フェイスブックの監視を逃れるには
大手IT企業に収集される個人データを制限する方法
2018 年 3 月 9 日 09:55 THE WALL STREET JOURNAL
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「サイズ8のコールハーンの靴を試してもいいですか?」
その日の夜、 フェイスブック にコールハーンのパンプスの広告が表示された。まあ、多分偶然だろう。
「ハイテク体重計で一番いいのはどれ?」妻が大声で私に聞いた。
5分後、インスタグラムに体重計の広告が表示された。ちょっと待って、彼らは私の会話を聞いているの?
「あの小さな赤いスダフェッドの錠剤を飲みなさいよ」。筆者がくしゃみをした後に母が言った。
その日の午後、スダフェッドの広告を目にすることになった。そうだ、彼らは筆者の健康状態さえも盗み聞きしている。
フェイスブックとその傘下のインスタグラムの利用者の間では陰謀説が飛び交っている。フェイスブックがわれわれのマイクを
盗聴しているのではないかと。だが、それはない。
「フェイスブックではユーザーのスマートフォンのマイクを利用して広告を配信したり、ニュースフィードの表示内容を変更
したりすることはしていない」。同社はこう述べている。
まあフェイスブックはそう言うだろう。米国政府だってエリア51に宇宙人をかくまってはいないと言い張っている。そこで筆者は
フェイスブックの元従業員やさまざまな広告技術の専門家に問い合わせてみた。全員が技術的・法的理由で音声の盗聴は不可能だと
答えた。
それほど大量の音声データをアップロードし、精査するのは「たとえNSA(国家安全保障局)のリソースであっても厳しいだろう」。
元フェイスブックの広告ターゲティング製品担当者アントニオ・ガルシア・マルティネス氏はこう指摘。「彼らは単に言葉を聞き
取るだけでなく話の文脈を、理解する必要がある」。元フェイスブックの運用担当者サンディ・パラキラス氏はこう説明した。
筆者は彼らを信じる。だが、別の理由からだ。フェイスブックは今やユーザーのオンラインの行動やオフラインの活動でさえ巧みに
観察しており、盗聴する必要はない。フェイスブックとその広告主が収集している各種データのほか、筆者自身がフェイスブックに
引き渡している情報を詳しく調べたところ、上記のような気味が悪いほど的確な広告が表示される理由が分かった。
広告はフリーなインターネットの重要な要素の1つではあるが、広告を売買する企業は今やストーカーと化している。
われわれは彼らが何をしているのか、それを制限できるのか、できるとすればどのようにすればいいのかを理解する必要がある。
購入履歴
スダフェッドの広告が表示された発端は薬局の ウォルグリーン ズにさかのぼる。筆者はそこでティッシュとアフリン(風邪薬)を
購入した際、ポイントを獲得するためにレジ端末に電話番号を打ち込んだ。

ここから筆者が購入した製品に関する情報が拡散し始める。外部のデータ収集会社(おそらくニールセンカタリナソリューションズと
思われる)が、同社がウォルグリーンズから取得した購入履歴データにその情報を加える。
スダフェッドを製造する ジョンソン・エンド・ジョンソン が、データ仲介業者から購入履歴データを購入。フェイスブックの
ツールを利用して筆者のポイントカードの情報(電子メールアドレスや電話番号など)が、フェイスブックのアカウントと
照合される(データから個人が特定されないよう、データ仲介業者はアップロードする前に個人情報をアルゴリズムで精査して
いるとフェイスブックは述べているが、それでもフェイスブックのアカウント情報を照合することはできる)。
次にフェイスブックを通じて、ジョンソン・エンド・ジョンソンがスダフェッドや競合製品を購入した25~54歳の成人を
ターゲットにしようと決める。つまり、筆者だ。
すべきこと:ポイントカードを利用しない。あるいは、使用していないメールアドレスや電話番号を登録する。
フェイスブックはデータ仲介業者6社と直接提携しており、6社ともメールアドレスから購入履歴まで一切の個人データの共有を
オプトアウト(拒否)できるようにしている。
だが当然ながら、オプトアウトするのは簡単ではない。各仲介業者のウェブサイトに行き、必要なフォームに個人情報を入力する
必要がある。
位置情報
購入履歴よりも有用なデータは何か? 位置情報だ。ユーザーが訪れたことのある店の位置情報を基に再び来店を促す広告を
表示したり、その店のチェーン店の近くにいるユーザーにクーポンを送ったりできる。
スマホの衛星利用測位システム(GPS)や近くのWi-Fiアクセスポイント、IPアドレスなどのあらゆる位置情報シグナルを、
広告主がいかに利用してユーザーの行動を追跡しているかについては、同僚のクリストファー・ミムズが
知らずに売られるスマホ位置情報、その最前線 で詳述している。
すべきこと:フェイスブックに提供する位置情報を制限する。モバイルアプリ(iOSおよびアンドロイド)の場合、
「設定」→「アカウント設定」→「位置情報」とタップし、「位置情報サービス」と「位置情報履歴」をオフにする。
他のアプリがユーザーの位置情報を特定し、それを基にフェイスブックで広告が表示されることもある。したがって、アプリに
位置情報へのアクセスを許可する前によく考える必要がある。
iPhone(アイフォーン)の場合、「設定」→「プライバシー」→「位置情報サービス」とタップし、位置情報へのアクセスを
許可したアプリを確認する(位置情報へのアクセスは「許可しない」または「使用中のみ」に。「常に許可」にしない)。
アンドロイドの場合、「設定」→「位置情報」とタップ。
利用アプリ
妻がデジタル体重計について言及する数日前、筆者は自分のiPhoneに食事管理アプリ「Lose It!(ルーズイット)」をダウン
ロードした。それから24時間もたたないうちに、筆者のフェイスブックとインスタグラムのフィードはフィットネスと減量に関する
広告で埋め尽くされた。
無料版のLose It!には、フェイスブックの「オーディエンスネットワーク」(フェイスブックのターゲティング機能を利用して、
外部のアプリやウェブサイトにも広告を掲載できる仕組み)を介して広告が表示される。フェイスブック経由でアプリにログイン
していなくても情報は企業間でやり取りされている。筆者の場合、Lose It!の開発会社フィットナウが筆者のiPhoneに保存された
「広告ID」を使用して、フェイスブックのアカウントを含め、筆者の広告IDに関連したその他の履歴と照合していた。
フィットナウは、筆者がアプリを開いたときに、筆者の広告IDが「健康な生活」と「減量」に関連付けられたことを認めた。
筆者のフェイスブックの広告プロフィールでは現在、その2つがマークされている。
すべきこと:アップルは広告主が広告IDから得る情報をユーザーが制限できるようにしている。iOSの場合、「設定」
→「プライバシー」→「広告」とタップし、「追跡型広告を制限」をオンにする。さらに「Advertising Identifierを
リセット」も実行すべきだ。

