シブウコンタ
(酔っていないことの証明)
ガキツタデタデガキツタデ
アアイヨイヨ
ケイミノウコンタニエウタデ
リマンアガツトンエデノイカタ
ゾヤサンサキツオロカタムケ
ノサイヨイヨ
(終)
シブウコンタ
(酔っていないことの証明)
ガキツタデタデガキツタデ
アアイヨイヨ
ケイミノウコンタニエウタデ
リマンアガツトンエデノイカタ
ゾヤサンサキツオロカタムケ
ノサイヨイヨ
(終)
夏目漱石を読むという虚栄
1000 イタ過ぎる「傷ましい先生」
1500 さもしい「淋(さび)しい人間」
1530 隠者ハッタリ君
1531 窮状の露呈
Sはわりとよくあるタイプの根暗みたいだが、断定はできない。彼の言葉が意味不明であるだけでなく、彼に関するPの「記憶」を語る言葉も意味不明だからだ。
『こころ』が私にわかりづらいのは、作者が前提にしている事柄と私が常識だと思っている事柄が違うからかもしれない。ただし、どのように違うのか、よくわからない。
<チョロのように、
ばかのふりしちゃだめだ。
ペロのように、
びくびくしてちゃだめだ。
チコのように、
ぶつぶついっちゃだめだ。
パッシーのように、
べらべらおしゃべりだめだ。
トラキチのように、
ぼやぼやしてちゃだめだ。
これは、きみが、きみで、いるための、しっかりまもる、
ば・び・ぶ・べ・ぼ・だぞ。
(ひがし くんぺい『ばびぶべぼだぞ、わすれるな』)>
これが常識。勿論、常識が真実とは限らない。だが、常識を無視したら、話は通じない。
ば 「彼の前に跪(ひざ)まずくことを敢(あえ)てしたのです」(下二十二)
び 「物足りるまで追窮する勇気を有(も)っていなかったのです」(下十六)
ぶ 「馬鹿にされたんじゃなかろうかと、何遍も心のうちで繰り返すのです」(下十六)
べ 「私はしきりに人間らしいという言葉を使いました」(下三十一)
ぼ 「私はどちらの方面へ向っても進む事が出来ずに立ち竦(すく)んでいました」(下三十五)
Sは、自分の駄目な部分を必死で正当化し続ける。正当化の究極が自殺だ。Sは「自分で自分を殺すべきだ」と考えるが、この言葉に確かな意味はない。言うまでもなかろうが、これは〈誰かが「自分を殺すべきだ」〉と〈誰かを「自分で殺すべきだ」〉という文が混交したものだ。Sは、この言葉によって自分の窮状を語っているのではない。この言葉そのものがSの精神的窮状の露呈なのだ。
意味のある二つの文から本文の言葉を差し引くと、〈誰かが誰かを「殺すべきだ」〉となる。「べき」があやしい。Sは、〈誰かを殺したい欲望〉と〈誰かに殺される義務〉を混同しているらしい。このことに作者が気づいていないのなら、読者も気づきようがない。
1000 イタ過ぎる「傷ましい先生」
1500 さもしい「淋(さび)しい人間」
1530 隠者ハッタリ君
1532 中途半端な人(
教育者としての隠者はよく知られていよう。好例は『スター・ウォーズ』(ルーカス監督)のヨーダや『ベスト・キッド』(アヴェルドセン監督)のミヤギなど。太公望、諸葛孔明、『モンテ・クリスト伯』(デュマ父)のファリア司祭、射手座になったケンタウロス族のケイロン、『宮本武蔵』(吉川英治)の沢庵、『レ・ミゼラブル』(ユーゴー)のミリエル司教なども思いだされる。
<人はただおのれ自身だけを、自分の運命だけを望むことしか、ゆるされていない。そこへ行くのに、ピストリウスはある距離だけ役立ってくれたのである。
(ヘルマン・ヘッセ『デミアン』)>
Pはどんな人物になったのか。そのために、Sはどんな役に立ったのか。不明。
