アフリカ・ビジネスと「日中外交戦」:「TICAD VI」を振り返る
2016年9月13日 Foresight
日本にとっての実質的効果はかなり高かった(C)AFP=時事
8月27、28の両日、ケニアの首都ナイロビで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催された。入場者は1万人を超え、ジェトロ(日
本貿易振興機構)が開催したジャパン・フェアだけでも7000人の来場があった。安倍晋三総理、 岸田文雄外務大臣、塩崎恭久厚生労働大臣のほか、4人の副大臣と2人の政務官、8人の議員が同道し、総理官邸、外務省、経産省、国交省等など、政府団は数 百人
に及んだ。
財界からは榊原定征経団連会長、野路國夫経団連サブサハラ地域委員会委員長、関山護経済同友会アフリカ委員会委員長はじ
め、140社を超える日本 企業がミッションを派遣し、ほぼ50人のCEO(最高経営責任者)がやってきた。少数ながら学界やNGO(非
政府組織)からも参加者があり、官民併せおそ らく3000人近い日本人が、さして広くはない会場、ジョモ・ケニヤッタ国際会議場(
KICC)にひしめいたわけである。まずこの派遣規模が、日アフリカ 交流史において画期的だった。
一方アフリカ側は53カ国が参加、開催国ケニアをはじめ13人の大統領を含め、26人の首脳級がやってきた。加えて各国の企業も
参加した。
高いアピール力
開会式における総理のスピーチは、細かい詰めよりも大目標を示したという意味で効果的だったし、訴求力のあるレトリックもすばら
しかった。「日ア フリカ官民経済フォーラム」、「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ」、インフラ建設用100億ドルの政府融資、若年層を
対象とした高度人材育成プログラ ム「ABEイニシアティブ」の拡充、カイゼンのアフリカ全展開、ユニバーサル・ヘルスの推進――。
安倍総理が提唱した項目はすべて、今回ナイロビにやって きた日本企業のビジネスに関連している。
総理はこれらを「Quality and Empowerment」と総称した。「質的向上と人材強化」を推し進めることで200億ドルの民間投資を誘
引するという内容である。
つまり、官民併せて300億ドルの資金投入をプレッジ(公約)したわけだ。昨年南アフリカで開かれた第6回中国アフリカ協力フォーラ
ム (FOCAC)で中国がプレッジした600億ドルの半分だが、中国が3年間でこの額を消化できるとは、少なくとも私は考えていない。と
はいえ、300億ド ルはかなり難しい目標値ではある。
しかしながら、欧米諸国の対アフリカ投資との対比でいえば、日本の経済規模からみて相応の目標だとも言える。なにせ日本の対ア
フリカ投資ストックは100億ドルを漸く超えたばかりで、英米仏の5分の1ほどに留まっているし、中国の3分の1に過ぎないのである。
ビジネスカンファレンスでは、安倍総理および関係国首脳・閣僚立会いの下、82本の覚書(MOU)が締結された。
ジェトロもアフリカ開発銀行 (AfDB)、国連工業開発機関(UNIDO)ほかアフリカ7カ国の機関とMOUを交わした。
民間各社のMOUは、電力、農業、インフラ、金融、医療など 様々な分野に及んでいて、なかでも丸紅やみずほ銀行のMOUが数で目
立っていた。
これだけの文書と会合会談を用意していく作業のなかで、各社各機関のなかにアフリカ・ビジネスへのモメンタムが生まれ、組織的に
組み込まれていく。10年前を思うと、日本企業の姿勢がここまで積極的になったことは感銘に堪えない。
ジャパン・フェアに出展した民間企業84社の各ブースも工夫がこらされていて、森永製菓の菓子類やカネカのエクステから、コマツや
日立製作所の重 機まで、実にバラエティに富んだ陳列であった。世界各国の資源投資が勢いを失った現在、非資源日本企業が再び
アフリカで活躍する可能性を十分に感じさせる ものであった。
