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中国は「感染症のゆりかご」 日本に求められる長期的戦略 

2020-04-29 10:01:41 | 医療・疾病・疫病・パンデミック・新型コロナウイルス

中国は「感染症のゆりかご」 日本に求められる長期的戦略。飯島渉・青学大教授に聞く

2020.4.28    産経新聞

飯島渉・青山学院大学教授(日本記者クラブ提供)

 

 新型コロナウイルスの世界的流行を受け、19世紀末の中国で起きたペストの流行や

対策などを紹介した「感染症の中国史」(中公新書)が平成21年の発行から約10年を

経て重版になるなど注目されている。今回の新型ウイルスもまた、中国・武漢で最初に

流行し、世界中に広がった。著者の飯島渉・青山学院大教授に、感染症の歴史からみた

今回の課題や教訓、今後の見通しについて聞いた。

 

日本がお手本

 「感染症の中国史」によると、ペストは19世紀末、地域開発や貿易の拡大により

中国から世界に拡大。日本でも横浜や神戸などの港町を中心に患者が出て、

「この病気に恐怖を覚える人は多く、心理的にも大きな影響を与えた」(飯島教授)

という。

 

 当時の中国当局が対策をとるなかでモデルにしたのが、日本の公衆衛生制度だ。

船舶や汽車の検疫、患者の隔離や戸別調査などの日本の制度が中国に取り入れられ、

医学校の設立なども進んだ。「日本の公衆衛生は進んでおり、多くの人が日本に留学

するなど人的交流も盛んで、中国にとって日本の制度は参照しやすかった」と飯島教授は

語る。日本の制度は当時統治下にあった台湾、朝鮮半島にも取り入れられた。

 

 中国の公衆衛生制度はさまざまな変遷を経て、現在では日本の影響はほぼなくなって

いる。ただ、日本を経由して西洋医学を取り入れたため、「細菌」「内科」「外科」

などの医学用語に今も日本の影響が残っているという。

 

 一方で、「公衆衛生」の問題は差別や人権といった問題と隣り合わせだ。今回の

新型コロナウイルスをめぐっても「武漢肺炎」などの呼び方が差別的だと物議を醸した。

感染が拡大した米ニューヨークでは、貧しい地域で患者数が増えるなど貧富の差が流行に

影響したと指摘されている。

 

感染症の震源地

 今回の新型コロナウイルスの流行は中国から始まったが、19世紀末のペストと

重ね合わせて中国から新興感染症が生まれやすいと考えるのは短絡的だという。

「経済発展して工業化、都市化が進む中で、21世紀の中国が感染症のゆりかごと

なりやすくなったということ」(飯島教授)。19世紀にはインドからコレラが世界に

広がったり、20世紀には日本から結核が東アジアに拡散したりと、「その時代に

アクティブな地域が感染症の震源地になることはよくある」。

 

 だからこそ、「長い目で見る」ことが今後の戦略を立てる上で大切となる。

例えば今後、経済発展が見込まれる地域として挙げられるアフリカは、野生動物との

近さもあり新興感染症が起きる可能性が大きい。長期的な視野で、将来の流行に備えた

準備をしておくことが大事だ。

 

 「感染症が流行すると、国際協調と一国主義のはざまで対立が起きがちだ」と

飯島教授は指摘する。しかし、「自分の健康を守るには世界が健康でないといけない」

というグローバルヘルスの考え方で対策を考えることが「長い目で見れば低コスト

となる」。国境を持たない感染症に一国で対応するのではなく、国際的な協調姿勢を

求める。

 

後世の記録に

 最後に、飯島教授が歴史家の立場から望むことがある。それは、クルーズ船

「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で感染が拡大したときの日本の対応などの記録を

残すことだ。「乗客や乗員、支援にあたった医療者らに聞き取りをして、あのとき何が

起きたか、何を感じたかを聞き、それを記録に残すべきだ」と訴える。

 

 将来、新型コロナウイルスの世界的流行を振り返ったとき、日本政府があのときに

どのような対応をしたか、船内では何が起きていたかなどを振り返るにはそうした

「記録」が役に立つ。「同時代に生きる者として、これらの記録を残すことが、

後世に知恵として生きると言いたい」として、飯島教授も、事態が落ち着いてきたら

医療従事者らから聞き取りを行う考えだ。

 

 いいじま・わたる 昭和35年、埼玉県生まれ。平成4年、東京大学大学院博士課程単位取得退学後、12年に文学博士。横浜国立大経済学部教授を経て、16年から青山学院大文学部教授を務める。著書に「感染症の中国史」のほか、「感染症と私たちの歴史・これから」(清水書院)など

 


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