世界の河川脅かす医薬品廃棄物、国際研究
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【4月11日 AFP】世界各地の水系には、市販薬や処方薬に起因する環境に有害な医薬品廃棄物が流入しているとの調査結果が10日、
発表された。
オーストリア・ウィーン(Vienna)で開催の欧州地球科学連合(EGU)年次総会で調査結果を発表した国際研究チームによると、
現在の傾向が続けば、河川に浸出している医薬品流出物の量は今世紀半ばまでに70%近く増える恐れがあるという。
研究チームは今回、医薬品汚染の「ホットスポット」を追跡調査する手法を開発した。チームを率いたオランダ・デルフト
水教育研究所(Delft Institute for Water Education)研究員のフランチェスコ・ブレゴリ(Francesco Bregoli)氏は、
「陸水生態系の大部分は高濃度の薬剤によって脅かされている恐れがある」と指摘する。
鎮痛薬、抗生物質、抗血小板薬、ホルモン剤、抗精神病薬、抗ヒスタミン剤など、環境内に存在する多数の薬剤が自然界において、
野生生物に危険が及ぶ濃度で検出されている。例えば、外因性内分泌かく乱物質(通称、環境ホルモン)は、魚類や両生類の
性転換を引き起こすことが知られている。
ブレゴリ氏と研究チームは、陸水生態系全域での薬剤の存在量と拡散率を推定するために、広く利用されている消炎剤の
ジクロフェナクを代表例として選んだ。欧州連合(EU)と米環境保護局(EPA)はともにジクロフェナクを環境への脅威と
認定している。インド亜大陸に生息するハゲワシの一種は、ジクロフェナクの家畜への使用によって絶滅の危機に追い込まれた。
今回の研究では、世界の1万キロ以上に及ぶ河川で、EUの「監視項目リスト」に記載されている上限値の1リットル当たり
100ナノグラムを上回る濃度のジクロフェナクが存在することが明らかになった。
同総会で研究結果を発表したブレゴリ氏は「ジクロフェナクの環境への排出量は、その他数千種類の医薬品および
パーソナルケア製品と同程度」であることを指摘する。
ジクロフェナクの世界消費量は年間2400トンを超える。うち数百トンが人のし尿中に残存し、処理施設のフィルターで
除去されるのはそのうちの約7%とごく一部にすぎない。そして全体の20%が自然生態系に吸収され、残りは海に流れ込む。
■中南米、アフリカ、アジアなどで高汚染レベルか
ブレゴリ氏と研究チームは、人口密度、下水施設、医薬品販売量などの基準に基づき、現在と未来における医薬品汚染の水準を
予測するためのコンピューターモデルを開発した。
汚染の水準については、中南米、アフリカ、アジアなどの大半で相当に高いレベルにあることが考えられる。これらの地域では、
処理を施される汚水の割合は平均で全体の4分の1に満たず、処理される場合でも、用いられるフィルター技術では大半の薬剤を
除去できない。
だが、ブレゴリ氏は、技術だけで問題が解決するわけではないとしながら、「薬剤の消費量を大幅に削減する必要がある」と
AFPの取材に語った。同氏は今回の結果をまとめた論文を発表する準備を進めている。
2017年12月、国連環境計画(UNEP)は調査報告書を発表し、抗生物質や化学物質の廃棄物が薬剤耐性菌の進化を後押ししている
ことを警告した。
報告書では、人と家畜が消費する抗生物質全体の70~80%、合計で数千トンが自然環境に流出すると指摘している。