日本に勝てば兵役免除、韓国サッカースター選手
【ソウル】韓国のサッカーのスター選手である孫興民(ソン・フンミン)にとって、9月1日に行われるアジア大会
での日本との決勝戦は、国家のプライドよりはるかに大きなものを懸けた戦いだ。
もし韓国が敗れれば、イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーのフォワードである
ソン選手(26)は、スパイクシューズをしまって、銃の扱いに慣れなければならない。つまり、韓国軍でのほぼ
2年間に及ぶ兵役義務を果たすことを求められるのだ。
しかし、韓国が勝てば、ソン選手は金メダルと宿敵を打ち負かした満足感だけでなく、兵役義務の大半の免除をも
手にして、アスリートとしての絶頂期を謳歌(おうか)することができる。
韓国では、健康な男子は30歳前に21カ月間兵役を務めることが、法律で定められている。
厳密に言えば依然として北朝鮮と戦争状態にある韓国では、何十年も前から続くこの規定は、極めて神聖なものと
受け止められている。ソン選手は海外在住なので、兵役を27歳以降に先送りすることはできない。
しかしこの法律は、国際舞台でトップの成績を収めた選手に対して、こうした義務の軽減を認めている。
サッカー選手に関しては、オリンピックでの金銀銅いずれかのメダル、アジア大会での金メダルを獲得することが、
兵役免除の条件となる。
もし1日のジャカルタでの対戦で韓国が日本を破れば、ソン選手の奉仕義務は、1カ月間の基本的軍事訓練と、3
4カ月で544時間の社会奉仕活動だけで済むことになる。これは、ほぼ2年間を軍事基地で過ごすことに比べれば、
はるかに容易なことだろう。
トッテナムの事情に詳しい関係者によれば、同チームは、兵役義務軽減の可能性を念頭に喜んでソン選手に
アジア大会でプレーする機会を与えたという。
韓国国内外のサッカーファンは、ソン選手の徴兵条件の行方を、固唾(かたず)をのんで見守っている。
韓国大統領府のホームページには、この件で国民から800件を超える請願が寄せられている。その大半は、
兵役免除を求めるものであり、ソン選手の代わりに兵役義務を果たしたいとの申し出も何件かあった。
「ソン・フンミン選手の代わりに、私が4年間兵役を務める」という請願もあった。
韓国では、兵役が厄介な問題になっている。これまでに多数の芸能人、スポーツ選手および政治家が、兵役逃れを
試みたとされる行動を受けて、面目を失っている。
2012年に「江南スタイル」を大ヒットさせたことで知られる歌手のPsy(サイ)氏は、服務期間中にコンサートを
行ったことが判明して批判を浴びた(その後、2度目の兵役を全うすることで名誉を回復した)。
イングランド・プレミアリーグのアーセナルの元ストライカー、朴主永(パク・チュヨン)氏は12年、
抜け穴を使って兵役を10年間遅らせようとしたことが判明し、韓国代表チームから外されたも同然になった。
その後、最終的に代表入りし、同年のロンドン五輪でチームの銅メダル獲得に貢献したため、兵役を免除された。
折しも、韓国では、徴兵制度を見つめ直す機運が高まっている。韓国国防省は先月、兵役期間を10月以降、
最短18カ月に短縮することを明らかにした。これは、軍の規模を縮小しながらも戦闘力を強化する取り組みの一環だ。
アジア大会のサッカー準決勝で韓国がベトナムを下した翌日の30日には、最高裁判所が良心的兵役拒否の正当性に
関する公聴会を開いた。良心的兵役拒否とは、宗教やその他の個人の信条を理由に兵役義務の遂行を拒否することだ。
人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナルによると、韓国で良心的兵役拒否を理由に収監されている人の数は、
外国で同じ理由で収監されている人の合計数を上回っている。
ソン選手は、12年と14年にスポーツ選手として兵役免除の資格を得るチャンスを逃している。韓国代表に
選出されなかったからだ。
29日のアジア大会準決勝では、ベトナムチームの勝利を願うベトナムのファンが、ソン選手の軍服姿の合成写真を
掲げていた。そこには「ソン・フンミン、韓国軍に入隊」と書かれていた。試合は韓国が3-1で勝利した。
ソン選手は、兵役の話題について、固く口を閉ざしている。だが、今年のワールドカップ(W杯)の際には、
試合への意気込みについて、「戦争に行くような気持ちだ」と語っていた。