台湾情勢は「日本に直結」、中台の軍事バランス変化に懸念-岸防衛相
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中国の軍事動向に強い懸念、台湾問題は当事者間対話で平和的解決を
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自ら守る体制を抜本的に強化、GDP1%枠こだわらず予算を確保
岸信夫防衛相は、台湾の平和と安定は「日本に直結している」との認識を示した。台湾への圧力強化を
含め、急速に活動を拡大させている中国の軍事動向は、日本を含む国際社会の安全保障上の強い懸念だと
訴えた。
岸氏は24日のブルームバーグとのインタビューで、中国と台湾との軍事バランスが「中国側に有利な
方向に変化しており、その差が年々拡大する方向にある」と指摘。台湾問題は「当事者間の平和的な対話
によって解決されることを期待している」とした上で、両者の関係の推移を注視すると語った。
岸信夫防衛相(24日・都内)
台湾を巡っては、4月の日米首脳会談の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を確認し、
中国をけん制。13日に閉幕した主要7カ国首脳会議(G7サミット)の共同宣言でも、初めて言及した。
直後の15日には中国軍機28機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入し、1日当たりとしては今年最多と
なった。
台湾周辺で不測の事態が発生すれば、日本への影響は避けられない。台湾から日本最西端の与那国島
までの距離は約110キロ、日本と中国が対峙(たいじ)する尖閣諸島までは約170キロの距離だ。台湾と
フィリピンの間にあるバシー海峡は、日本にとって重要なシーレーン(海上交通路)でもある。
岸氏は、有事の際の日本の対応に関しては「仮定の問題としてコメントすることは控えたい」と
述べるにとどめた。日米間では「平素からさまざまな課題について常に意見交換を行っている」として、
台湾情勢についても「しっかり適切な対応ができると考えている」と説明した。
主要国防衛費
日米共同声明では、同盟強化のため日本が「自らの防衛力を強化する」方針も盛り込まれた。
岸氏は「自らを守り抜くという体制を主体的、自主的な努力によって抜本的に強化していかないと
いけない」と強調。防衛予算について、国内総生産(GDP)比で1%の枠にはこだわらず、「必要な
経費をしっかり確保していく」との方針を示した。
日本の防衛予算は5兆円強で、2013年以降は9年連続で増加しているものの、GDP比では約1%に
とどまる。軍拡を続ける中国の国防費は21年度が1兆3500億元(約23兆円)で日本の約4倍。防衛省の
ウェブサイトによると、購買力平価を用いたドル換算の比較では19年度は約7倍に達している。
19年度の各国の国防費の対GDP比は米国が3.05%。英国、オーストラリア、フランスは2%弱。
近年、予算を大きく伸ばしている韓国は2.44%に達している。
岸氏は、住友商事を経て2004年の参院選で初当選。12年に衆院にくら替えした。外務副大臣や衆院
安全保障委員長を歴任し、20年に発足した菅義偉内閣で初入閣した。台湾と近いことでも知られ、
閣僚就任前の同年8月には森喜朗元首相らと李登輝元総統の弔問で訪台している。祖父は岸信介元首相で、
安倍晋三前首相の実弟。
防衛費、GDP1%の上限は考えていない-岸防衛相一問一答
-防衛力強化と対国内総生産(GDP)1%枠について
「わが国を取り巻く安全保障環境は現在、厳しさ、不確実性が増している。自らを守り抜くという体制を
主体的、自主的な努力によって抜本的に強化していかないといけない」
「GDPと機械的に結び付けるようなことは適切ではない。2022年度も自衛隊の活用や防衛力整備を着実
に推進していくという観点から、必要な経費をしっかり確保していく。1987年度以降、GDPの1%と
いうようなキャップ(上限)を考えているわけではない」
-在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)について
「在日米軍駐留経費は、在日米軍の円滑かつ効果的な活動を確保するために重要な役割を果たしている。
政府として一層厳しさを増す安全保障環境の中で、わが国の厳しい財政状況を踏まえながら適切に対応
していきたい」
-中国の軍事動向と尖閣諸島周辺での活動について
「海警局の船舶が尖閣諸島周辺の領海に侵入を繰り返している。現状変更の試みは断じて許されるもの
ではない。太平洋や日本海においても軍事活動を活発化、拡大化させている。今後ともその傾向が継続
していくと考えている」
「海警法はあいまいな適用海域、武器使用権限、国際法との整合性との観点から問題がある規定を含んで
いる。わが国を含む関係国の正当な権益が失われるような、害されるようなことがあってはならない」
「急速な作戦遂行能力の強化や活動の拡大化が、国防政策や軍事力に関する不透明性ともあいまって
わが国を含む地域や国際社会の安全保障上の強い懸念となっている。今後とも強い関心を持って、注視
したい」
-台湾について
「台湾を巡る問題は当事者間の平和的な対話によって解決されることを期待している。日米は台湾海峡の
平和と安定が重要であるということで一致しており、引き続き推移を注視する」
「台湾は日本の最西端の島である与那国島からは110キロしかない。大変近いところにある島だ。台湾に
おける平和と安定というものが日本に直結をしていると考えている。そうした観点から中台関係、中国の
軍事活動についてわれわれも注視している」
-台湾有事を想定した日米共同訓練、ガイドライン見直しについて
「仮定の問題にコメントすることは控えたい。日米の間では平素からさまざまな課題について常に意見
交換を行っており、しっかり適切な対応ができると考えている」
「今の時点でガイドラインの改正について私からコメントすることは差し控える」
-イージスシステム搭載艦について
「既存のイージス艦と組み合わせて運用することにより、情勢に応じて常時、持続的なわが国全域を
防護し得る体制を構築することは可能だ。昨年12月の閣議決定に従って必要な措置を講じたい」
-日米豪印の連携枠組み「クアッド」について
「4カ国はルールに基づく自由で開かれた国際秩序を強化していくという目標を共有している。防衛当局
間で緊密に連携していくことは極めて重要だ。具体的な取り組みをさらに進めたい」
「クアッドの取り組みは特定の国を対象としたものではない」
-防衛装備品の輸出がうまく進んでいない状況について
「まだ十分な体制が整っていなかったところもある。効果的に進めていくために、相手国の状況をしっかり
踏まえつつ官民が協力して情報の収集や発信を行っていかなければいけない。案件形成をよりきめ細かく
行うことが重要だ。さまざまな取り組みを通じて防衛装備品・技術移転の協力を推進していく」
-英空母の日本寄港
「本当に画期的なことであり、大変歓迎している。英国とのさまざまな防衛協力をさらに進めていくいい
機会にしていきたい。欧州諸国がインド太平洋に関心を持っていただく、プレゼンスを発揮していただく、
このことは地域の平和と安定につながるものだ」