ソフトバンクの投資、ウィーワーク以外でも頓挫
1000億ドル(約10兆8600億円)規模のソフトバンク「ビジョン・ファンド」は、犬の散歩代行
アプリのワグ(Wag)や屋内農業のプレンティ(Plenty)といった企業に対し、求められた額を
上回る資金を投入した。しかし、こうした投資は成長に火を付けるには至らなかった。オンラインの
自動車リース会社フェア(Fair)は、巨額の投資を受け入れた後、経営維持に四苦八苦している。
ワグの状況に詳しい関係者によれば、同社は身売りに動いている。
中国の配車アプリ滴滴出行(ディディチューシン)や韓国の電子商取引企業クーパン(Coupang)の
事業分野は、現金燃焼率が高く、利益確保の道筋が不確かだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先に、ビジョン・ファンドが118億ドルを投じた
ディディが今夏に追加資金を求めたことを報じた。同社のある幹部はこれに先立ち、配車すればするほど
損失が出ると語っていた。ビジョン・ファンドが27億ドルを投じたクーパンは昨年、収入の伸び以上の
ペースで営業損失が拡大していることを明らかにした。
ウィーワークの新規株式公開(IPO)の棚上げにより、ソフトバンクは既にウィーワークに投じていた
90億ドルの消失を回避するため、さらに95億ドルの救済資金を投じざるを得なくなった。
この出来事は、これまで大きな成功を収めていたソフトバンクの投資戦略への注目度を高めることにも
なった。
ソフトバンクが6日発表する決算は、内容が詳細に分析されることになりそうだ。アナリストらは、
ソフトバンクとビジョン・ファンドが、多くの投資案件の評価損により数十億ドルの損失を計上せざるを
得ないと予想している。ソフトバンクがビジョン・ファンド第2弾の資金調達に動いていることも
あって、投資家は特にファンドの業績に強い関心を示している。
ソフトバンクの広報担当者は「すべてのファンドは成長の段階が異なるさまざまな投資対象を
抱えている」と説明。「ビジョン・ファンドは発足後わずか2年しか経ておらず、88社から成る多様な
ポートフォリオが長期的に力強い収益を生み出すことに自信を持っている」と語った。ファンドの状況に
詳しい関係者は、投資先の多くがその価値を何倍にも高めていることを強調した。
ソフトバンクの利益の一部は、投資先企業に対し、当初より高い評価額に基づいて追加投資を行うことで
生み出されてきた。その最も顕著な例の1つは、ソフトバンクとビジョン・ファンドが2015年から
主導してきたインドのホテルチェーン「OYO(オヨ)ホテルズ・アンド・ホームズ」の
総額20億ドル超の一連の資金調達ラウンドだ。この過程で、わずか2年前には10億ドル以下だった
オヨの評価額は100億ドルに膨れ上がった。これに伴って、ファンドの帳簿上の利益も拡大した。
10月に発表された直近の資金調達ラウンドでは、ビジョン・ファンドが8億ドルの投資を主導し、
オヨへの出資比率を45%から48%に引き上げた。
しかし、事情に詳しい関係者によると、ソフトバンクの孫正義会長は、25歳のオヨ創業者の債務を
保証する形でさらなる支援を提供した。オヨ創業者はその資金を使って同社に20億ドルを投資し、
セコイア・キャピタルやライトスピード・ベンチャー・パートナーズなどのベンチャーキャピタルから
13億ドル相当の株式を購入するなどしたという。セコイアとライトスピードはコメントを差し控えた。
関係者によると、孫氏はそれ以降、将来のオヨへの投資に関する決断から身を引いているという。
オヨの広報担当者は、孫氏による債務保証に関する質問へのコメントを差し控えた。ソフトバンクの
広報担当者は、勝ち組企業の資金調達ラウンドを連続して主導することはベンチャーキャピタルにとって
通常の慣行だと述べた。
これらの投資は、うまくいけば多額の利益を生む可能性がある。孫氏は何十年にもわたって期待の
新興企業に賭けており、少なくとも1件で大きな成功を収めている。中国の電子商取引大手アリババだ。
同社の企業価値は現在、1000億ドルを超えている。
ビジョン・ファンドもいくつかの賭けで成功を収めている。インド電子商取引企業フリップカートの
ウォルマートへの売却では15億ドルの利益を得た。6月末には、同ファンドのポートフォリオ内で上場を
果たした企業(ウーバー・テクノロジーズやがん検査のガーダント・ヘルスなど)の価値が、前年から
2.6倍に拡大したと発表した。しかし、そうした企業の中には、それ以降株価が低迷しているところも
ある。
事情に詳しい関係者によると、ワグは7500万ドルの資金しか求めていなかったが、2018年1月に
ビジョン・ファンドから説得されて3億ドルの出資を受けることになった。ワグの従業員はその資金で
急成長しているオンデマンドのペットサービス業界を支配し、ライバル企業のローバー(Rover)を
打ち負かせるだろうと考えていた。しかし、ローバーはほどなくして自社で1億ドル以上を調達し、
ワグの資金調達面でのリードが失われた。
ビジョン・ファンドの資金は、世界進出というワグの野心を実現し、散歩代行からグルーミング、
ペットホテル、ペットフードや動物病院などといった関連サービスに事業を拡大するのを後押しする
はずのものだった。
ファンドによる投資とほぼ同じ時期にワグの新最高経営責任者(CEO)に就任したヒラリー・
シュナイダー氏は、こうした野心を実現できなかった。調査会社セカンド・メジャーのクレジット
カード・データによると、同氏の就任以降、売り上げの伸びは停滞している。ローバーの売り上げは
ワグより多く、増え続けている。
現在、ワグは身売りを試みているが、ビジョン・ファンドに近い人物らによると、その金額は
ファンドが投資した際の評価額6億5000万ドルを大きく下回る公算が大きい。交渉に詳しい関係者に
よると、既にローバーからは断られているという。
ワグに初期段階で投資していたブルペン・キャピタルのダンカン・デービッドソン氏は、
「ワグは新たなカテゴリーを作り出した極めて刺激的で高い成長率の会社だった。しかし、ソフト
バンクが来たとき、あらゆる階層で彼らが管理職を採用し、ビジネスの性格を変えてしまった」と
指摘した。
ワグ取締役会からの説明によれば、シュナイダーCEOは顧客による利用体験の改善に重点を置き、
強いリーダーシップに根差した組織の構築と犬の散歩代行サービスの収益率改善に努めた。取締役会は
声明で「ワグの取締役会と経営陣は会社の方向性に十分自信を持っている」としている。
またビジョン・ファンドは屋内農業のプレンティに対しても、当初求められていた1億ドルの投資額を
2倍に引き上げた。目標の1つは世界展開で、手始めに日本、中国、アラブ首長国連邦(UAE)での
事業を検討していた。プレンティの広報担当者によれば、経営陣は1年ほど前、ファンドが望むような
速いペースでの成長は困難と判断し、少なめのスタッフの維持、技術部門への傾注、国際事業計画の
延期を決定した。
ビジョン・ファンドは2018年末には車リース会社フェアに対する3億8000万ドル超の出資を主導。
競合する多くの企業の調達額を上回っていたが、複数の元社員によれば、同社は1年もしないうちに
その資金の大半を使い果たした。
フェアは一般利用者向けのほか、ビジョン・ファンドの投資先の1社であるウーバーの運転手向け
にも車を購入し、リースしている。フェアに近い関係者によれば、同社向けの資金は、ウーバーが
より多くの運転手を確保する上で助けになると考えられていたという。