中国のアフリカ巨額支援が国内に生む「犠牲者」
<習近平は総額600億ドルの経済援助をアフリカ諸国に約束したが、中国国内の農村部では子供たちが
義務教育も満足に受けられないほど地方財政が悪化している>
東京で9月3日に開幕した中国・アフリカ協力フォーラムで、習近平(シー・チンピン)国家主席はアフリカ諸国に
600億ドルの経済援助を行うと表明した。
このニュースが世界に流れたのと同じ頃、中国湖南省耒陽(レイヤン)市で起こった「入学事件」の写真が中国の
SNSで大量にシェアされた。耒陽市では9年間の義務教育が行われているが、財政難でこの20年間公立学校は
増設しておらず、今年5月の地方公務員の給料も払えずニュースになった。中国教育省の基準で、小中学校の
1クラスの生徒数は36~45人ぐらいが適切と考えられているが、耒陽市の場合、66人を超える超過密のクラスが
740もある。
教育省は今年を超過密クラス撲滅の目標年に設定。耒陽市政府はこれを理由に、強制的に1万人近くの高学年の生徒を
私立学校へ転校させた。彼らは公立学校より10倍高い学費を出さなければならない。あまりの理不尽さに保護者たちは
怒って市役所前で抗議し、警察と衝突した。
耒陽市の例は中国の地方財政危機の氷山の一角にすぎない。地方政府の深刻な過剰債務は誰もが知っている
公然の秘密だ。「中国の地方債務は40億元(653億円)前後。ただし、どの地方政府も債務返済をしたがらず、
しかも利子返済ができる能力さえ持っていない」と、中国の専門家は語った。
「600 億ドルってどれくらいか分かる? チベット、青海、新疆、甘粛の4つの省・自治区の一般財政収入の
合計より多く、黒龍江、吉林、遼寧の3省の財政収入の合計の80%より多く、湖南省の1年間の一般財政収入額と
ほぼ同じだ!」。(アフリカへの経済援助の)600億ドルの「明細」について書かれた記事もSNSでたくさん
シェアされたが、すぐに削除された。
財政危機で地方の子供たちがきちんと義務教育を受けられず、農村地域では今でもぼろぼろの教室で授業が
行われている。それなのに、なぜ政府はこれを無視して、アフリカにそんな大金を送るのか。「人民のためではなく、
共産党の政権を固めるためだ。この巨額の経済援助によって、中国政府とアフリカの連携も強まり、国際社会における
存在感と発言権も大きくなる」と、中国の自由派学者はこっそり教えてくれた。
【ポイント】
<六百亿美元、中非共同体、大国心态>
それぞれ「600億米ドル、中国アフリカ共同体、大国メンタリティー」
<中国の地方債務問題>
08年のリーマン・ショック後、中国政府は景気テコ入れのため貸し出しを大幅増加。地方政府はその資金で
不動産投資を進めたが、膨らんだ債務が負担になっている
<Newsweek 2018年9月25日号掲載>