次期米大統領が直面する多難な外交
ジレンマが複雑に絡み合う世界情勢にどう対処すべきか
2016 年 11 月 9 日 12:28 JST THE WALL STREET JOURNAL
米大統領選の勝者はここ30年で最も複雑でリスクの高い一連の外交政策課題を引き継ぐことになる。米国は今、対ロ・対中関係の緊張化、中東の不安定化、北朝鮮の核兵器開発、テロの拡大、難民危機、欧州の政治的・経済的な不透明化などに直面している。
次期大統領は激動の世界情勢をどうかじ取りしていくのか。米国の同盟諸国がそれを慎重に見守るのはもちろんのこと、米国内にも重大な結果をもたらす可能性がある。いずれの課題もリスクと他の政策への影響をはらんでいる。
例えば、ロシアやイラン、トルコに対してより強硬な策を取れば、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する米国の戦略やシリア内戦終結に向けた取り組みにも影響する。
次期大統領は、オバマ大統領の対イラン政策を巡って緊張した関係を修復するため、中東の同盟国――イスラエルと湾岸諸国――を安心させるための措置を検討する可能性もある。一方で、イランの核兵器開発計画を棚上げするとした2015年の合意を同国に確実に順守させる必要もある。
同じく、次期政権が対中関係にどう対処するかは、危機をはらむ2カ所の地域に影響を及ぼす。北朝鮮と南シナ海だ。
米シンクタンク、ウィルソンセンターの専門家で民主・共和両政権で国務長官顧問を務めたアーロン・デービッド・ミラー氏は、近年は他国が台頭しているため、米国の役割は以前よりも不明瞭になっていると指摘する。
同氏は「次期大統領は大きな賭けや達成見込みのない目標、不可能な任務に満ちた世界に対処していくことになる」とし、「世界は炎に包まれているわけではないかもしれないが、米国が軍事力や外交力を効果的に投射するのは以前よりもはるかに難しい情勢になっている」と述べた。
大きな課題は北朝鮮とロシア
現政権の当局者は、オバマ大統領の後任が直面する最も重大でリスクの高い課題は北朝鮮とみている。当局者の多くは、次期大統領は北朝鮮政策を包括的に見直し、軍事的なものを含めあらゆる選択肢を検討対象にすべきだとひそかに考えている。北朝鮮は5回の核実験のうち4回をオバマ政権の間に実施し、過去10年にわたってミサイルなどの実験を繰り返している。
米国は北朝鮮の核兵器開発抑制のカギを握るのは中国とみている。ただし、中国が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長に対して実際にどれだけ影響力を持つかは議論の余地がある。しかし、中国の南シナ海での海洋権・領有権の主張を巡る米中関係の緊張化は北朝鮮対策に影響しかねない。中国は軍の近代化や企業秘密の窃盗を目的としたサイバー攻撃も行っている。
次期大統領が直面する多くの課題の中心にあるのがロシアだ。
米ロ関係はシリアとウクライナの紛争を巡って冷戦後最も冷え込んでいる。オバマ政権は先月、ロシアがサイバー攻撃を利用して大統領選に影響力を与えようとしていると非難した。
次期大統領は、ロシアの強硬化にどう対処するかや、シリアやウクライナに関してプーチン大統領とどう協力していくかについて決断を迫られることになる。
トルコとの緊張 関係は
次期政権はISとシリア内戦に対する戦略をシフトさせる公算が大きいが、どのような戦略が浮上するにせよ、北大西洋条約機構(NATO)同盟国の1つであるトルコは、オバマ氏の政権就任時とは違った形で課題を突きつけてくることになる。
オバマ政権は、トルコのエルドアン大統領が7月のクーデター未遂事件後に政敵とマスコミを弾圧したことを受け、エルドアン氏が独裁色を強め、同国を民主主義から遠ざけようとしていると懸念を示している。
さらに、米国在住のイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師の引き渡しをトルコ政府が要求したことを受け、両国関係は緊張化している。エルドアン氏はギュレン師がクーデターを企てたと非難している。
ただトルコはイラクとシリアと国境で接しており、ISとの戦いの要所でもある。米国はISとの戦闘を実施するにあたってトルコの協力を必要としているが、シリアでクルド人部隊と協力するとの米国の決定を巡り両国間の緊張が高まっている。トルコは、同部隊を反政府武装組織「クルド労働者党」(PKK)の支部とみなしている。
米国はISの「首都」とされるシリア北部ラッカの奪還作戦を加速させ、クルド人部隊の作戦への参加を見据えているため、次期大統領はトルコとの緊張関係に迅速に対応する必要がある。