ペットボトル飲料水に迫る危機、代替容器を探せ
使い捨てプラスチックに対する消費者の反発を受け、各企業は代替容器探しに奔走している
2018 年 12 月 14 日 16:11 JST THE WALL STREET JOURNAL
【エビアン・レ・バン(フランス)】炭酸飲料を抜いて米国で最も消費量が多い飲み物となった
プラスチックボトル入りの飲料水が今、危機に直面している。
使い捨てプラスチックに対する消費者の反発や政府の新規制、動物園やデパートなどでの販売禁止を
受けて、ペットボトル入り飲料水の主要メーカーが代替容器探しに奔走している。
エビアンは今年、2025年までに全てのペットボトルを再生プラスチック製にすると発表した。
現在は再生プラスチック製ボトルの割合は3割で、業界の中でも相当思い切った目標だ。
親会社ダノンの幹部は再生プラスチックへの切り替えで市場シェアを回復し、ストローなどのメーカーを
圧迫する反プラスチック派の支持を得たい考えだ。
しかし、大きな問題がある。業界は長年、より優れたボトルの開発に何度も取り組んでいるが、
いずれも失敗に終わっているのだ。現在のリサイクル技術で新しい飲料水用のボトルを作るには、
汚れのない透明なプラスチックが必要だ。しかし飲料水メーカーによると、ボトルのリサイクル率が低く、
インフラも整備されていないため、再生プラスチック製ボトルの供給は制限されている。
こうしたなか、ダノンはある新技術に大きな期待を寄せている。汚れたカーペットや内容物の付着した
ケチャップ容器などから取り出した古いプラスチックを飲料水用のボトルに適したプラスチックに
変えるというものだ。
ダノンで持続可能性に関する問題を担当するイゴール・ショベロ氏は「消費者が包装容器をめぐる現状を
真剣に心配している」と話す。「これは懸念材料であると同時にチャンスでもある」
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水道水の安全性をめぐる不安や甘い飲料を避ける動きから、ボトル入り飲料水の売上高は過去数十年、
大きく伸び続けている。コンサルティング会社ビバレッジ・マーケティングによると、2017年の米国の
ボトル入り飲料水の年間消費量は1人当たり約160リットルで、1994年の約3.8倍だった。
この急成長を可能にしたのが使い捨てボトルだ。米国で販売される飲料水のうち使い捨てボトルは
67%を占める。2000年代初めまでは家庭やオフィスの冷水器で使用される飲料水は主に大型の容器で
販売されていた。
最近では、消費者がペットボトルがごみ埋め立て地にあふれたり、海洋生物を脅かしたりしている様子を
写真を通じて知り、プラスチック製品に否定的な反応を示している。
非営利の環境保護団体「オーシャン・コンサーバンシー」によると、プラスチック製の飲料用ボトルは
海岸に打ち上げられるものの中で、たばこの吸い殻と食品の包装材に次いで3番目に多い。
調査会社ユーロモニターによると、ボトル入り飲料水の販売高は今年、米国でも世界のその他の地域でも
減少するとみられる。ネスレは10月、今年1月から9月までのボトル入り飲料水の累計販売高が
0.2%減だったと発表した。前年同期は2.1%増だった。
欧米ではオフィスやデパート、動物園などの公共の場でのボトル入り飲料水の販売が一部で中止された。
マサチューセッツ州の町は次々と小型ボトルの販売を禁止。ニューヨーク市では市の公園やゴルフコース、
海岸での使い捨てプラスチックボトルの販売を禁止する法案が提案された。
欧州議会は10月、2025年までにプラスチック製ボトルの90%の回収・リサイクルを加盟国に義務付ける
法案を可決した。ロンドンやベルリンなどの都市は小売店やカフェに水筒に無料で給水していることを
知らせるステッカーを貼り出すように求めている。インドのムンバイは今年、小型ボトルでの水の販売を
禁止した。
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企業も対応策を模索している。ペプシコは8月、水道水から炭酸水を作る小型機器のメーカー
、ソーダストリームを32億ドルで買収することで合意。ボトル入り飲料以外への事業拡大への貢献に
期待を示した。
またフレーバー・カプセル付きで再利用可能なボトルも発売したほか、さまざまなフレーバーの
「アクアフィーナ」ブランドの水が出てくる給水機を米国内でテスト運用している。
しかし、企業は安くて丈夫で軽いプラスチックの完全な一掃を目指しているわけではない。ネスレの
元幹部によると、社内の研究で消費者が箱入りの飲料水を受け入れる可能性は低いことが分かったという。
一方、ガラス製のボトルは壊れやすい上、重量があるため輸送コストがかさむ。
「包装容器のない世界を夢見たくなるものだ」。コカ・コーラのジェームズ・クインシー最高経営責任者
(CEO)は今年、こうブログに書いた。「最新の容器のおかげで食品の破損や廃棄が減り、病気のまん延が
抑えられている」
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ボトル入り飲料水業界の課題は、食品包装材としてのプラスチックの規制基準を満たすリサイクル製品を
見つけることだった。業界がこれまで頼っていたリサイクルの手法は廃棄プラスチックを洗浄、
裁断、溶解し、樹脂を作るというもの。ただ、再生樹脂はもともとの構造特性の一部が失われ、
リサイクルされるたびに変色するため、ボトル入り飲料水メーカーにとっては魅力に欠ける。
エビアンの包装担当マネージャーだった2016年、セドリック・デバー氏はさまざまな廃棄プラスチックを
きれいな高品質の素材に変えるという新しい技術があることを知った。
デバー氏は「(技術は)魔法のように思えた」が、「話がうますぎて本当ではない」のではないかとも思った。
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カナダ・モントリオールの新興企業、ループ・インダストリーズはプラスチックを元の材料に分解する
技術を開発していた。この技術は熱も圧力も使わないため、汚染物質はプラスチックに溶込まず、
ろ過して取り除くことが可能だった。同社のダニエル・ソロミタCEOはチョコレートケーキを元の材料である
砂糖、小麦粉、チョコレート、たまご、バターに分解して新しいケーキをつくるようなものだと説明する。
デバー氏とダノンの幹部社員はループの試験工場でこの技術を試験した。処理されたプラスチックが
持ち込んだものと同じものであることを確認するため、ひそかに追跡装置を取り付けた廃棄プラスチックを
持ち込んだ。
試験はカーペットの繊維や色付きのプラスチックなどさまざまな種類の廃棄プラスチックを使い、
繰り返し行われた。ダノン・ウォーターズの包装関連の研究開発責任者、フレデリック・ジュアン氏は
「われわれが使えない素材も提供してループの技術がどこまでできるか試した」と話す。
試験で再生したサンプルをフランスでボトルに加工して検査したところ、ダノンの品質基準に達した。
ループは今後、技術の規模拡大に取り組む必要があり、生産工場の準備が整うのは2020年以降になると述べた。