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韓国政府が迫られる選択―防御か繁栄か 中国との貿易か米国の安全保障か、アジア諸国が望まない究極の対立

2017-02-23 15:29:46 | 韓国

韓国政府が迫られる選択―防御か繁栄か

中国との貿易か米国の安全保障か、アジア諸国が望まない究極の対立

2017 年 2 月 22 日 11:52 JST  THE WALL STREET JOURNAL

韓国国防省の前で行われた「THAAD」配備に対する反対運動(3日、ソウル)

筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト

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 【星州郡(韓国)】松の木に覆われた山間にある当地のゴルフ場が、ドナルド・トランプ米政権の幕開けに米中のライバル関係の舞台となっているのは大きな皮肉だ。


 もっと皮肉なのは、トランプ氏が大統領に就任して数週間で、すでに中国政府に重大な得点を与えてしまったことだろうか。


 韓国は米政府との合意に基づき配備する米国製の地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(サード)」の設置場所にこのゴルフ場を選んだ。配備の狙いは北朝鮮による核の脅威に対抗することだ。しかし、中国は同システムのレーダーが自国の核装備の動向を探ることを恐れ、配備を中止するよう韓国に圧力をかけている。


 中国当局は制裁措置を正式に発表せず、韓国の動きに実力行使のレッテルを貼ることもないまま、韓国製化粧品の輸入阻止、訪韓観光客の縮小、韓国人歌手の拒否などを行い、件のゴルフ場のオーナーであるロッテグループの中国事業にも嫌がらせをしている。


 こうした措置は比較的穏やかな内容ではあるが、中国が輸出主導型の韓国経済をかく乱する力を、韓国にあらためて思い知らせる。韓国政府は米国との極めて重要な防衛協力と急成長中の対中貿易関係の板挟みになっているのだ。延世大学(ソウル)の中国専門家ジョン・デルリー氏は「韓国にとっては悪夢だ」と話す。


 他のアジアの米同盟国も警戒している。どの国も米国に安全保障を頼っているが、対中輸出が成長に及ぼす影響は高まっている。現在の韓国のように「米国か中国か」「防御か繁栄か」という二者択一を強いられることはいずれの国も避けたい。


 韓国の輸出は25%が中国向けだ。オーストラリアは輸出の3分の1を中国に頼る。台湾経済は、中国の巨大なハイテク電化製品市場がなければ停滞するだろう。そのためアジア諸国は中国の政治的圧力にかなり影響されやすい。


 さらに、中国経済は減速しているものの、米国に比べれば4倍のペースで拡大している。中国が経済的支配力を通じて韓国を従わせれば、新たに予測不可能な状況に置かれたこの地域に恐ろしいメッセージを送ることになる。北朝鮮が近隣国、さらには米国の西海岸に到達する核弾道ミサイルを持つ日は近い。


 こうした不安定な時期にトランプ氏が米大統領に就任したことから、アジア太平洋地域の政府では自国が米中の間でどうバランスを取るかについての議論が高まっている。不安を抱えるアジアの同盟国にとって、トランプ氏が繰り返す「米国第一」主義は同国が国際社会から後退することを示唆している。トランプ氏のタカ派の側近は中国政府と事を構えたいようだが。


 そうした懸念は、トランプ氏が電話で中国の習近平国家主席と友好的な会話をし、フロリダ州で日本の安倍晋三首相を相手に「ゴルフ外交」を展開したことで幾分和らいだが、疑いは完全には晴れていない。


 米国の盟友や同盟国は、トランプ氏が環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を決めたことに失望している。別の貿易協定を提唱している中国に、アジアでの経済的影響力でまた一歩譲ることになるためだ。昨年、シンガポールのリー・シェンロン首相はジョン・マケイン米上院議員に対し、米国がTPPを離脱すれば「(米国は)アジアでは終わりだ」と述べた。


 一方、米国の重要な同盟国である韓国では、THAADに対する世論の反対で米韓関係の亀裂がいくつか露呈した。


 ロッテのゴルフ場に通じる急な坂道には「THAADは失せろ」「THAADは米国に送れ」といった垂れ幕が並ぶ。反対運動にはさまざまな左派に加えて、フェアウェイのすぐ横にある寺院やTHAADの電磁波が健康に及ぼす影響を懸念する環境団体などが結集している。


 外から見れば意外かもしれないが、反対派は北朝鮮が最終手段に出ることよりも、米中の対立で板挟みになることのほうがはるかに心配だ。反対運動のリーダーは「衝突があるだろう。それは避けられない。そして韓国があらゆる打撃を受ける」と述べた。


 このリーダーはトランプ氏について、「ラグビーボールのように」予想不可能で、「どの方向にバウンドするかわからない」と述べた。


 こうした感情は多くの人が抱いており、野党の政治家に影響を与えている。ソウルを拠点とするシンクタンクの峨山政策研究院が最近行った調査では、THAADに対する世論は賛否半々に分かれている。THAAD配備に合意したのは朴槿恵(パク・クネ)政権だが、朴氏は弾劾審理の対象となっており、次期大統領選で有力候補の文在寅(ムン・ジェイン)氏は配備に関する決定の先送りを望んでいる。


 アジアにとってさらに大きな疑問は、トランプ政権下の米国が信頼できる安定したパートナーであり続けるかとうかだ。中国が裏庭を取り戻したかのような「朝貢制度」を復活させ、韓国とベトナムが中国に従属し、少し離れた国々が中国中心主義の秩序に組み込まれるような状況を望む国はない。


 アジアは米中の2大経済大国が対立することも望んでいない。文氏は最近、記者団に対し、「われわれにとっては米中がうまくやっていくのが最高のシナリオだ」と述べた。


 2つの大国に挟まれた韓国とその他の米同盟国が現在抱えているジレンマは、トランプ氏が生んだわけではない。だが同氏のために、こうした国々は一段と厳しい選択を迫られている。