<亭主のテナルディエの方は、背の低い、やせた、色の青い、角張った、骨張った、微弱な、見たところ病気らしいが実はすこぶる頑健(がんけん)な男であった。彼のまやかしはまず第一にそういう身体つきから初(ママ)まっていた。いつも用心深くにやにやしていて、ほとんどだれにでも丁寧であり、一文の銭をもくれてやらぬ乞食(こじき)にさえ丁寧であった。目つきは鼬(いたち)のようでいて、顔つきは文人のようなふうをしていた。ドリーユ師の描いた人物などに似通ったところが多かった。よく馬方などといっしょに酒を飲んで気取っていた。だれも彼を酔わせることはできなかった。いつも大きなで煙草(たばこ)をふかしていた。広い仕事着をつけて、その下に古い黒服を着込んでいた。文学に趣味があり、また唯物主義の味方である、と自称していた。何でも自分の説をささえるためにしばしば口にする二、三の名前があった。それはヴォルテールとレーナルとパルニーと、それから妙なことだが、聖アウグスチヌスとであった。自分は「一つの哲学」を持っていると断言していた。が少なくとも、非常なまやかし者で、尻(けつ)学者(がくしゃ)であった。哲学者をもじって尻学者と称し得らるるくらいの男はざらにあるものである。
(ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』)>
Sはテナルディエの同類みたいだ。ただし、断定はできない。本文が意味不明だからだ。
<悟った人は、胸中に何の思い患うこともないし、愚かな人は、何も知らず何を考えることもない。この人達とは、ともに学問を論じ、また、協力して仕事をすることができる。ただ中途半端な知識人だけは、一通りの思慮知識がよけいにあり、それだけにあて推量し疑い深いものが多い。こういう人とは、何事につけても共同して仕事をすることは難しい。
(洪自誠『菜根譚』前集二一六)>
馬鹿と鋏は使いよう。切れない鋏は無用の長物。「淋しい人間」は、さもしい。
『菜根譚』は「こんな妙な本だ」(N『門』十八)と紹介されている。理由は不明。
1000 イタ過ぎる「傷ましい先生」
1500 さもしい「淋(さび)しい人間」
1530 隠者ハッタリ君
1533 逆さまの隠者
Kは隠者になりたがっていたみたいだ。中年Sは一種の隠者だろう。
さて、隠者とは、どういう人だろう。「玄賓(げんびん)や増賀(ぞうが)、明遍(みょうへん)など」(『ニッポニカ』「隠者」)といった名前が挙げられているが、同じ事典の項目として出ているのは雑賀だけだ。しかも、そこを読んでも彼の偉さは、わからない。
日本では、隠者とは「仏教的諦観に立って俗世間との交渉を断ち、和歌などを詠んだのが特徴」(『ブリタニカ』「隠者」)なのだそうだ。だったら、〈隠者〉とは、〈隠者文学の作者を気取る人〉ということになる。隠者ハッタリ君だ。彼らは、実際に俗世間と切れていたのだろうか。鴨長明は「住(す)まずして、誰(たれ)かさとらん」(『方丈記』)と見得を切るために隠棲したみたいだ。隠遁は流行だったらしい。西行の「よしの山 やがて出でじ」(『新古今和歌集』1617)というのはポーズで、彼の本業は政治工作員だったのかもしれない。松尾芭蕉は忍者かも。
隠者の典型について確認しておこう。
<ある意味で、このカードは“愚者”に似ています。隠者はただひとり、道案内もなく旅に出ているのです。
あたりは闇です。
彼の手にするランタンは内にひそむ光、すなわち良心を表わします。そのかすかな光明が、おのが影を地上に投じ、行手を照らすのです。おかげで足もとの小石も、土地の割れ目も避けて通ることができます。
“人生は刺繍のようなものだ。作業の前半では正しいところだけが見え、後半では間違ったところが見える”とは哲学者ショーペンハウエルの言葉です。
取りようによっては、このカードは次のことを意味します。
“隠者”はかたくなに過去の信念に固執し、新しい考えに理解を示しません。
その外套は無知を表わし、叡智は風のために遠ざけられます。ふとい杖は彼が固執するふるい考えを示します。
(中井勲『タロット』「Ⅸ隠者」)>
Sの「良心」(下四十二)は「行手」を照らさなかった。
