【WSJ社説】日本の核武装に道開く北朝鮮の核容認
日本北部の住民は29日、北朝鮮のミサイル発射を知らせるサイレンや携帯電話のアラートにたたき起こされた。
この中距離ミサイル発射実験は、北東アジアの安全保障をめぐる政治を一段と混乱させるだろう。
そして、日本に自前の核抑止力を持つことをあらためて促すものだ。
北朝鮮は1998年と2009年に、衛星打ち上げと称して日本上空を通過する長距離ミサイルの発射実験を行った。
1998年の発射で衝撃を受けた日本は、戦域ミサイル防衛で米国と協力することになった。
2009年の発射後には、在日朝鮮人社会から北朝鮮への資金の流れを日本政府が抑えた。今回の発射はさらに脅威が増している。
米国と同盟各国の情報機関は、北朝鮮が小型核弾頭搭載ミサイルを日本に着弾させる能力を得たとみているのだ。
日本の大半は、米軍が地域で運用するシステムと自国のミサイル防衛システムで守られている。さらに日本は最近、地上配備型
迎撃ミサイル「パトリオット3」(PAC3)を西日本に配備した。ただ、今回ミサイルが通過した北海道はそれらの範囲外だった。
日本の最終的な安保は米国の防衛力と核の傘だ。日本が攻撃を受けた場合は米国が反撃することが、日米安保条約で保障
されている。しかし、抑止力の論理は敵が合理的であることを前提とするが、北朝鮮相手に合理性は保障され得ない。
米国を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発も、この均衡を変化させている。北朝鮮が東京を攻撃し、これに応じて
米国が平壌を攻撃すれば、米国の都市が危険にさらされかねない。
日本の指導者たちはこれまで、自ら核兵器を保有することに長らく抵抗してきた。しかし、危機に際して米国が頼りにならないとの
結論に至れば、この姿勢が変わるかもしれない。あるいは日本として、たとえ信頼できる同盟国の判断であっても、それに自らの
生き残りを託す訳にはいかないと判断することも考えられる。既に一部の政治家は、独自の核抑止力について話し始めている。
世論は今のところ核兵器に反対だが、恐怖で気が変わる可能性もある。日本には民生用原子炉から得た核弾頭1000発分を
超えるプルトニウムがあり、数カ月で核弾頭を製造するノウハウもある。
この展望は中国を警戒させるはずだ。核武装した地域のライバルが突如現れることになるからだ。米国も日本の核保有を思い
とどまらせることに強い関心がある。韓国が即座に追随しかねないとあってはなおさらだ。東アジアが中東に続いて核拡散の
新時代を迎えれば、世界の秩序に深刻なリスクをもたらす。それもあって、核ミサイルを持つ北朝鮮を黙認することはあまりに
危険なのだ。
だがこの方針を、バラク・オバマ前政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏とジェームズ・クラッパー
元国家情報長官は広めようとしている。クラッパー氏は、米国が「(北朝鮮の核保有を)受け入れ、制限ないし制御することに努め」
始めなくてはならないと話す。8年にわたって北朝鮮の核は容認できないと話していたはずの両氏が今や、トランプ大統領と
安倍晋三首相はそれに慣れた方がいいと言っているのだ。
しかし、どうやって「制御」するのか。北朝鮮は交渉で核計画を放棄する意向がないことを明確に示してきた。
米国は「相互確証破壊(MAD)」で脅すことはできるが、日本上空を通過した今回のミサイル実験は、北朝鮮が米国と同盟国を
威圧・分断するために核の脅威をいかに利用するかを示している。
北朝鮮の核を容認すれば、はるかに危険な世界を容認することになる。
中国、ロシア、北朝鮮のならず者国家が核を保有。これだけでも非常に大きな脅威なのに、朝鮮半島が統一されれば、日本に憎悪を持つ、核保有した
新たな国家が朝鮮半島に生まれてしまう。日本は絶体絶命だ。
現在目の前に差し迫った危機に対し、国内でも日本の核武装を論じようという動き、また米国でも出始めた。
迎撃ミサイルを飛ばすより、攻撃ミサイルの方がコストが安い。北朝鮮が脅威であり続ければ、日本が進むべき道も自然と決まってくるのではないだろう
か。
もちろん、完全な核廃絶がベストの道だが。