超AI時代の生存戦略 | |
落合陽一 | |
大和書房 |
人はデジタル空間にもう一度生まれた
今回、読んだのは落合陽一著の『超AI時代の生存戦略』です。
今後、ほとんどの仕事はAIにとられているのではないかと言われている時代。
私の最近の趣味の将棋の世界でもコンピュータが勝つにはまだまだ時間がかかるのではないかと言われていたのが今から15年前だったと思いますが、今では名人に勝ってしまうというところまで来てしまいました。
さすがにターミネーターみたいに人類にAIが反乱を起こすところまでいくかどうかはわからないですが、AIとの付き合い方を考えていかないといけない時代は近いところまできたのかなと思います。
私自身、今後、士業として食べていくためにもこのAIというものが一つキーワードになってくることは間違いなく、どうやって付き合っていくのかを考えていかなければならないと思いましたので、興味を持って読んでみたところです。
1.AIの得意とするところと弱点
本書の第2章で、著者はAI時代の働き方について述べられています。
そこでは、AIの得意とするところというのは短時間のうちに情報を検索したり、記憶したり、それをもとに解決方法を導き出すということころにアドバンテージがあるというようなことを述べられています。
今まで私たちが苦労してきた問題が提起されて、解決するための過程の部分において力を発揮できそうだということはわかりました。
一方で、AIに解決策を提示してもらうためには「具体的な指示」が必要になってくるので、私たちのように「抽象的な考え」を具体的にするには弱いということです。
私も、理解しているかどうかは怪しいですが、例でいうとこんな感じなのかなと思います。
例:法学の論文を書くとき
①仮説を立てる(=抽象論)
②仮説を証明するためのもとの事例についての判例、論文、書籍の検索
③反対意見を尊重しつつ、論理的に反論を試みながら自己主張をするような論文を作成する
④論文を発表する
以上の例のうち、①については人間が考えるしかなく、AIが考えるということは難しいと思います。
しかし、②については①を考えた人間がどういった素材が必要なのかなどを具体的にコンピュータに指示し、依頼することで資料収集の時間が大幅に短縮することができます。また、③の部分についても、自己の意見を論理的に構築するようにコンピュータに命令すれば作成可能になるかもしれません。
では、②と③ができ、実際に論文が仕上がったとして、その結果を鵜呑みにしてそのまま論文を発表することができるのでしょうか。
まず、③に出てきた結論を、仮説を考えた私自身がロジックを検証しなければならないと思います。いくら論理的に完璧でも、現実性がなければ意味がないということもありますし、世の中に発表する以上、自分自身で世間に伝えることができるように工夫をしていかなくてはなりません。
つまり、②と③がいくらAIにできたからと言って、最後に人に発信するのは考えた人だということになるので、④で人に発信する力がより求められてくるのではないかということです。
そいういう意味では、AIがいくら我々よりも優れていても、人間でしかできないことや使いこなす側の人間がAIに頼りきりでは意味がないということは本書からなんとなくですが読み取れた部分だと思います。
2.今後は「伝える力」とスペシャリスト
AIが発達した社会で必要な能力は何か。
著者は「伝える力」こそが必要なものだといいます。
AIから導きだされた結論を今度は人に対して発信していかなければならず、その伝える力こそが重要になってくるものだといいます。
また、平均的にできることではなく、ある特定の分野でスペシャリストを目指す必要があるといいます。
「伝える力」については、今後というよりは随分前から必要なものだと思いますが、今後は、今までよりも伝える力を養わないといけないという意味だと思います。
また、ある特定のスペシャリストというのは、他の人にできない一番のスキルを持たなければならないという意味だと考えられます。
私も、概ね著者の見解には賛成でAIから導き出されたものを人にどのように伝えるかが重要にはなってくると思います。
なぜなら、著者も述べられているように論理的であればあるいは合理的であれば人々がわくわくするようなものになるのかといえばそれは疑問だからです。
人間である私たちには感情があり、論理的な結論をそのまま伝えても味気のないものになったり、素直に受け入れられないことにもなりかねません。
そこで、伝え方でいかに相手のエモーショナルな部分を刺激できるかどうかがかかってくるのではないかと思います。そういった感情を刺激するためには非論理性や非合理なことも織り交ぜないといけないと思います。
また、AIによって出された問題解決策を伝えるためには、その問題解決策に対する知識や経験が必要になるため、専門知識は当然に必要になってきます。
その専門知識を身に着けるためには、興味がありずっと続けることができるものでなければなりません。また、その分野はできる限りオンリーワンの分野であると尚良いことになります。
そういう専門知識を得るためには結局のところ「自分が好きなこと」でなければならないと思いますので、著者の言うような今後は好きなことを仕事にしていく時代が来るというのもなるほどと言えるなと思います。
今後は、AIを前提とした社会で最前線で働きたいと考えるのであれば、今以上に「伝える力」やブルーオーシャン(競争がないあるいは少ない業界)を探し出しす力やその中での専門性が求められるのではないかと思います。
と、今後のAIが働き方をどう変えていくのかところで、本書を読んで感じたことや得たことです。
今の通信技術の発達によりSNSが発達し、私たちは現実の世界とインターネット上のデジタルな世界で生活をしているといえます。
SNSでは自分の流したい情報を流し、あるいは知りたい情報を知る場であったり、コミュニケーションを匿名で行ったりします。そういう意味ではデジタルの中で生まれているとも言えます。
そこでは、どういう情報を発信するのか、どのように伝えるのか、正しい情報をどうやって精査するのかということが重要になってきており、今後ますますこういったスキルが重要になってくるものだと思います。
ただし、本書に書かれていることは、AI時代の生存戦略として読むと、堀江貴文氏などが以前から語っていることと変わることがないので、目新しいと思うことが特にないのは本音です。
また、お世辞にも文章が読みづらいため、すらすら読み流せる本でもありません。専門用語も多いです。実際、私はスマホを片手に読み進めました。
読み終えてみると、そんな大したことは特に書かれていなかったなと思うところもありましたが、意識として、「AI時代にどんな生活が待っているのか」ということを考えながら読むと、私自身の中でいろいろな考えやアイデアが浮かんできました。
いろいろなことを考えながら読むという意味では、本書は私は良いものを読んだなという気はします。
AI時代にどういう風に生活をするべきか、素直に読むもよし、自分で反論しながら読むも良しの本だと思います。読みづらさを我慢できるのであればですが。