アンドロイドの場合、「設定」→「Google」→「広告」とタップし、「広告のパーソナライズをオプトアウトする」を
オンにすればいい。
クリックまたはタップ履歴
当然ながら、フェイスブックには筆者のほぼ全てを知る手段がもう1つある。ウェブ閲覧履歴だ。ユーザーが何を閲覧したかを
広告主やフェイスブックに報告する「フェイスブック・ピクセル」というツールが、何百万ものウェブサイトやアプリに
インストールされている。調理道具のスパチュラを閲覧したあとにスパチュラの広告が表示されるのは、そのためだ。
ショッピングカートに何かを追加したり、商品や記事をクリックしたりすると、ピクセルがそれを検知する。
すべきこと:大手IT(情報技術)企業は、ユーザーの関心に基づいた広告をウェブの至る所で掲載している。
フェイスブックやアマゾン、グーグルなどは各社のウェブサイトでオプトアウトする手段を提供している。
フェイスブックの場合、「設定」→「アカウント設定」→「広告」→「広告設定」と選択し、このページの全ての
設定をオフにする。フェイスブックが過去に収集したユーザーの関心事に関わるデータも削除できる。
パソコンのブラウザーの場合は、「Ghostery(ゴースタリー)」または「Privacy Badger (プライバシー
バッジャー)」をインストールするといいだろう。こうした拡張機能を使用すると、ウェブページで実行されている
追跡ツールを確認し、無効化できる。
ユーザーの詳細情報
上記の情報に加え、フェイスブックやインスタグラムでのユーザーの行動履歴(どのページや投稿に「いいね!」を押したかや
誰と友達になっているかなど)を追跡することで、フェイスブックは各ユーザーの人物像をかなり把握している。
さらにデータ仲介業者からユーザーの給与や自動車の好み、自宅の大きさ、支持政党、消費習慣などのもっと詳しい情報も入手
している。
広告主は「フェイスブック広告マネージャ」にログインすれば、こうした詳細情報を利用してターゲット広告を始めることが
できる。
筆者でさえログインし、ニューヨーク市の特定の郵便番号地区の住民から家具や調味料を購入した人を特定することで、
「まもなく引っ越しする可能性が高い」人にターゲットを絞ることが可能だ。
すべきこと:フェイスブックを削除し、核シェルターの中ででも暮らさない限り、これを完全に阻止する手段はない。
フェイスブックの広報担当者ジョー・オズボーン氏は「広告ターゲティング機能を上手に利用すれば、広告効果を向上できる」
とし、「だからこそわれわれはターゲティングツールで広告主と個人情報を共有せず、ユーザー自身が表示される広告をコントロール
できるようにしている」と説明した。
問題は、こうした広告が表示される仕組みがまだ十分に透明化されていないことだ。現実に目を向ければ向けるほど、いかに
プライバシーがリスクにさらされているかを思い知らされる。盗聴はされていないにせよ、アプリのダウンロードやスーパーでの
買い物などは監視されているのだ。
そうは言ってもマイクがやはり気になるという人は、オフにすればいい。
iPhoneの場合は「設定」→「プライバシー」→「マイク」→「フェイスブック」、
アインドロイドの場合は「設定」→「アプリ」→「フェイスブック」→「許可」→「マイク」とそれぞれタップし、
マイクを無効にすればいい。

フェイスブックとその広告主がユーザーの行動をどのように監視しているかについて、ジョアンナ・スターン記者が解説する(英語音声、英語字幕あり)