ロジ面では日本側の負担がきわめて大きかったアフリカ開催TICADだったが、こうしてみると、あとに残した実質的効果としては前
回、前々回を凌いだかもしれない。
政府の役割
10年以上前、在アフリカ日本大使会議において、「日本企業が出てきてくれないので経済支援に幅をもたせられない」というご意見に
対し、「日本企 業がいないのなら商業利益は中国を含む他国企業にとらせればよい。日本としては開発効果をとって、それを現地政
府にアピールすればよい」と申し上げたこと がある。日本企業の対アフリカ姿勢が積極姿勢に転換したことで時勢は変わったが、実は
その当時私は、政府の掛け声によっては企業の行動は変えられないと考 えていた。
だが、その後の経験でいまは違う考えをもっている。自社完結的なグローバル・ネットワークをもつ企業はいざしらず、そうでない多く
の日本企業は、 政府および政府機関の働きかけとアシストによって経営の方向が変化しうる。企業経営者もまた世情のモメンタムか
ら自由ではない。
10年前と現在とでは、日本企業の収益源泉が変化している。かつては一部のグローバル企業のみが海外での収益に過半を仰いで
いたが、現在は上場企 業全体の海外売上高比率が58%に達している。日本の外で稼ぐことで収益率を上げるという方向性が定着し
てきたのだ。日本経済総体がそういうふうに転換し ていかないと、ますます厳しくなる人口オーナスを克服できない。
ジェトロが進めているTPP(環太平洋経済連携協定)活用キャンペーンや農水産物輸出促 進、対日投資促進や地方創生も、日本経済
のグローバル化をさらに一段進化させることで日本社会の生き残りを図る、という大方針に基づいている。
アフリカ政策もまったく同様だ。2050年には人類の4人に1人がアフリカ人になる。そのときアフリカがどのような経済環境にあったと
しても、日 本企業がそこでふさわしいプレゼンスを確保している状態を実現しておかなくてはならない。それは、日本のサバイバルのた
めに必要なのである。現在、アフリ カにおける日本企業のプレゼンスは他の先進国にまったく届かず、日本の総海外投資において対
アフリカ投資の占める割合は1%にも満たない。アフリカが世界 総生産や世界総輸出に占める割合は凡そ3%であるから、ポートフォ
リオとしては3%が1つの目安である。
アフリカ・ビジネスに多くの困難が伴うことは事実だが、だからといって他国の企業も逡巡しているというわけではない。ということは、
アフリカにおける日本企業の出遅れは、アフリカの問題ではなく日本の問題だということを示唆している。
ナイロビ宣言と中国の反発
安倍総理は開会スピーチにおいて、
「アフリカ連合が策定した『アジェンダ2063』は、2023年までにアフリカは国連安全保障理事会に常任理事 国を送り込むとしている。
日本はこれを全面的に支持する」「日本とアフリカを繋ぐ海洋に国際ルールに基づいた平和をもたらすため、アフリカの皆さんと共に 働
きたい」という趣旨を述べた。
うまいものである。日本ではなくアフリカを主語とし、「皆さんの希望の実現をお助けします」と言われれば、誰も反対はできない。
反対すればアフリ カ内の合意に背くことになる。また、ソマリア沖の海賊問題で国際社会の支援を仰いだアフリカにしてみれば、「アジ
アとアフリカを結ぶ海の安全」と言われれ ば、これまた反対はできない。
結果、ナイロビ宣言には「海洋安全保障」が盛り込まれて国際法の尊重が謳われ、続けて「21世紀における国連」という項目が入り、
安保理改革が共 同目標として掲げられた。南シナ海について中国政府は「領土問題は当事者間の協議で解決すべきものであり、中
国の立場は世界60カ国が支持している」と主 張してきた。うち半分の30カ国はアフリカ諸国だったから、この主張はTICADナイロビ
宣言によって使えなくなった。したがってナイロビ宣言は、9月の 「杭州G20」で日本の立場を強くした。
中国はただちに猛烈に反発した。
中国外務省は「日本政府は利己的な利益をえるためだけに、中国政府とアフリカ諸国との間にクサビを打ち込もうとし ている」と言い、
