一触即発状態にある「バルカン半島」の危うさ
紛争を阻止するにはどうしたらいいか
欧州連合(EU)首脳が突如、バルカン半島の新たな現実に目覚めた。3月のEU首脳会議で、同地域の安定に向け一段
の政治的関与が必要だと強調したのだ。これは、影響力を拡大しつつあるロシアに対抗するためでもある。だが、バル
カン半島の地政学リスクに驚いてはいけない。そもそも、約1世紀前にオスマン帝国が崩壊してから、複雑な民族、文化
状況を抱えた同地域は繰り返し紛争の火種となってきた。
ユーゴスラビアはそうした政治的矛盾に対処すべく創り出された国家的枠組みだったが、その歴史を彩ったのは絶え間
ない戦乱だった。同国は1990年初頭に崩壊、クロアチアからコソボへと至る紛争の10年へと突入する。憎しみに満ち
た7つの国境に安定をもたらすには、新たな枠組みが必要となり、その役割を担うことになったのがEUである。
排外主義の勢い取り戻したバルカン半島
2003年にギリシャのテッサロニキで開かれたEU首脳会議において、旧ユーゴに当たる西バルカン諸国をEUに取り込
むことが約束された。重要な公約ではあるが、実現も難しかった。バルカン情勢が一応の落ち着きを見せると、EU首脳
はそれで和平が達成されたと見なし、以来、EUのバルカン政策は「現状維持」に据え置かれた。
ジャン・クロード・ユンケル氏は2014年に欧州委員会委員長に任命されると現状維持を確認、5年間に及ぶ自身の任期
中にEU加盟国を増やすつもりはないと断言した。だが、政治的にはこのようなことを口にすべきではなかった。改革と統
合を導く希望の光が途絶え、バルカン半島では予想どおり排外主義が勢いを取り戻した。その間、EUは身内の債務問
題に掛かりっきりだった。
私はボスニア紛争後にバルカン諸国で長く時間を過ごした。旧ユーゴへのEU特使、ボスニア紛争を終結させたデイトン
和平会議の共同議長、ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表、そしてバルカン諸国における国連事務総長特別代表として
だ。
昨年、私的にボスニアを再訪したときのことだ。現地の方から「また戦争になりますか」との質問を受けた。「まさか」と、
最初は受け流していたが、5回も別の人から同じことを聞かれて、不安になってきた。
当時とは状況が違うから、1990年代のような紛争が再び起きることはないだろう。だが、歴史が教えるように、個人の
愚行によって火の手が上がり、手がつけられなくなることがある。かつてサラエボでは、ガヴリロ・プリンツィプという1人
の青年がオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺し、第1次世界大戦の引き
金を引いた。
今日のバルカン半島は一触即発の状態に近づいており、新たに火花が散れば、炎が燃え上がりかねない。ひょっとする
と、今度はマケドニアの首都スコピエが発火点となるかもしれない。
紛争を防ぐために欧州がすべきこと
では、どうすべきか。欧州にできることは、ただ1つ、欧州統合のプロセスを加速しつつ、紛争を阻止する力があることを
見せつけることだ。バルカン半島に欧州連合戦闘群を配置し軍事演習を行うことで、EUには行動する意志と手段があ
ることを示さねばならない。これによって、EUの軍事力が口先だけの張り子の虎ではないという強力なメッセージを送る
ことができるだろう。
EUのさらなる拡大も不可欠だ。バルカン地区のうちEU加盟国となっているのはスロベニアとクロアチアのみで、残りが
欧州に加入するまでには当然、時間がかかる。だが、これらの国が加盟条件を満たせるように改革を加速することはで
きる。
たとえば、アルメニア、アゼルバイジャンなどとの連合協定・東方パートナーシップにならい、バルカン半島パートナーシップを創出すべきだ。同地域への政治的関与も強める必要がある。今も続いている小規模な国境紛争を仲裁し、情勢悪化を防ぐことが、その出発点となろう。
バルカン半島はユーゴスラビア紛争、コソボ紛争など紛争が多い半島のイメージがあります。ルーマニアの革命では
チャウシェスク大統領とその夫人が公開処刑されたのが衝撃でした。
日本と離れているせいか漠然としか判ってない地域でした。でもものすごく悲惨な歴史のある半島で日本とも無縁ではないのです。
バルカン半島について倉山満氏が講義してくれてます。10回くらいのシリーズだったと思います。
みんなで学ぼう!バルカン半島 season1 第1回「小村寿太郎が見たバルカン半島」倉山満 古谷経衡
倉山氏はくせが強いので好き嫌いがはっきりわかれますが、バルカン半島を知るには良書と思います。