日本の静かな「一帯一路」、中国を上回る成果
2019 年 4 月 23 日 08:20 JST WSJ By Mike Bird
北京で開催される一帯一路フォーラムに向けて花で飾られた中国財務省(4/18)
中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関する報道は絶え間なく伝えられている。しかし、中国政府の
対外投資戦略の中核を成す同構想は幾つかの点で、日本の静かな取り組みに後れを取っている。
国際通貨基金(IMF)によると、2016年末には日本と中国の海外資産保有額がほぼ同水準と
なったが、それ以降は日本の対外投資が中国を数百億ドルも上回っている。日本の海外資産保有額は
2018年第3四半期時点で1兆6670億ドル(約187兆円)だが、IMFの入手可能な最新データによると、
中国は同年第2四半期時点で1兆5420億ドルだ。
この差は、日本政府の国際融資拡大のまずまずの成功と、中国の「一帯一路」の限界を示すものだ。
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、日本と米国が中心のアジア開発銀行(ADB)に
対抗する機関だが、2016年の発足以降の融資は控えめであり、2018年9月までの融資残高は64億ドルに
とどまっている。これとは対照的にADBは2018年だけで358億ドルを融資している。2年前に比べると
40%増だ。
さらに「一帯一路」は人民元の国際化を図るという一面を持つが、これまでのところ国際的な融資は
圧倒的にドル建てが占めている。実際のところ、日本は自国通貨の海外での利用促進について中国より
うまくやっているように見える。
国際取引において円は世界第3位の通貨で、2019年2月の時点での比率は4.35%だった。ドルと
ユーロには遠く及ばないものの、人民元の1.15%は大幅に上回っている。そして過去数年、人民元の
比率はほとんど拡大していない。さらに人民元を使用した国際取引の大半は香港で行われている。
国際決済銀行(BIS)のデータによると、主要通貨で対外融資が金融危機前の水準を上回って
いるのは、円とドルだけだ。英ポンドおよびユーロ建ての国際融資は大幅に減っている。
中国が最も成功しているとみられている外貨準備高でさえ、日本に負けている。世界の外貨準備高の
うち人民元が占める比率は、初めて報告された2016年末時点の1.07%から1.89%に伸びた。
同じ期間に円が占める比率は3.96%から5.2%に伸び、過去15年で最も高くなった。
中国はいつの日か、日本からアジア最大の対外債権国の座を奪うかもしれない。また人民元は世界の
金融システムでより大きな役割を担うようになるかもしれない。中国の経済的影響力の大きさを
考えれば確かにそうなるだろう。だが現段階では、中国政府の対外的野心は実績が言葉に追い付いて
いない。
日本の「一帯一路」、中国の陰でアクセル全開
2019 年 8 月 3 日 01:55 JST WSJ By Mike Bird
――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
東方のある経済大国が、アジア新興国への金融支援で存在感を増している。いや、あの国ではない。
国際決済銀行(BIS)が今週公表したデータによると、対外融資で「ある通貨」が突出した伸びを
示した。日本円だ。2019年1-3月期(第1四半期)に日本国外の円建て借り入れ額は前年同期比12.5%
増加し、伸びはドルやユーロを上回った。これにより、総残高は8年半ぶりに50兆円の大台を突破した。
とりわけ借り入れの伸びが顕著なのが、日本の近隣諸国だ。アジア・太平洋諸国への融資は3月までの
1年間に32.8%急増し 、6兆5800億円に達した。これは断トツで過去最高の水準だ。融資の大半は
民間向けだが、その多くが政府系の国際協力銀行(JBIC)による支援を受けている。
もちろん、円建て融資の総額は、圧倒的な存在感を示すドルに比べるとまだわずかにとどまる。
国境を越えるドル建て融資は20倍以上の規模だ。
だが、アジアでは増加のペースが重要になってくる。アジア向けの対外融資については、日本か
中国が主な貸し手だ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」はより多くの注目を集めているものの、
途上国に対する日本の融資は中国よりも広範囲にわたり、しかも一段と速いペースで伸びている。
BISのデータは、中国人民元のように、国際的に広く使われていない通貨については内訳を示して
いない。国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、国際決済システムで人民元が使われる割合は2%
にも満たない。だがBISの国別データによると、中国の銀行による海外融資は1-3月期に457億5000万ドル
(約4兆9000億円)増加した。それに対し、日本の融資は2225億1000万ドル増えている。
日本が自国通貨建てで対外融資を行えること(中国がなかなか模倣できないでいる点だ)が、
おそらく最も重要な要因だろう。これにより、日本の借り手は大規模なインフラ案件で、日本企業を
請負先に選ぶ可能性が高くなる。中国の銀行が供給できるドルには限界があるが、日本の銀行が供給
できる円が同じように制限されるわけではない。
借り手が円を受け取ることに満足している限り、そして融資が金銭的に実行可能な限り、アジア
諸国向けの日本の融資に限界はない。