<カードが逆さまの場合―忠告に耳をかさず、自己の誤った判断を(ママ)固執する人間を意味します。援助を断わり、叡智をしりぞけ、必要以上に人を疑う人間をも意味します。
(中井勲『タロット』「Ⅸ隠者」)>
逆さまの隠者は、愚者よりもまずい。愚者の場合、「急転直下問題が解決する可能性」(『タロット』「0愚者」)があるから、まだ希望が持てる。なお、逆さまの愚者は、逆さまの隠者によく似ていて、「無謀な衝動的行為から、大きな問題が生じます」(『タロット』「0愚者」)と警告されている。Sは「衝動的行為」を繰り返した。「自殺」もその一種だ。
Sは逆さまの隠者だった。だから、当然、自滅した。何の「不思議」(上六)もないのだ。
(1530終)
腐った林檎の匂いのする異星人と一緒
13 再会
面倒な仕事だった。
ここの社員らしい人々が行く手を阻むよう。あるいは、出口に押し出すよう。玄関はどっちだったか。彼らは、薄笑いしながら、目を合わせてくる。知り合いだったか。いつか、一緒に仕事をしたか。したのかもしれない。向こうもそんな気がして笑いかけるのか。知り合いのふりをすべきか。
歩きながら襟を直す。咳、一つ。
天井を見る。高い。
手にしている書類を読もうとする。眼鏡を忘れた。ここのどこかに置き忘れたのだろう。そのはずだ。どこだろう。
数時間前、数十分前か、ここの人に、この建物の一室で書類を渡した。やけに広い。事務机以外、特に何もない。初対面だった。二人きりだったと思う。書類を交換して、すぐに別れた。名前は忘れた。女だろう。その人は大きなブレスレットをちょっとだけずらした。手首には、一センチほどの黒子のようなものがあった。こちらの腕時計を掏摸のように見事に外した。こちらの手首にも同じような黒子があった。こんなものがあることに気づかないで生きてきた。まるで、生まれてこの方、一度も腕時計を外したことがなかったみたい。息を飲む。質問しようとした。でも、自分は何を知りたいのだろう。彼女は何もかも弁えているみたいで、すっと頷いた。
腕時計が元に戻っている。ただし、針が止まっているようだ。耳に当てる。コチ、コチ。聞こえる。でも、遅くないか。コチコチコチ。速いか。
彼女はいない。最初からいなかったみたいだ。逃げられたか。彼女は私から何かを盗んだのだろうか。何を盗んだのだろう。盗まれて惜しいか。
彼女は私に何かを告げたはずだ。私にとって重要な情報らしい。あるいは、彼女にとってか。口を開くと、ちょっとだけ遅れて、まるで口述筆記をするみたいに数台のタイプライターがバチバチと鳴り出すのだった。言葉が聞き取れない。タイプライターは近くの事務机に置かれている。ただし、一台だけ。タイピストはいない。空席。
あのうるさい音は何だったのか。彼女は何を告げたのか。告げたつもりなのか。彼女は何者か。ここの人か。私のような他社の人間か。名前は知らない。聞けなかった。
未知の建物の中を探し回る。
眼鏡を探すのか。出口を探すのか。彼女を探すのか。
階段を上り下りするうち、出口が見えてきた。
息苦しい。長椅子に掛ける。できれば横になりたい。
目の前を彼女が通り過ぎた。書類を脇に挟んでいる。だから、彼女だ。出口に向っている。
小走りに近づく。
質問。
あなたは私から逃げているのですか。あるいは、ここから逃げたいのですか。
彼女が振り向く。
顔を確かめる前に、ゆらりと建物が浮き上がった。
初めての体験ではない。
彼女に会ったのも、今日が初めてではなかった。
照明が消えた。停電だ。暗い。目が慣れない。
停電は何日も続くはずだ。何か月か。何年か。
彼女はどこにいるのだろう。
誰かが笑っているな。
君たちには聞こえないか、あのあれは。
(うふふ)
(終)
やろか
作者不詳
(お菓子をみせびらかしながら)
やろか
考えろ
蝋燭だ
「だ」が付くから
駄目だ
欲しいか 欲しいか
干し烏賊 鯣
(終)