駐韓国大使が一時帰国 少女像設置への対抗措置で
1月9日 19時14分 NHKニュース
韓国プサンの日本総領事館の前に慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたことへの対抗措置として、政府が一時帰国させることにした韓国に駐在する長嶺大使が日本に到着しました。一時帰国した長嶺大使らは9日夕方、外務省で金杉アジア大洋州局長らとおよそ1時間、今後の対応を協議しました。
政府は韓国プサンの日本総領事館の前に慰安婦問題を象徴する少女像が新たに設置されたことへの対抗措置として、韓国に駐在する長嶺大使を9日、一時帰国させることを決めました。
長嶺大使はソウルのキンポ空港からの出発前記者団に対し、「少女像が設置されたことは極めて遺憾だ。これから日本に帰国し、関係者の間で打ち合わせをすることにしている」と述べました。
このあと長嶺大使はソウルを出発し、午後2時すぎ、羽田空港に到着しました。
また、長嶺大使とともに一時帰国することになった森本プサン総領事も9日午前、日本に到着しました。
政府は慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決することを確認した、日韓両政府の合意に反しているとして、少女像の撤去を求めています。
一方、韓国政府は日韓合意を着実に履行する立場ですが、パク・クネ(朴槿恵)大統領の職務停止で求心力が低下する中、撤去に踏み切れば世論の強い反発を招くとの懸念もあり、具体的な解決策を示していません。
一時帰国した長嶺大使と森本プサン総領事は9日夕方、外務省で金杉アジア大洋州局長らとおよそ1時間、今後の対応を協議しました。
協議の内容は、明らかになっていませんが、少女像が設置された後の韓国政府の対応など現状を分析したうえで、少女像の撤去に向け、韓国政府への働きかけをどのように進めていくかなどを協議したものと見られます。
長嶺大使は協議のあと記者団に対し、「打ち合わせはしました」とだけ述べました。
長嶺大使らは10日、外務省の杉山事務次官らと改めて協議したうえで10日以降、安倍総理大臣に報告することにしています。
韓国メディア「安倍首相の攻撃に政府は素手」
日本政府が長嶺大使を一時帰国させたことについて、韓国メディアは、韓国政府が対応に苦心していると伝えています。
公共放送KBSは9日昼のニュースで、「韓国外務省は今回の日本政府の措置に対し遺憾の意を表明し状況を見守っているが、今後、どのような対応をとるべきか苦心している」として、打開策を見いだせていないとの見方を伝えました。
さらに、安倍総理大臣が8日、NHKの「日曜討論」で慰安婦問題について、「日本は誠実に義務を実行し、10億円をすでに拠出している。次は韓国がしっかりと誠意を示して頂かなければならない」と述べたことを伝え、「今回の摩擦を解決するのは簡単ではないという分析が出ている」としています。
また、9日の朝刊各紙も日本側の対抗措置について詳しく報じています。有力紙の東亜日報は1面で「安倍総理大臣の攻撃に政府は素手」とする見出しで、「韓国政府は状況が落ち着くことだけを待っていて、長嶺大使の一時帰国は無期限ではないため、事態が収束すると考えている」として、韓国政府が消極的な対応に終始しているとの見方を伝えました。
コリアンタウン広がる新大久保では心配の声
コリアンタウンが広がる東京・新大久保ではこれまでも日韓関係の影響を受けてきたとして、今後を心配する声が出ています。
新宿韓国商人連合会によりますと、新大久保は一時の韓流ブームによって韓国の料理や化粧品などを扱う店の出店が相次ぎ、大きなにぎわいを見せていました。しかし5年前、当時の韓国のイ・ミョンバク(李明博)大統領が島根県の竹島に上陸し、日韓関係が冷え込んだ影響で客足が大きく落ち込みました。
最も多いときで500以上あった韓国関係の店の3分の1近くが閉店し、最近では、それに替わってインドやベトナム料理などの店が出店する動きが出ているということです。
連合会のシン・デーヨン専務理事は「これまで新大久保は日韓関係の影響を少なからず受けてきた。今回、大きな影響があるかはまだ分からないが、新大久保の人たちはみな日本も韓国も大好きで集まってきているので、政治的な関係に振り回されないよう信頼関係の強い街づくりをしていきたい」と話していました。
出店準備を進める日韓の男女は
一時に比べて韓国関係の店が減った東京・新大久保ですが、街の一角では、日本人の女性と韓国人の男性が共同で韓国料理の店を出そうと準備を進めていました。
坂野椿さんとビョン・ジュンヨンさんはそれぞれ韓国語と日本語を勉強するうちに知り合って意気投合し、韓国にいたビョンさんが来日して店を出すことにしたということです。
店は、来月開店する予定で、2人は店内を掃除するなど準備作業に追われていました。
ビョンさんは「慰安婦問題についてはおととし、話し合いが終わっているはずなのにまた、同じ話を繰り返すのはおかしいと思うし、韓国は約束を守るべきだ。日本が大好きで、日本人と一緒に店を出す予定なので、国どうしの複雑な関係にかかわらず、日本と韓国が一体となって街を盛り上げたい」と話していました。
坂野さんは「ピークの頃に比べたら新大久保の街もにぎわいが減ってきているように感じるので、今回のことがどのくらい影響があるのか心配だ。国をこえて一緒に店を出せることがとてもうれしいし、多文化な店にしていきたい」と話していました。
中国 日本の対応を批判
韓国政府の対応を受けて、政府が韓国に駐在する大使を一時帰国させるなどの対抗措置をとったことについて、中国外務省の陸慷報道官は「慰安婦問題は日本の軍国主義の分子による犯罪行為だ」としたうえで、「日本側はいつまでたってもこの問題を乗り越えられないのはなぜなのか、深く反省する必要がある」と述べて、日本側の対応を批判しました。
そして、「日本の指導者はわざわざ遠い真珠湾を訪問して慰霊のための活動をしながら、第二次世界大戦中に最も深く傷つけたアジアの隣国に対しては無視する態度をとった」と指摘するとともに、「日本は歴史を反省する際に肝心な問題で言葉をはぐらかしている。歴史の重荷から解放されたければ、実際の行動によって国際社会や特にアジアの隣国の信頼を勝ち取るべきだ」と述べました。
「少女像」プサンの総領事館前が55か所目
慰安婦問題を象徴する少女像は、元慰安婦を支援している韓国の市民団体、挺対協=挺身隊問題対策協議会が2011年12月、集会が1000回目となったのにあわせ、ソウルの日本大使館前に初めて設置しました。
その後、各地の市民団体が役所や観光地など韓国各地に同じような少女像の設置を進め、今回のプサンの日本総領事館の前が55か所目だということです。
像の形などはそれぞれ異なりますが、日本大使館前に設置された少女像は、高さ1メートル20センチの銅像で、韓国の民族衣装を着ており、慰安婦とされた少女の姿をイメージしているということです。
また、日本大使館をまっすぐ見つめ、両手を握りしめている姿で怒りの気持ちを表し、はだしなのは、慰安婦として受けた苦痛や社会からの偏見でやすらかな気持ちで地面を踏むことができない無念の思いを表したとしています。
今回問題となっているプサンの日本総領事館前の少女像も同じような形のもので、地元の学生などでつくる団体によって設置されました。団体ではおととし12月の日韓両政府の合意の撤回や日本政府の謝罪などを要求するため、日本総領事館の前に設置したとしています。