新華社通信は、日本政府は「アフリカ諸国を経済支援で丸め込み、(国連安保理の)常任理事国入りを狙っている」と論評している。
また新京 報は、日本の目的はアフリカ支援にはなく「アフリカ諸国を日本の政治のために動かすことが目的」だと論じている。
この手のデマゴーグはまだまだ出てくるだ ろう。語るに落ちるとはこのことだ。中国のアフリカ政策の意図や考え方が丸見えで、「お前
もそうだろう」と言っているに過ぎない。
中国が自国の国益と威信丸出しでアフリカ政策を遂行していることは、たとえ中国政府がなんと言おうが、国際社会が皆よく認識して
おり、むろんアフ リカ人だって知っている。中国が他利的な動機でアフリカ支援を行っているなどと信じている人はいない。
10年前、セネガルが台湾と断交し中国と国交を結ん だ際、当時のワッド大統領は「国際社会に友情はない。あるのは国益だけだ」と
の書簡を台湾に送った。アフリカ諸国もまた中国の意図を飲み込んだうえで、し たたかに利益計算をしているのである。
ただ、これは決して悪いことではない。そもそも外交は、国益に基づいて行われなくてはならないものであって、そうでなければ国民が
許容しない。問 題なのはそのやり方であり、帝国主義時代と違って現代では、平等互恵と相互利益が確保されていなければならない
のである。そのためのレトリックがどれだけ 洗練されているかによって、国際世論は敵にも味方にもなる。
ここ数年の中国のヒステリックな反応は、アフリカでも腐臭を放ち始めた。中国外交を支えてきた 舌を巻くような外交上手連は、いった
いどこへいってしまったのか。
ケニア政府の能力
TICADは天候にたいへん恵まれ、雨季だというのに1度も雨に見舞われることなく終了した。しかし率直なところ、共催者として会議
を仕切ったケ ニア政府のハンドリングは、せいぜい70点くらいだったと思う。席次や発言順といったプロトコールにはやたらうるさい
が、「おもてなし」精神には欠けてい た。日本企業が送ったジャパン・フェア用出展品が会場に届いたのは、なんと開催前日である。
600人を超える警察官が配置されたというが万全の警備体制に は見えなかったし、行事を始めるにあたってかならずそこにいなけれ
ばならないケニヤッタ大統領やルト副大統領の動きは、傍からみても定まっていなかった。 安倍総理すら待ちぼうけを食わされたと聞
く。
それでも最後は恰好がつくというのがいつものアフリカなのだが、ナイロビにしてこれとなると、今後のアフリカ開催TICADが思いやら
れる。20世紀型外交儀礼と21世紀型ビジネスミーティングを繋ぎ合わせる工夫がいるように思う。
南シナ海では口だすわ、アフリカには進出するわで中国は地団駄踏んでいることでしょう。「こしゃくなー日本」って。
「日本は平和を愛する国家でありアフリカの皆さまと共に発展することを望んでいる」と大いに。、大いにアピールすべきですね。
日本人の誠実さ、きめ細やかさはアフリカの人々に受け入れられると思います。
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平野 克己
1956年生れ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院経済研究科修了。スーダンで地域研究を開始し、外務省 専門調査員(在ジンバブエ大使館)、笹川平和財団プログラムオフィサーを経てアジア経済研究所に入所。在ヨハネスブルク海外調査員(ウィットウォータース ランド大学客員研究員)、JETRO(日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長などを経て、2015年から理事。『経済大陸ア フリカ:資源、食糧問題から開発政策まで』 (中公新書)のほか、『アフリカ問題――開発と援助の世界史』(日本評論社)、『南アフリカの衝撃』(日本経済新聞出版社)など著書多数。2011年、同 志社大学より博士号(グローバル社会研究)。