ある女優のことを思った。やはり名前が出てこない。名字の一字を思い出したが、もう一字が思い出せない。彼女のことは、好きでも嫌いでもない。しばらくして、下の一字は違うが同じ読みの元政治家の名前を思い出した。その人のことは大嫌いなのだが、名前を忘れたことはない。印象が強いからだろう。
その女優と同じ名字の少年の顔が浮んだ。ところが、すぐに別の少年の顔が思い出された。その少年の名前は覚えていない。先に思い浮かべた少年の顔が嘘っぽく思えて来て、そんな奴がいたという感じが薄れていった。そして、また別の少年の顔が浮んだ。彼の名前は覚えている。全然違う名前だ。
女優の名字は思い出せたが、下の名前が思い出せない。三字のカタカナが浮かんだ。平仮名だったか。音は合っているはずだ。漢字で二字だろう。そう思ったら、すぐに思い出せた。
パンデミックになってから、急に名前が思い出せなくなった。ウクライナのごたごたのせいで、さらに頭がおかしくなった。
温暖化のことなら、十数年前から諦めている。80年代に「月刊プレイボーイ」で温暖化の記事を読んだ。〈温暖化が肌で感じられるようになったら手遅れだ〉みたいなことが書いてあった。
温暖化のことは諦めても、猛暑には耐えられない。ぼうっとしてしまう。思考が鈍る。だが、物忘れとは関係がない。
物忘れの原因は老化だけではなさそうだ。嫌なことは気にしないようにしているからだろう。ところが、嫌なことを思い出さないのではなくて、嫌なことに関連した言葉を思い出せなくなっている。本末転倒だ。
素直になろう。そう思った途端、ある男優の名前を思い出した。数か月前から思い出そうと努力していた。彼の兄も俳優だ。その兄の名前を思い出せば、弟の名前も思い出せそうだ。なぜなら……。目黒祐樹。
最初のルバン三世役だ。映画は観ていない。観たくなかった。漫画の雰囲気と違っていそうだからだ。なぜ、違うと思ったのか。アニメが違っていたからだ。腹が立つほど、違う。なのに、何本も作られている。アニメ・ファンは原作を読んでいないのか。あるいは、原作のあの物憂い雰囲気を感じ取ることができないのか。
まあ、いいや。
どうせ、手遅れだ。
(終)